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この淡いファインダー越しの世界で、僕はいつも君だけを見ていた  作者: 深水えいな


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29/31

29.君のいた部屋

 ずっと一緒にいよう。


 そう誓った二人だったけれど、その約束は果たされなかった。


 白夜くんが亡くなったと知らされたのは、白夜くんが手術をしてから三日ほど経ってのことだった。


 白夜くんのお母さんが、白夜くんのスマホから電話をかけてくれて、私はことの詳細を知った。


 最初に白夜くんのスマホから電話がかかって来たときは、手術を終えてようやく電話で話せる状態になったんだと思ってた。


 しばらくぶりに白夜くんの声が聴ける。そう思っていたのに。


 ――白夜くんのお母さんが言うには、白夜くんの病気は、想像していたよりもずっと進行していて、手術の負担に耐え切れなかったのだそうだ。


「あの子は負けず嫌いだし、人に弱みを見せないようにのするのがうまいから、私たちにも自分の体が辛いことを隠していたんだろうね。お医者さんが言うにはこの心臓の状態で今まで生きてたのが不思議なぐらいだったって」


 お母さんの言葉が、遠い世界のことのように空っぽの頭の中にこだまする。


 まるで現実感が無かった。


「すぐに連絡できなくてごめんなさいね。でも私たちも動転していて」


 電話口で、白夜くんのお母さんのすすり泣く声が聞こえる。


「……わざわざお知らせいただきありがとうございました」


 私はそう言って電話を切った。


 まるで現実感がなかった。


 だって約束したもの。


 ずっと一緒にいるって。


 辛いときも悲しいときも、そばにいるよって――。


 その日は水曜日の放課後で、私はそのまま木、金と学校を休んだ。


 ショックだったからというより、怖かった。


 学校に行けば、いろんな人から白夜くんのことを聞かれるだろう。


 大丈夫? といろんな人から心配されるだろう。


 私はまだ白夜くんが居なくなったことを信じていないのに、いろんな人からその事実を突きつけられるんだろうと考えると、怖くて学校はいけなかった。


 だってまだ私は認めてない。


 さよならすら言えてない。


 白夜くんが死んでしまっただなんて、信じられないもの。


 ***


 二日間学校にも行けず、家からも一歩も出なかった私は、ふと寮の前に止まる車の音で目を覚ました。


 窓の外を見ると高そうな車が止まっていて、中からこざっぱりとした服を着た優しそうな中年男性と、美人で上品そうな中年女性が下りてきた。


 その姿を見て、私は確信した。


 あれは白夜くんのお父さんとお母さんに違いない。


 私は慌てて着替えると、部屋の外に出た。


「今鍵を開けますね」


 私が部屋から出ると、ご両親は谷さんから受け取ったのであろう合鍵で白夜くんの部屋のドアを開けているところだった。


「あ、あのっ……」


 私は大きく息を吸い込むと、キョトンとしているご両親の前でこう言った。


「あのっ、私……白夜くんの彼女です」


 過去形には、まだできなかった。


 私の言葉に、ご両親は顔を見合わせた。


「じゃああなたが、私があの時電話で話した……」


 お母さんの言葉に私が「はい」と返事をすると、お父さんは白夜くんの部屋を指さした。


「今から一緒に遺品の整理をするんだけど、一緒に来るかい?」


「いいんですか?」


「ええ、もちろん」


 ご両親の許可を得て、私も部屋の中に入る。


 部屋の中は白と黒で統一されていて綺麗に片付いていたけれど、机を見るとやりかけの宿題や、お茶を飲んだまま片付けていないマグカップがあって人の気配を感じた。


 明日にでもここに白夜くんが帰って来るんじゃないか、そんな気がしてならなかった。


「まるでまだあの子が生きてるみたいね」


 ポツリとお母さんがつぶやく。


「……はい」


 私も部屋を見回して返事をした。


「大きい家具とかはまだ業者と連絡がつかないから運べないけど、先に運べるような小さいものは運んでしまおう。君も何か、遺品としてほしいものがあれば言ってくれ」


 お父さんが私に向かってそんなことを言う。


 ――遺品。


 その言葉に背中がゾッと冷える。


 私の中では、まだ白夜くんは生きてるのに。


 でもここで何も持って行かないと、私の手元には白夜くんに関するものは何も残らないかもしれない。


 何か、白夜くんとの思い出になるものは――。


 そう思って部屋の中を探すと、机の上に「やりたいことノート」と白夜くんがいつも持ち歩いていたインスタントカメラが置いてあるのを見つけた。


「じゃあ、私はこれとこれをもらいます」


「あら、それだけでいいの?」


「はい」


 十分だった。


 今の私には、これだけで十分だった。


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