潜入指令
数日経って、真夜中に先生からLINEのメッセージが届く。
「見つけたわよ」
マジか。やはりあの教師、ちょっと頭がおかしいぐらいの調査力を持っている。
彼女の言う「見つけた」とはパイプ役となる裏切り者の存在だろうか。とりあえずその線で返信を打ってみる。
「誰だったんですか?」
「まだ分からない。アポをとっただけ」
「アポ?」
「ええ。私がオッサンに成りすまして、ホ別5ゴ有りって送ったら一気に喰いついたわ」
先生の言っている意味は「ホテル代はオッサンが出してそれにプラス5万円を出す。セックスはゴム付きでやりますよ」ということになる。売る側からすればかなりの好条件だ。
さすがに5万は破格だったか、ターゲットは疑いもせずに喰いついた。そこの甘さはさすが中学生といったところか。先生が見つけたのは間抜けな女子生徒のようだった。
「後はその子から情報を引き出すだけね」
「さすが早いですね。でも、先生が現場に行ったら目立ちませんか?」
大葉キラは美人だが、あんなAVから抜け出てきたみたいな女教師がラブホテル街を歩いていたらそれはそれで注目を集めてしまう気がする。最悪の場合、それで犯人に警戒されて、ふりだしに戻ってしまう可能性もある。
「何言ってるのよ。そんなの安藤君がオッサンの役をやるに決まっているじゃない」
――は?
スマホを持ったまま、俺は思わず固まった。
「いや、だってこの作戦は先生が考えたんでしょう?」
「私は頭脳労働班。あなたは現地で体を張る係。これも立派な分業よ」
「俺、失敗したら逮捕されるんですか?」
「そんなの少年法がいくらでも守ってくれるわよ。同級生を金で買ったぐらい、警察は屁とも思っちゃいない。大丈夫、変装セットは容易してあげるから。付けヒゲとか」
理詰めで外堀を埋められて、俺がオッサンに扮してターゲットと接触するしかない方向に話が進んでいた。マジか。少し前まで番長だったのに、俺はここでおとり捜査員として同級生の女子を金で買うのか。どんな人生だ。
だが、今さら引くことは出来ない。ここでイモを引けばまたボコボコにされるに違いない。最悪、命を奪われる可能性も。……童貞のままでは死にたくない。
そう思った俺は、素直に先生の命令に従うことにした。
「それじゃあ、作戦は今夜だからよろしくね」
「え、今夜ですか?」
「何言ってるの。善は急げって言うでしょ?」
――果たして、善なのか。
そんな思いは、俺の脳裏をゴシック体で通り過ぎてそのまま消えていった。
ともかく、俺は今夜にも覚悟を決めないといけない。
でも、ワンチャン童貞を卒業出来る可能性もあるので、考えてみれば悪い話じゃない。
「かわいい娘だといいな」
誰にともなく呟き、俺はグーグル先生で「初体験 やり方」を検索した。