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この淡いファインダー越しの世界で、僕はいつも君だけを見ていた  作者: 深水えいな


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31.いつも君だけを見ていた

 目が覚めると、私の頬はべっとりと涙で濡れていた。


「……夢、か」


 むくりと体を起こす。


 カーテンの外はもう明るくて、コチコチ音を立てる目覚まし時計を見ると、時刻は七時だった。


 三、四時間しか寝てないはずなのに、頭は妙にすっきりしている。


 夢の中でしか会えないのなら、せめてもう少しだけでもあの夢の中にいたかった。


 あの青くて淡いまどろみの中にいたかったな。


 そう思ったけれど――今さら二度寝しても、再び白夜くんに会えるとは思えなかった。


 だって私たちは、もうさよならしたのだから。


 私は机に置いてあった自分のカメラを撫でた。


 夢の中でも、お互いにファインダー越しに見つめ合って、写真を撮り合っていただなんて変な感じ。


 私は大きく伸びをして、スマホを見た。


 スマホには膨大な数のメッセージが来てる。


 『花、大丈夫?』

 『大変だったね、ゆっくり休んでね』


 みんな私のことを心配しているみたい。


 心配してくれるのはありがたいんだけど――そっとしておいてほしいのにな。


 紗雪ちゃんに紬くん、綾瀬さんなど数人に軽く返信をしていると、急に部長からメッセージが届いた。


 『休んでいるところすまないが、以前生徒会長に取材したときの記録があったら送ってほしい。生徒会長の追悼記事を書きたいんだ』


 追悼記事、の文字にドキリとする。


 そっか。新聞部で追悼記事を書くことに決まったんだ。


 だよね。有名人だし、みんなも白夜くんのことを知りたがってるはず。


 私は少し考え、こう部長にメッセージを送った。


 『部長、その記事、私に書かせてください』


 白夜くんは、白夜くんから見た私をたくさん残してくれた。


 今度は、私から見た白夜くんをこの世界の残す番だ。


 私だけじゃない。いろんな人に白夜くんのことを覚えていてもらうために。


 それが新聞記者の役目だ。


 私は、急いで記事の執筆にとりかかった。


 そういえば、以前、白夜くんのインタビューを載せようとしたけど、二股騒動とかでお蔵入りになったものがあったはず。


 私は以前のインタビューの内容をまとめ、白夜くんの病気のことや、これまでの苦労、私にしか見せなかった優しい顔、いつも持ち歩いていたインスタントカメラのことも書いた。


 そうして出来上がった新聞は評判を呼び、増刷に増刷を続けた。


 私は白夜くんの実家を訪れ、ご両親にも新聞を持っていくことにした。


「あれ? あのカメラ……」


 ふと仏壇の上に、白夜くんがいつも持っていたインスタントカメラがあることに気付いた。


「ああ、あのカメラ? あの子のベッドの下から出てきたの。まだ現像はしてないんだけど、良ければ持って帰りますか?」


「良いんですか?」


 せっかくなので、形見としてもらうことにする。


 自分で現像できるだろうかと思ったけれど、フィルムがどこに入っているのか分からない。


 カメラを分解すれば現像できるかもしれないけど――失敗も怖いし、大人しく写真屋さんに行って現像してもらうほうがいいかもしれない。


 ……確か近所のスーパーに写真屋さんが入ってたよね。


 私は白夜くんの家の帰りに近所のスーパーに寄り、写真を現像してもらうことにした。


 一時間半ほどで写真は出来上がり、私は写真屋さんの封筒を手に部屋に戻ってきた。


 パラリ。


 出来上がった写真を一枚一枚手に取る。


 自分のクラスの友達を写した写真や、劇の練習をする生徒会メンバーの写真、学生寮の前にいた猫の写真やただの空の写真もあった。


 でも、ほとんどが私の写真だった。


 お弁当と引き換えに初めて取材をした時の写真。


 二人で映画を見に行った時の写真。


 文化祭でお好み焼きを焼いてる写真。


 一緒にクレープを食べた時の写真。


 二人でキスをした観覧車の写真。


 中にはいつ撮ったんだろうっていうような、学校でカメラを構える私の横顔や、料理中の私の後ろ姿、部屋で寝落ちしてる私の写真もあった。


 中にはピンボケしたものや光が入り失敗した写真もあったけど、どれも良い写真だった。


「……何これ。私ばっかりじゃん」


 私は苦笑した。


 白夜くんが映っている写真は数枚しかない。


 だけど、三十枚すべての写真に、白夜くんの意思や優しいまなざしが宿っているような気がした。


 この写真の中に、間違いなく白夜くんは生きている。そう思えた。


「……あれ? これって」


 私は最後の一枚の写真に手を止めた。


 どこかの川辺で私が一眼レフを構え、ムスッとした顔をしている写真。


 一緒に川になんて行ったっけ。


 心当たりがあるとすれば――。


 私は自分の一眼レフを見た。


 慌てて残っているフィルムを現像する。


 すると、霧の立ち込める青い川辺で、白夜くんがインスタントカメラを構えている写真があった。


 今まで見たことがないくらい穏やかで、天使みたいに優しい笑顔だった。


「白夜くん……」


 二つの写真を並べてみると、私たちは互いに見つめ合っているように見えた。


 私たちはファインダー越しにいつもお互いを見ていた。


 最後まで、ずっと。


 その事実が苦おしいほど嬉しかった。


 私、残していくね。


 君が生きた記憶と写真を。


 きっといつまでも。


 いつか私も、あの穏やかに流れる青い川を渡るまで。


 二つの写真をフォトフレームに入れて飾ると、白夜くんはいつまでも私を見守ってくれているような気がした。



【完】

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