8.8話 茶会の招待
「……こんな虚報など鵜呑みにするんでない。」
「で、でも!お姉様、記事は両国に広く渡ってしまっていますよ。だ、誰がこんな事を……」
戸惑いを隠せず、王室の床を地団駄し、言葉を早くするのは妾と同じ血を通わす四姉妹の一人。
妾とは二つ離れたアウルム王女だ。
「シュルツ外交官だろうな……彼奴の指示の元に作られたのだろう。」
「――癖者を嫌う者の所業でしかない。」
騒いでいるのは
ユパロンの大舞踏会翌日、ポロペとユパロン両国に大きくばら撒かれた号外じゃ。
『驚愕 ユパロン王子、謎の癖者に恋敗れる!!』 となんと馬鹿げている見出しじゃな。
「ど、どうしましょう……姉様。だってほら、可笑しな風説が出回っては姉様の顔も国家の顔も立ちませんよ!」
忙しなく騒ぎ立てるアウルムを前に妾は動じなかった。どうせ、数日経てば鎮まるだろう。
弁明も今は不要じゃ。
ただ、問題なのはベレッタの風当たりじゃな。
(あの外交官、何を考えておる……)
「ね、姉様……鬼相の様な表情ですよ。もう、またそうやって集中する時に爪を噛む癖も辞めて下さいお姉様!」
アウルムは億劫そうに妾に注意した。
あぁ、またやってしまったらしいな。
目を鋭くし爪を噛む、この癖は妾が最も直さないといけない癖じゃな。
身内以外の前で何とか堪えているが、やはりそれ以外はやってしまう。
――コンコン
「居室にて御寛ぎ中、失礼致します。ティーポットでございます。」
ノックが二度聞こえティーポットの中低音が耳にスッと壁越しから聞こえた。
「なんじゃ?入って良いぞ」
扉が開き、ティーポットが見える。
その手には何やら封蝋が目立つ手紙を持っていた
「先程、『モ•ルエニラ国』から使者が訪問されたのですが、手紙を受け渡して直ぐに去って行きました。」
「そうか、モ・ルエニラから……」
「あ、あそこって確か独裁国家でしたよね?美女に危険な相手ではないですか?」
アウルムが妾やティーポットに申した。
確かにアウルムの言う通りモ・ルエニラはオルキスと名の男が統治している。
「まずは手紙の内容を見てからじゃな……」
何も狼狽えていない様子であったが、ティーポットは静かに手渡した。
その赤い封蝋を剥ぎ取り、紙を取る。
「なんでしたか?……姉様。」
――ポロペ国の女王、その一族に招待す。
モ・ルエニラ国との友好深める茶会へと――
「茶会じゃ……」
「え?」
国家交流と言うのは均衡を保つにも、広げるのも深めるにも地盤が不安定だ。
一つの所作や言葉、態度からで誤解や筋違いに捉えられる可能性がある。
本来の意図から外れる事なんて少なくない。
今回のベレッタとの舞踏も本来は癖者の地位向上を試みた事だ、確かに無謀であったかもしれないが行動しなければ、示さなければいけなかったのだ。
「ただ、オルキス殿が何を意図して提案したのかは不明じゃな……何が狙いじゃ?」
わざわざポロペ国に使者を寄越し手紙を届けたのだ、素直に親睦を深める楽しい茶会になるとは微塵も思わん。
そして独裁国家じゃ、恐怖で支配力で国を統べる狡猾さと戦略性、行動力があるだろう。
一筋縄じゃいかないな。
「茶会は一月後じゃ……ティーポット、参加する旨を伝える手紙をしたためるてくれ。」
「御意に。」
――さあ、また厄介な外交じゃ