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この淡いファインダー越しの世界で、僕はいつも君だけを見ていた  作者: 深水えいな


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3.完璧生徒会長、拾いました

 結局、白夜くんの取材ができないまま放課後になってしまった。


「ひゃーっ、すっかり遅くなっちゃった!」 


 私が住むのは高校の学生寮。


 学生寮は学校のすぐ隣にあるんだけど、門限があるから早く帰らないと寮母さんに怒られちゃうんだよね。


「ふう、間に合った。……って、あれ?」


 私が寮に駆けこみ肩で息をしていると、ふと部屋の前に人が倒れているのが見えた。


 細身の長身。

 少しクセのあるサラサラの黒髪。

 色白の肌。

 そして特徴的な泣きボクロ。


 ……これってもしかして白夜くん?


 なんで白夜くんが私の家の前で寝てるの⁉


 事故? 病気?


「白夜くん、白夜くんどうしたの?」


 とりあえず体を揺すってみると、大きな黒い瞳がパチリと開いた。


 うわ、キレイな瞳。


 私は間近で見る白夜くんの顔のあまりの造形の良さにぎょっとしてしまった。


 白夜くんはまだ目の焦点の定まらないような顔でキョロキョロと辺りを見回した。


「……あれ、俺、倒れてたの?」


「多分そう。こんな所でどうしたの? 具合でも悪いの?」


 私が慌てて尋ねると、白夜くんはぼうっとした顔で答えた。


「いや……多分貧血? でも大丈夫。家に薬あるから、それ飲めば――」


 と、その瞬間、大きな音が廊下に響き渡った。


 ぐうううううっ。


 ん? 


 今の音ってもしかして――。


 私が唖然としていると、白夜くんはすました顔のままお腹を押さえた。


「……腹減った」


 えっ、今のはお腹の音⁉


 ってことは、ただお腹を空かせて倒れてただけ?


 あの完璧生徒会長でツンドラ王子の白夜くんが、お腹を鳴らして床に転がってるだなんて……イメージと違いすぎる!


「あの、もしかしてお腹空いてるの?」


 恐る恐る聞いてみると、白夜くんは小さくうなずいた。


「うん。昨日からカップ麺一個しか食べてない」


「ええっ、そうなの? 他に食べるものは?」


「いや、今日は学食も購買も生徒会で忙しくて行けてなくて」


「そうだったんだ」


 私は少し考えて、こう切り出した。


「しょうがない。夕ご飯ちょっとおすそ分けしてあげようか?」


 と、言ってから気づく。


 あ、そう言えば白夜くんって、他人の作った食事は受け付けないんだっけ。


 だけど白夜くんは、すごい勢いで食いついてきた。


「本当? 良かった」


 ……うう、顔が近い。


 近くで見ると、白夜くんって本当に綺麗な顔だなあ。


 私は平然とした顔を作り、白夜くんを部屋に案内した。


 本当は、こんな有名人を部屋に入れるだなんて、すごく緊張するんだけどね。


「どうぞどうぞ。大した料理は無いけど、持って帰っていいから」


 私は作り置きしていた焼き魚や煮物、きんぴらごぼうを冷蔵庫から出した。


 白夜くんは目を子供みたいにキラキラと輝かせる。


「うわ、すごい。これ、自分で作ったの?」


「うん。でも別に大したことないよ。煮物なんて炒めて煮るだけだし、魚も焼くだけだし」


「それでもすごいって」


 タッパーに入った料理を前に身を乗り出す白夜くん。


 お父さんが亡くなってからお母さんは仕事でずっと忙しいし、料理はずっと自分でしてきた。

 

 こんなの大したことないんだけどな。


 お弁当だって毎日自分で作ってるしね。


「それより白夜くん、何でうちの前で倒れてたの?」


「ああ、実は僕、最近この部屋の隣に引っ越してきたんだ」


 あっけらかんとした顔で答える白夜くん。


「えっ」


 白夜くんが隣の部屋?


 そういえば、二日ぐらい前に引っ越しのトラックが寮の前に停まってたのを思い出す。


 あれ、白夜くんだったんだ。


「そうだったんだ。知ってたら挨拶に行ったのに」


「ごめんごめん。女の子たちに知られたらまずいから、寮母さんに誰にも言うなって口止めしてたんだ」


「そうだったんだ」


 そうだよね。よく考えたらファンの子たちに知られたら大変かも。


 私は冷蔵庫の中に入っていたお鍋を開けた。


 これもたくさん余ってるし、せっかくだから白夜くんに食べてもらおうっと。


「白夜くん、鍋物もいる?」


「いる」


 即答する白夜くん。


「でも汁物だとこぼれちゃうかな。どれに入れよう」


 私が棚を漁って容器を探していると、白夜くんはしれっとした顔でこう言った。


「あのさ、それ、ここで食べていっていい?」


 えっ。


「うん、まあ、それはいいんだけど」


 白夜くんがうちでご飯を食べるだなんて、なんだか現実じゃないみたい。夢でも見てる?


 私はお鍋を火にかけ、深めのお皿に鍋物をよそった。


「はい、どうぞ」


「いただきます」


 夢中でご飯をかきこむ白夜くん。


 本当にお腹が空いてたんだなあ。


 私は恐る恐る尋ねてみた。


「白夜くんは、料理できないの?」


「料理なんて、ここに来るまで作ったことないよ」


 白夜くんが答える。


 そうなんだ。


 白夜くんって何でもできるイメージだし、てっきり料理も上手いのかと思ってた。


「……ここ、食堂ないんだね。学生寮って言うから、てっきり寮母のおばちゃんが食事も作ってくれるのかと」


 白夜くんがしみじみとため息をつく。


「ああ、数年前まではそういうのもあったらしいけど、最近は住んでる人も少ないし、学食とか売店もあるからやめたみたい」


 それにここの寮母さん、あんまり料理得意じゃないみたいだし。


「そっか。でも、困ったな。学食も売店も閉まるの早いし、生徒会の仕事があると行けないことも多いんだよね。昼も忙しいし」


 白夜くんが嘆く。


 そっか。それじゃあご飯を食べるのも大変だなあ。


 それにしても――。


 私は白夜くんの顔をチラリと見た。


 「女嫌い」とか「ツンドラの白夜」だなんて聞いてたけど……。


 こうして話してみると、白夜くんって意外と普通の人……かも?


「ごちそうさま。また明日、学校でね」


 ご飯を食べ終え、大量のタッパーを抱えた白夜くんを見送る。


「うん、おやすみ」


 と、そこで私は気づいた。


 しまった。取材をさせてくれって言えばよかった。


 ……ま、いっか。


 隣の部屋になったんだし、これからいくらでもチャンスはあるよね。

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