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5.独占取材

 コンコンコン。


 次の日の昼休みには、私はさっそくお弁当を持って生徒会室へと向かっていた。


「生徒会長、五十鈴です」


 私がドキドキしながら生徒会室をノックし、少しかしこまった声を出すと、少しして白夜くんは生徒会室から顔を出した。


「入って」


 警戒しながらも、白夜くんは私を生徒会室に招き入れてくれた。


「はい、これお弁当」


「わ、ありがとう。開けてもいい?」


「どうぞどうぞ」


 白夜くんがお弁当箱のふたを開ける。


 お弁当箱には、唐揚げやウインナー、卵焼きといったごく普通のおかずが入っている。


 あんまり張り切りすぎるのも恥ずかしいから、ごく普通の中身にしたんだけど、白夜くんの口に合うだろうか。


 庶民すぎると怒られたらどうしよう。


「うわ、すごい美味しそう」


 私の心配をよそに、白夜くんは感激したように目を輝かせた。


 良かった、喜んでくれたみたい。


 こんなに喜んでくれるなんて、白夜くんの好きなおかずでも入ってたのかな。


「それじゃ、食べながら取材していい?」


「うん、いいよ」


 白夜くんの許可が出たので、私は生徒会長に立候補したわけや、今後の抱負、簡単なプロフィールを質問した。


「白夜くんの長所と短所は?」


 質問すると、白夜くんはうーんと考えこむ。


「長所は、目標を達成するための実行力があるとことで、短所は……料理が苦手だから、そこが欠点と言えば欠点かな」


「なるほど」


「ほら、五十鈴さんにお弁当作ってもらわなければ、昼も夜もカップラーメンだし……って、これは記事にしないでね」


「分かってる」


 うなずいたあとで、私はこの際だから、気になっていたことを聞いてみることにした。


「そういえば白夜くんは、家事がダメなのにどうして一人暮らしてるの?」


 白夜くんの動きが一瞬ピタリと止まる。



「まずいこと聞いた?」


 私が聞くと、白夜くんは頭をポリポリかいた。


「いや、いいけど……別に大した理由じゃないよ。ただ一人暮らしに憧れてただけ」


「それだけなの?」


「うん。両親は最初は家から通えるのにって反対してたんだけど、賭けで勝ったから無理やり願いを聞いてもらったんだ」


「賭け?」


「うん。もし俺が生徒会長に立候補して選挙に勝ったら一人暮らしを許すって」


「そうだったんだ」


 それで本当に生徒会長になって願いをかなえるなんてすごい。


 実行力があることを長所にあげていたけど、どうやらそれは本当らしかった。


 私はそのあといくつか質問をしてからカメラを構えた。


「それじゃ、取材はこれで終わり。最後に一枚写真撮ってもいい?」


「いいよ、もちろん」


 椅子に座りなおし、背筋を伸ばす白夜くん。


 私がシャッターを切ろうとすると、急に白夜くんがストップをかけた。


「あ、ちょっと待って」


「え? 何?」


 私がカメラを下すと、白夜くんは自分の左頬を指さした。


「左のほうが写りがいいから、少し左から取って」


 その言葉に、私は少し呆れてしまう。


「白夜くんって、人からどう見えるか意外と気にするタイプなんだ」


「そ。自己分析は選挙に勝つには必要なことだよ」


 真顔で答える白夜くん。


 言われた通り左側から白夜くんを撮ると、確かに悔しいくらい完璧でイケメンな写真が取れた。


「これでよし……っと」


 私が採れた写真のチェックをしていると、不意に「パシャリ」と音がした。


「えっ⁉」


 私が慌てて顔を上げると、使い捨てのインスタントカメラを持った白夜くんがニヤリと笑っていた。


「……え? 今、私の写真撮った?」


「うん、いつも俺ばっかり撮られてるから、仕返し」


 仕返しって……全くもう。


 白夜くんの考えてることってよく分からないな。


 ……ま、いっか。


「それじゃ、取材ありがと」


 荷物を持ち、部屋を出ようとする私に、白夜くんは慌てて声をかけた。


「そういえば五十鈴さん、昼ご飯は?」


「これから食べる予定だけど」


 私はカバンに入ったお弁当を指さした。


 部室に取材道具を置きに行くついでにそこで食べようと思ってたんだ。


 白夜くんはイスをトントンと叩いた。


「じゃあ、ここで食べてけば? これから戻ってたんじゃ食べる時間が足りなくなるでしょ」


 私は時計を見た。


 確かに、これから部室に行くよりは、ここで食べた方がゆっくり食べられそう。


 沙雪ちゃんにも、お昼は取材があるって言ってあるし、大丈夫かな。


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


 私たちは、なぜか二人で向かい合ってお弁当を食べることになった。


 なんだか変な感じ。


 あの白夜くんと、一緒にお昼を食べるだなんて。


 妙にフワフワした気分になる。


「あ」


 と、白夜くんが急に私に顔を近づけてきた。


「なに」


 私が身構えていると、白夜くんはクスリと笑った。


「ご飯つぶ、ついてるよ」


「えっ、ウソ。どこどこ!?」


「違う違う、こっち」


 白夜くんの長くてキレイな指が、私の頬に伸びてくる。


 ……ドキッ。


「はい、取れた」


「……ありがと」


 白夜くんはキレイな瞳を細めて私を見つめてくる。


「ドキドキした?」


 えっ、何それ。私のことからかったの?


「まさか。ちょっとビックリしただけだよ」


 私はツンとそっぽを向いた。

 白夜くんは頬杖をついて私を見つめる。


「ふーん」


「なんでニヤニヤしてるの?」 


「いや、五十鈴さんを惚れさせようと思ったけど、どうやらうまくいかなかったみたいだ」


「バカじゃないの」


 私があきれながらいうと、白夜くんは大きな声を出して笑った。


 もう、ワケわかんない。


 私、からかわれてるのかな。


「……それでさ、五十鈴さん、お弁当なんだけど、今日だけじゃなく、これから毎日作ってもらうってことはできる?」


「えっ?」


 白夜くんに、毎日お弁当を?


「あ、もちろん、かかった材料費は支払うよ。取材も好きな時にしていいし」


「それならいいけど……」


 正直なところ、好きな時に取材させてもらえるのなら、お代はいらないくらい。


 でも、何だかビックリ。他人の作った料理は食べないって聞いてたのに。


 白夜くん、私の料理をよっぽど気に入ったのかもしれない。

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