死のパイナップル
「着いたわね」
先生の運転するバイクの後ろに乗って、夜の高級住宅街に来た。後ろから先生の柔肌を堪能したが、冥途の土産としてはちょっと割りが合わない気がしないでもない。これで死ねば俺は童貞のまま命を落とすことになる。
夜の住宅街は静かだったが、一ヶ所だけ騒がしい家があった。白い壁で囲まれていることもあり、一見集合住宅に見えるほどの大きさだが、よくよく見ると大きな一軒家だ。あの白い壁の向こう側では真っ黒な犯罪が行われている。
「生意気な家に住んでいるじゃない。全部ぶっ壊してやるわ」
大葉先生はおおよそ教育者に似つかわしくないセリフを吐く。
「でも、応援が来るまでちょっと時間がかかると思いますよ。それまでどうします?」
いくら応援が来るとはいえ、武器を集めるなど準備があるからそれなりに時間がかかるだろう。
「バカ言ってるんじゃないわよ。すぐに突っ込むわよ」
「は?」
一瞬俺の耳がおかしくなったのかと思ったが違った。先生はすでにカチコミする気が満々の状態だった。
「いや、だって二人しかいないし」
「何言ってるのよ。だから私たちにはここがあるんでしょう?」
先生は自分の頭を指さす。いや、待て。何人もいる半グレ相手に二人でカチコミとか、バカの極みでしかないだろう。
そう思った刹那、先生が黒いパイナップル状のものを取り出した。
「それ、何です?」
「見たことないの? 手榴弾よ」
――そういうことじゃねえよ。
俺の脳内ツッコミもむなしく、先生は手榴弾のピンを抜くと騒がしい白い家へと投げ込んだ。ドン引きするぐらいの剛速球の後、爆発音とともに悲鳴が上がった。
「うわ」
俺はもう笑うしかなかった。手榴弾で悲鳴が上がる光景なんか、ゲームぐらいしか見たことがない。
先生はもう一つ胸元から手榴弾を取り出すと、やはり剛速球の勢いで投げ放つ。再び白い家から悲鳴が上がる。
「行くわよ」
先生は返事を待たずに飛び出した。もう深く考えるのはやめようと思った。