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4.交換条件

 紬『おはようございます、先輩。昨日は生徒会長にインタビューできなくて残念でしたね。僕もどうやれば生徒会長にインタビューできるのか色々考えてみます』


 朝起きて、紬くんからのメッセージに気がつく。


 白夜くんにインタビューかぁ。


 私は昨日のできごとを思い出した。


 どうしよう。


 白夜くんと隣の部屋になったこと、紬くんに言ったほうがいいかな。


 あんまり期待させてダメだったら悪いから、とりあえず内緒にしておこうかな。


 昨日はお腹が空いてたから優しかったのかもしれないけど、今日はツンドラかもしれないし。



 花『ありがとう。私も色々考えておくね』



 

「よし……っと」


 私はメッセージを紬くんに返すと、愛用のカメラを手にいつものように学校へと向かった。


「花っ、おはよう」


 学校に着くなり、沙雪ちゃんが走ってくる。


「沙雪ちゃん、今日は早いね」


「私、今日は花壇の水やり当番なの。花は?」


「今日は学園新聞の発売日だから、売店を見に来たの」


 今日は私たち新聞部が毎週発行している学校新聞の発売日。


 だから早くから登校して、こっそり学校新聞の売上をチェックしようと思ったんだ。


「そうなんだ。もしかしてそれ、白夜くんが載ってる?」


 沙雪ちゃんが、私の持っていた新聞を指さす。


「うん、この間の就任式の記事が一面だよ」


 私が言うと、沙雪ちゃんはぱあっと顔を輝かせた。


「本当? それなら三部買わなきゃ。保存用と観賞用と布教用!」


 ウキウキ顔で新聞を手に取る沙雪ちゃん。


 沙雪ちゃんだけじゃない。


 購買のまわりには白夜くんファンの女の子たちがたくさん。


 本当にすごいな、白夜くん。


 そんなすごい人と隣の部屋になって、ご飯を一緒に食べただなんて、まだ実感がわかないな。


「それにしてもすごい人。花、今週号の売り上げ、かなりいいんじゃない?」


 沙雪ちゃんが購買に群がる人を見てびっくりした顔をする。


「うん。いつも白夜くんを記事にした日は売り上げがすごく上がるんだ」


「そうなんだ。でも分かるなあ。花の撮った写真、すごく良いもん」


 しみじみと白夜くんの写真を見つめる沙雪ちゃん。


 そんなふうに言われると照れちゃうな。


「ありがと。でも多分、私の写真のおかげじゃないよ。白夜くんのおかげ。だってうちの新聞だけじゃなくて、学友日報も白夜くんを一面にした日は売り上げ良いみたいだし」


 学友日報っていうのは、情報部が発行している新聞のこと。


 私たち新聞部が出している学園新聞のライバル誌なんだ。


 ウワサでは、学友日報はSNSや学校の裏サイトから情報を集めてるんだって。


 きちんと自分たちでインタビューをしたり情報収集をしている私たちの新聞とは違って不確かな情報も多いの。


 私としてはそんな新聞に負けたくない。


 けど学友日報のほうが過激な見出しを付けてるせいか、最近は売り上げが負けてるんだ。


 私はぎゅっとこぶしを握りしめた。


 悔しいな。新聞は自分の足で取材してこそなのに。


 なんて考えていると、急に後ろから声をかけられる。


「五十鈴さん」


 えっ、この声って――。


 恐る恐る振り返る。


 そこに居たのは、スラリとした長身に切れ長の目の美形。


「……白夜くん?」


 あっけに取られている私の腕を、白夜くんはぐいっと引っ張った。


「五十鈴さん、今ちょっといい?」


 白夜くんの強引な態度に辺りがざわつく。


 そうだよね。女嫌いで有名な白夜くんが自分から女の子に声をかけるなんてなかなかないもん。


 何だろう、新聞の記事についてかな。


 何か気に触ることでも書いたっけ?


 私はチラリと横を見た。


「ごめん、沙雪ちゃん、先行ってもらっててもいいかな?」


「うん、いいけど……」


 沙雪ちゃんは信じられないって顔で固まってる。


 沙雪ちゃんだけじゃない、周りにいた生徒全員が、こちらを見て何かヒソヒソ言ってる。


 うう、やりにくいなあ。


「それじゃあ行こうか」


 私は白夜くんにうながされ、逃げるようにその場を離れた。


 ファンの女の子たちの痛いほどの視線を感じながら……。


「さ、入って」


 白夜くんは生徒会室のカギを開けた。


 そっか。ここなら誰にも見られず話ができるもんね。


「……おじゃまします」


 とりあえず目の前のソファーに腰かける。


「白夜くん、話って何?」


 私が恐る恐る切り出すと、白夜くんはニコリと完璧な笑顔を見せた。


「まずは五十鈴さん、昨日はありがとう。助かったよ」


 ぺこりと頭を下げる白夜くん。


「ど、どういたしまして」


 それはいいんだけど――まさか、昨日のお礼を言いにこんな所まで?


 私が不思議に思っていると、白夜くんは小さく咳払いをして切り出した。


「――それで、さっきの話を聞いて思いついたんだけどさ」


「さっきの話?」


「俺を表紙にすると新聞の売上が上がるって話」


「ああ、その話ね」


 白夜くん、聞いてたんだ。


「そこで提案。五十鈴さん、俺の取材をしたくはない?」


「したいっ」


 私は白夜くんの言葉に思いっきり飛びついた。


 白夜くんの取材なんて、したいに決まってるじゃん。


「でしょ? なら取材させてあげてもいいんだけど」


「本当?」


 私が身を乗り出すと、白夜くんはこんなことを言いだした。


「その代わりに、俺のお弁当を五十鈴さんが作ってくれないかな」


 白夜くんの提案に、頭の中がフリーズする。


 えっ、私が白夜くんにお弁当を?


「ほら、俺は自分で料理できないし、売店や学食に買いに行くのも大変だからさ」


 ――そういうことか。


 確かに、女の子たちに囲まれたら食事どころじゃないもんね。


「この間食べた五十鈴さんの料理、美味しかったしさ。ダメ?」


 びっくりしたけど、料理は得意だし悪い条件じゃない。


 むしろすごい好条件。


 私は思いっきりうなずいた。


「いいよ。それで取材させてくれるのなら」


「本当? やった」


 喜ぶ白夜くん。


 こっちこそ信じられないよ。


 まさかこんなに簡単に取材ができるだなんて。


 喜ぶ私をよそに、白夜くんは声をひそめる。


「でもこのことは他のみんなには内緒にして。女の子にお弁当作ってきてもらったなんて知られたら大変だから」


「もちろん」


 そうだよね。


 そんなことファンの女の子たちに知られたら大変なことになっちゃう。


「じゃあ約束」


 白夜くんが小さく笑いながら小指を出してくる。


 細くて白い、彫刻みたいな指。


 とくん。


 小さく心臓が鳴った。


「……うん」


 私はそっと白夜くんの小指に自分の小指をからめた。


 何だか心がフワフワして、すごく変な気持ち。


「じゃあ、明日のお昼休み、生徒会室に来てね」


 白夜くんは指を離すと、私の耳元で低く囁いた。


「うん、分かった」


 ウソみたい。


 こんな簡単に白夜くんの独占取材ができるだなんて。


 明日からお弁当作りがんばらなきゃ。

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