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癖者好き女王と紳士な銃男  作者: 秋浦ユイ
《第1部 護衛編》炭鉱国家の大舞踏会
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8.5話 女王の面汚し

 今日は王宮門の警備を任された。

 昨夜の出来事から明けて、少し自分がした行動に恥じらいを感じてしまったが舞踏を共にさせてもらい、とても光栄だったのは変わらない


「お前さんよぉいい気になってんじゃねぇぞ?」


 一人の傭兵が、ワタクシの元へ態度悪く啖呵を切ってやってきた。

 一番初めに此処で出逢ったトカゲの傭兵だ。


「女王の護衛に任命されたかと思えば、あん?ユパロンの大舞踏会で女王とダンスだ?笑わせてくれるなぁ〜」


 なぜ、この者は昨夜の事を知っているのだ?

 誰かが漏らしたのか?

 だか、大広間にいたのはワタクシとティーポットしかいない。


「なぜ、それを?」


 薄気味の悪い歯をちらつかせ、手に持った紙をワタクシに見せびらかした。


「知らないとでも思ったか?銃野郎が!」


 その紙の内容は

『驚愕 ユパロン王子、謎の癖者に恋敗れる!!』 

 と大きく見出しがあり、女王との舞踏とゴルド王子が振られたなどと出鱈目が書き綴られていた。


「こんなの虚報だ。」


「うーんとなぁ、お前なんにも分かってないな」

 

 彼は首を回して、呆れたため息を吐いた。

 長い舌を口回り舐めた。

 ワタクシを威嚇を示している様に思えた。


 張り詰めた空気が辺りを漂う


「まあ、どうでも良い。どうせ三ヶ月もすればお前は俺らと何ら変わらないし!王宮内の自室も取り上げられる!」


「気をつけろ?お前が護衛として――」


「少し聞いていいですか?」


 饒舌に彼は話すが、それよりワタクシが気になるのは……


「この記事は国民はどう捉えられていますか?」


「あん?」

 素っ頓狂な声を表しにして目を点にした。


「どうなのでしょうか……そして、この記事はユパロン国にも出回っていますか?」

 

 ただワタクシは知りたい。

 女王の尊厳や威勢が崩れて神聖なる王位継承者の面に泥を塗ってしまっていないか

 ワタクシは知りたかった。


「確かユパロンにもコレが回されたって言うのは聞いたなぁ……あぁ、怖くなったか?国民に確かめて見ればいいじゃねぇか、あん?出来ねぇか、出来ねぇだろうな!」


「なにせお前自身、忌み嫌われて!国民に寄り付かれなくなる現実に直面しちまうからなぁぁ!」


 身体が勝手に動き出した。

「あ、お前!どこ行く!仕事放棄か!」

 

 振り返る事は出来ず

 王宮から離れたという事実だけが頭に残る。

 ただただ今は風の様に掛け走りながら、想う


 ――女王の面汚しになっていないかが一番。


 ポロペの国においてワタクシの悪評が広がるのは最早どうでも良かった。

 この国で熱が集中しているのはワタクシの方。


 女王の評価が落とされるとすれば


 ユパロン国だ――


 本国から諸国へとは馬車で三十分ほど。

 

「あの、すみませんが……今からユパロンに向かう事は可能でしょうか」

 

 直ぐにユパロンへと出発をしたい。


「え、あぁ……イイけど、癖者が一人で行くにはお勧めしないな。今日の号外、君も見たでしょ?ポロペ国や癖者のヘイトがたまらないよ?」


「ええ、ですから行くのです。」


 急遽の事で馬主も混乱していたが、何とか説得をしてユパロンへと向かった。


 馬車に揺られる中、揺ら揺らと視界が動く。

 時折り、その視界にボンヤリと女王の姿が見える


 コレでは、友好であった関係性も悪化しかねない。そうなった場合、ワタクシだけじゃなく女王にも責任の矢印が向き最悪の場合、崩壊する。


 ――ワタクシがどんなに罵倒されようが貶されようが、正直慣れているし癖者であるから肩書きにも傷など付かない。

 故郷に帰されては仕方がないが……

 そこは腹を割るしか無い。


「んでもさぁ、皆んな過敏になりすぎだよ。」

 手綱を握る馬主がワタクシに語りかける

 ワタクシは布も何も覆われていない荷台に寄り掛かりながら、興味本位で話を聞く。


「王族が!だとか癖者が、平民がって身分で騒ぎ立てたりさ……人生なんて、もっと自由でいいんだよなぁ。」


「過敏……ですか」


「そうそう、隣の王子様は社交辞令の数分間の舞踏だけ、かたや、話題の癖者も数分間の女王との舞踏。それって別に女王も癖者も王子も誰一人として咎める様な出来事じゃないよね。」


「実際その癖者は護衛兵だったらしいじゃないか、女王に共に踊ろう!なんて言われて断れる護衛兵なんて、そうそういない訳でさ〜」


 赤裸々に話す馬主は社会を一歩引いて見ていた、確かにその論は的を得ていない訳ではない。

 身分だとかで全てを決めつけるのはどうなのだ?


「それでも、ワタクシは思います」


 ワタクシは映るめく景色に目を流し、駆けて行く澄んだ空気を逃さず吸い上げた。


「人は区別しなければ、判断しなければ……秩序は保もてないのですよ。だからワタクシ達は神も王族を敬い信じるのです。一握りの人生を無駄にしない為にも……」


「……そうなのかい、窮屈だねぇ〜僕達、人間は」


 時は流れる、ただ流れる。

 揺れる荷台の上、涼しい風と心地よい温度がワタクシを静かに撫でて眠りに誘うけれど。

 ワタクシは瞼を閉じる事はなかった。


「さあ、着いたよ」


「ありがとうございます。」

 馬主は国の正門前に馬車を止めてワタクシを下ろすのだが、表情は浮かない

 

「本当に、気をつけるんだよ?折角、癖者の認識が変わってきたユパロンだったのになぁ……どうしてこうなっちまったんだよ」


 ワタクシは、いつもの故郷の礼儀をする。


「大丈夫です……全て、ワタクシが何とかして見せましょう。」


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