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この淡いファインダー越しの世界で、僕はいつも君だけを見ていた  作者: 深水えいな


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26.白夜くんの秘密


 残暑厳しい季節も終わり、季節は晩秋。


 紅葉が一気に色づき始め、冬の季節が近づいてきた。


 『ねえ、今日の晩ご飯うちに食べにくる? お鍋にしようかと思うんだけど』


 私は白夜くんにそんなメッセージを送った。


 だけど――。


 『ごめん、今日はちょっと用事があるから』


  そんなそっけない返事が返って来る。


「またか……」

 

 私はスマホをベッドに投げ捨てた。


 最近、白夜くんの様子が少しおかしい。


 晩ご飯の誘いは三日連続で断られてるし、ここ一週間一度も一緒に帰ってない。


 学校で会ってもなんだかそっけない態度だし――。


 どうしたんだろ。


 まさか……浮気⁉


 いやいや、白夜くんに限ってそんなことはない……よね?


 それとも付き合ってみたら思ってた感じと違って飽きられたとか?


 ……うーん、これはあるかも。


 私がゴロゴロとベッドに転がりながらそんなことを考えていると、白夜くんから追加のメッセージが来た。


『その代わり、来週の日曜日会えない? 大事な話があるんだ』


 心臓がドキリと鳴る。


 大事な話――たぶん別れ話だろうな。


 私は大きなため息をついた。


 やっぱり最初から無理だったんだ。


 私みたいな庶民と完璧王子の白夜くんが付き合うだなんて。


 最初から、釣り合ってなんていなかったんだ。


 ***


 土曜日。


 私は白夜くんと学校近くの喫茶店に入った。


 ステンドグラスが綺麗な少しレトロなその喫茶店では、白髪に白いひげを生やしたおじいさんがコポコポとコーヒーを入れていた。


 店内には、薄くジャズがかかっている。


 うわあ、なんだか静かですごくおしゃれ。


 同じカフェでも有名チェーン店とは全然違うな。


「俺はアイスコーヒーで」

「じゃ、じゃあ私はカフェオレ……」


 私が注文すると、しばらくして古びたエプロンをつけた老婦人が注文したアイスコーヒーとカフェオレを運んできた。


 カラン。


 白夜くんが白くて細い指でコーヒーをかき混ぜる。


 窓から薄く太陽の光が入り、白夜くんの髪をほんのり染める。


 うわあ、なんて綺麗。


 私は写真を撮りたい衝動に襲われたけど、そういう雰囲気ではないのでやめておいた。


「あの二人、夫婦かな。すごく雰囲気良いよね」


 白夜くんが不意に顔を上げる。


「そ、そうだね」


 私は笑顔を作って答えると、すぐにカフェオレに視線を落とした。


 ……き、気まずい。


 二人の間に少しの間沈黙が訪れる。


「あの……話って……」


 仕方なく私が切り出すと、白夜くんはグラスの淵にじっと視線を落として話し始めた。


「実は俺、来月手術することになったんだ」


「えっ?」


 予想もしていなかった一言に、私の頭は真っ白になった。


「手術って――白夜くん、どこか悪いの?」


「うん。生まれつき心臓が悪いんだ。国指定の難病でね――」


 その後の話は、目の前がぼんやりとして、頭の中が真っ白になったのでほとんど覚えていない。


 かろうじて覚えているのは、彼の病気は心臓の機能が徐々に衰える難病だということ。


 日本に百人もいない希少な病気で、治療法は確立していないということ。


 約80%の患者は二十歳になる前に亡くなるらしいということ。


「でも手術をすれば助かるんでしょ?」


 私がすがるような思いで白夜くんに尋ねると、白夜くんは静かに首を横に振った。


「いや、手術をすれば症状はだいぶましになるらしいけど、それでも根本的な治療にはならないらしい」


「そんな……」


「俺の場合、小さいころに二回手術をして、それからずっと症状が安定してたからすっかり良くなったと思ってた。でも最近、急に心臓が痛んだり倒れたりすることが多くなって――」


 白夜くんが言うには、最近妙に付き合いが悪くなったり冷たくなったのは、体調が悪化し、頻繁に病院に行っていたかららしい。


「行ってくれれば、病院にも付き添ったのに」


 白夜くんと一緒にいられるなら、どこだっていいのに。


「ごめん、花には弱ったところとか、かっこ悪いところとか見せたくなかった。でも……もう限界かもしれない」


 穏やかな口調で淡々と話す白夜くん。


「そんなことないよ。文化祭の準備で少し疲れただけだよ……だって……」


 気が付いたら、私の目から涙がポロポロとあふれ出ていた。


「だって、白夜くんが死ぬわけないもん」


 声を上げて泣きじゃくる私を見て、白夜くんは少し目を見開いて私にハンカチを渡した。


「ごめん、急にこんな話をして。でも花には知っておいてほしかった」


 不安でいっぱいだった。


 でも百パーセント死ぬわけじゃない。


 私は白夜くんが生き残るわずかな可能性にすがるしかなかった。


「そっか。手術、頑張ってね」


 私はただ、そう言うしかできなかった。


 私は家に帰ると、白夜くんが言ってた病気のことを調べてみた。


 日本では患者数が少ないからかあまり情報は出てこなかったけれど、必死に探し回ると白夜くんと同じ病気だという男の子のブログが出てきた。


 写真を見ると白夜くんと同じように色白の美形で、文章からも知性がにじみ出てる。


 こういう病気の人ってみんな美人やイケメンだったりするのかな。


 そんなことを思いながらブログを見ていく。


 好きなスポーツや趣味の料理のことを書いた記事が続き、特に具合が悪そうな感じには見えない。


 だけど彼のブログは、十八歳の誕生日の記事を最後に更新が途絶えていた。


 「明日心臓の手術をします」というのが彼の最後の言葉だった。

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