6.取材の効果
翌週、白夜くんのインタビューを載せた学校新聞が発売された。
「五十鈴先輩、購買の新聞、もう売り切れでしたよ」
購買委にいた紬くんが大慌てで部室に走ってくる。
どうやら新聞がもう無くなっちゃったみたい。
「ええっ、もう? 大変、もっと刷らないと」
「はい!」
私は新聞部の部室でコピーを取り、紬くんはコピー機のある職員室に急いだ。
「これだけあれば大丈夫だと思うけど」
私はどっさりと刷った新聞を購買に補充した。
「でも、またお昼休みには無くなっちゃうかもしれませんね」
紬くんがげんなりした顔をする。
「でも先輩、あの生徒会長によく独占インタビューなんてできましたね。教室にも生徒会室にも、いつ行ってもいないのに」
そりゃ白夜くん、いつも居留守使ってるからね。
「実は生徒会長が私の住んでる学生寮に引っ越してきてさ、それでちょっと仲良くなったの」
私は部屋が隣同士なことやお弁当を作ったことは隠して紬くんに説明した。
「えっ、そうだったんですか!?」
紬くんが大きな目をさらに見開く。
「仲良くって……それでまさか、先輩、生徒会長のことを好きになっちゃったんじゃ」
「いや、ないない。ありえないから!」
「ふーん」
私は必死で否定したんだけど、紬くんは不満そうな顔。
「とにかく、ありえないから!」
私はきっぱりと言い放った。
そうだよ、ありえない。
いくら顔がいいからって、そんなに簡単に男の人のことを好きになんてなるはずがない。
クラスに戻ると、今度はクラスの女子たちに囲まれる。
「あ、花!」
「このインタビュー記事、超良かった!」
「あまってる新聞あったらちょうだい!」
「私にも!」
私は予備に持っておいた記事を何枚か友達にあげた。
「足りない分はまた後で刷るから」
「うん、ありがとー」
一つの新聞を数人で固まって読む女子たち。
「料理が苦手だって!」
「きゃあ、私、何か差し入れ持ってっちゃおうかなあ」
「私、お母さんに頼んでみようかなあ」
良かった。
白夜くん料理苦手だって言うから心配してたけど、この記事を読んだ女の子たちが差し入れしてくれるのなら、白夜くんの食べるものも何とかなりそう。
また部屋の前で倒れられたら困るもんね。
……これで私がお弁当を作る必要もなくなるかな?
そう考えると、なぜだかすごく寂しいような気がした。
***
「あっ、五十鈴さん、おかえり」
放課後、学生寮に帰ると、白夜くんが紙袋をいくつも抱えて部屋の前に立っていた。
「すごいね、新聞の効果。これで食べるものに困らなそうだ」
いくつも袋やダンボールを部屋の中に運ぶ白夜くん。
私が袋を運ぶのを手伝っていると、白夜くんは笑ってこう言った。
「こんなに食べきれないから、五十鈴さんが欲しいのがあったらあげる」
「わあっ、本当?」
お言葉に甘えて、白夜くんの部屋に上がりこむ。
「それじゃあさっそく」
手前に置いてあった差し入れの袋を開ける。
「わあ、見て、肉じゃがだあ。美味しそう」
私がタッパーに入った肉じゃがを見せると、白夜くんはイヤそうな顔をした。
「それ、欲しかったらあげるよ」
「えっ、どうして。食べないの?」
美味しそうだけどなあ。
私が不思議に思っていると、白夜くんはこう続けた。
「……食べないよ。だってファンの作ったものなんか何入ってるか分からないしね」
「もったいないなあ」
私がタッパーを開けて中身を確認していると、白夜くんはポツリとつぶやいた。
「前に実際にあったんだよね。おまじないとか言って髪の毛入れたり血を入れたり」
「うわ、それはイヤだなあ」
そっか。それで他人の作った料理は受け付けないんだ。
モテモテなのも大変なんだな。
……ってあれ?
でも白夜くん、私が作った料理は平気だよね。
一体どうしてなんだろう。
と、私は奥にあったダンボールをのぞいた。
「あっ、これリンゴだ。『青森の親戚から届きました』だって。これならいいんじゃない?」
私がリンゴを見せると、白夜くんは少し面倒くさそうにうつむいて首をかいた。
「ああ……まあね。でも皮をむくのが面倒だから五十鈴さんにあげる」
「本当?」
「あ、こっちはお米だ。新潟の親戚から送られて来たんだって」
「ああ、それもあげる」
「どうして? お米ぐらい炊けるでしょ」
私が尋ねると、白夜くんは少し不思議そうな顔をして首をかしげた。
「炊けるけど、なぜかいつもビチャビチャになるんだよ」
何それ。どういうこと?
「それ、お米の量が多いんじゃないの? ちゃんと計ったら?」
私が言うと、白夜くんはうんざりしたような顔をした。
「じゃあ五十鈴さんが炊いてよ。お米あげるからさ」
炊いてよって……まあ、いいか。こっちもそのほうが家計が助かるし。
白夜くんが料理音痴なせいいで、結局、白夜くんあてに来た食料はほとんど私がもらうことになってしまった。