8.副会長の綾瀬さん
そしてこの日以来、ファンの子から贈られた食材を私がもらう代わりに、白夜くんは時々うちに来ては、晩ご飯を食べていくようになった。
だけど学校では、私と白夜くんの関係に気づく人はいなかった。
無理もない。白夜くんと私はクラスも違うし、普段は全然接点なんてないんだから。
まあ、私もその方が安心なんだけどね。
下手に学校で話しかけられて、白夜くんのファンの子たちに恨まれても困るし。
そんな事を考えながら教室でお昼を食べていると、沙雪ちゃんが私の肩をたたく。
「ねえねえ、お昼食べたらこの間のテストの成績表見に行こうよ」
「テストの成績表? あ、そっか。もう張り出されたんだっけ」
うちの学校では今時珍しく、毎回テストの成績が廊下に張り出されることになってる。
……とはいっても上位だけだし、私には関係ないんだけどね。
「私、今回こそは上位に載ってる気がする」
沙雪ちゃんが自信満々に拳を握る。
どうやら手ごたえがよほどあったらしい。
廊下に出ると、テストの順位表の前にはもうすでに黒山の人だかりができていた。
「見て花、私、三十位に名前が載ってる!」
沙雪ちゃんがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「よかったね、沙雪ちゃん」
私はと言えば……当たり前だけど名前はなかった。
ま、そうだよね。
「あ、白夜くんまた一位だ。すごいなあ」
紗雪ちゃんが一位の欄を指さす。
そこには大きく『白夜港』とかかれていた。
わあ、分かってたけど、本当にいつも一位なんだ。すごいなあ。
そんなことを考えていると、急に辺りがざわめいた。
「白夜くん!」
沙雪ちゃんが声を上げる。
見ると、ちょうど白夜くんが順位表の前にやって来たところだった。
順位表の前にいた人たちが自然に後ずさりし、白夜くんに道を開ける。
「白夜、また一位だな」
「すげー!」
クラスメイトらしき男の子たちが白夜くんに声を上げる。
「……ああ、そうだね」
白夜くんが頭をポリポリ書きながら無表情に答える。
何が「そうだね」だよ。スカしちゃって。
そこへ一人の女子が白夜くんに駆け寄ってきた。
「白夜くん、今回も一位だね。おめでとう」
長いサラサラのストレートヘアーに白い肌、長いまつ毛に大きな瞳の美少女。
あ、あの子。生徒会副会長の綾瀬梨花ちゃんだ。
「見て、綾瀬さんよ」
「副会長だっけ? テストの順位も三位だしすごいよね」
「梨花ちゃん、相変わらず可愛い!」
白夜くんファンの女の子たちがさわぐ。
「お似合いだよね、あの二人」
沙雪ちゃんもため息をつく。
「そうだね」
私は綾瀬さんをじっと見つめた。
長いサラサラの黒髪に真っ白な肌。
赤い唇に、大きな目。
まるで白雪姫みたい。
綾瀬さんは美人なだけでなく、成績もいつもトップクラスで運動神経も良い。
その上、社長令嬢でおしとやか。
白夜くんファンの子たちも、綾瀬さんには敵わないって思ってるみたい。
言ってみれば、公認カップルって感じ?
私は白夜くんの顔をチラリと見た。
白夜くんはいつも通り、完璧王子ですって言うすました顔で綾瀬さんと話してる。
私はその顔を見ているうちに、なんだかすごくイライラしてきた。
ふんだ。
なにあの作り笑顔。
私といる時とは全然ちがう。
相手が美人だから?
家にいる時はスウェットにメガネで王子様とはほど遠いくせに。
……でもあんな公認の彼女みたいな子がいるのに、私の家になんて来ていいのかな?
私が悶々としていると、白夜くんがこちらへ振り向き、笑顔で手を振った。
――やば。見てたのバレた。
私は小さく手を振り返すと、慌てて目をそらした。
「今、白夜くん、花に手振ってなかった?」
沙雪ちゃんが目を丸くする。
「ま、まあ、この間取材したし、一応気を使ってるのかもね」
私は苦笑いをして胡麻化した。
言えないよ。
白夜くんが毎日うちに来てご飯を食べてるだなんて。
私はチラリと白夜くんを覗き見た。
すると今度は、綾瀬さんとばっちりと目が合ってしまう。
その顔は、白雪姫と呼ばれる美女とは思えないほど険しい表情に見えた。
――き、気まずい。
「行こっ、沙雪ちゃん」
私はぐいと沙雪ちゃんの腕を引っ張った。
「う、うん」
二人で教室に帰りながら、私は心の中で叫んだ。
もう、白夜くんたら、みんなが見てる前であんなことしないでよー!