25.お父さんの写真
写真展当日。
待ち合わせ場所の駅で待っていると、お母さんが手を振りながらやってきた。
「花ー、こっちこっち!」
白夜くんはお母さんを見るなり、完璧な王子様スマイルを作った。
「お母さん、お久しぶりです。お体はもう大丈夫ですか?」
白夜くんのキラキラオーラに、お母さんの頬が少し赤くなる。
「え、ええ。ありがとう」
お母さんは気取った声で言うと、私の腕をグイッと引っ張り、耳元でささやいた。
「ちょっと花、この間は具合が悪くてあんまりじっくり見れなかったけど、凄いイケメンだし、しっかりしてるじゃないの! 本当にあなたの彼氏なの!?」
「か、彼氏だよ、一応……」
私は慌てながら答える。
もうっ。
白夜くんったら、相変わらず王子様っぷりがすごいんだから。
「いつも花がお世話になっております」
「いえいえ、僕の方こそお世話になりっぱなしで」
にこやかに挨拶をする二人をハラハラしながら見まもっていると、お母さんは駅前の小さなギャラリーを指さした。
「ここよ、展覧会の場所」
「へえ、こんなに近くなんだね」
三人でギャラリーの中に入る。
ギャラリーは、こじんまりとしているけど、明るくて清潔。
柔らかく陽の光が差し込んでいて、微かにかかるゆったりとした音楽。
真っ白な壁にはお父さんの撮ったキレイな花や空の写真がたくさん飾られていた。
白夜くんが一枚の空の写真を指さす。
「この写真、綺麗だね」
「うん。お父さん、空を撮るの好きだったんだ」
私たちがそんな話をしていると、ふとお母さんが一枚の写真の前で立ち止まっているのが見えた。
駆け寄ってみると、お母さんが見ていたのは若い女の人の写真。
へえ、誰だろう、これ。
私がよくよくその写真を見てみると――。
あれっ。
この写真、若い頃のお母さんだ。
そういえばお父さん、前に言ってたっけ。
この世には、写真を撮られるために生まれてきたような人間がいる。
まるでその人にだけピントが合っているように、周りからくっきり浮かび上がって見える人がいる。
そんな存在感のある人間がいるって。
それが、お母さんだったって。
でも――。
私は目の前の写真をじっと見つめた。
お父さんからその話を聞いた私は、てっきりお母さんは若いころ、さぞかし絶世の美女だったんだろうと思ってた。
だけど写真を見る限り、お母さんはそこまで美人なわけでも何かすごいオーラがあるわけでもない。
一体どうして、お父さんはお母さんを見て「存在感がある」だなんて思ったんだろう。
私が首を傾げていると、白夜くんが不思議そうに尋ねてくる。
「どうしたの、うんうんうなって」
「えっと――うちのお父さん、お母さんのこと、思わず写真に撮りたくなるような存在感があったって言ってたけど、でもこうしてみると、お母さん、特別美人なわけでもないしどうしてかなって」
その会話を聞いていたお母さんがケラケラ笑う。
「あらやだ、お父さん、そんなこと言ってたの?」
「うん」
お母さんは、自分の若いころの写真を見つめ、遠い目をした。
「確かに、お父さんはよく私の写真を撮っていたわ。何だか不思議と写真に撮りたくなるんですって。でもそんな話、初耳だわ」
すると白夜くんはじっとお母さんの写真を見つめた。
「僕は少し分かる気がします」
「えっ?」
白夜くんが?
私がキョトンとしていると、白夜くんは照れたように笑った。
「花さんのお父さんがお母さんをよく撮っていたのは、好きだからですよ。好きだからで、周りからくっきりと浮かび上がったみたいに特別に見える。何度も写真を撮りたくなるんです」
「あら、そうかしら」
お母さんの顔が真っ赤になる。
「……そうだといいけど」
その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
白夜くんは私をじっと見つめる。
「僕も、気がつけば花さんのことばかり見てましたし」
「本当に? まあ、新聞部で目立つしね」
いつも大きいカメラ持ってて目立ってたって白夜くんも言ってたし。
だけど、白夜くんは少し照れたように遠くを見つめた。
「違う違う、新聞部だからじゃない。ほら、入学式のとき、僕の落としたハンカチを偶然拾ってくれただろ。その時から」
えっ。
入学式!?
「そ、そんなこと、あったかな……?」
「あったよ」
少し怒ったように言う白夜くん。
まさか、白夜くんがそんなに前から私の事を好きだっただなんて!
そっか。
私たちは、ずっと前から恋に落ちてたんだ。
気がつけば目で追ってる。
カメラのピントを合わせたみたいに、周りが見えなくなって、その人だけくっきりと見える。
私たちはそうやってずっと、お互いを目で追ってたんだ。
ギャラリーを出ると、外は雲ひとつない、まぶしい青空だった。
「それじゃあね」
お母さんと別れ、私は二人で駅前を歩く。
私の心も何だかとっても晴れやかだった。
心が弾んで、その場でスキップしたい気分。
「少し歩こうか」
白夜くんが右手を差し出してくる。
「うん」
私はギュッとその手を握った。
とくん、とくん。
胸が軽快なリズムを鳴らす。
太陽の下の白夜くんは、キラキラ輝いて、街の人混みの中でもくっきりと浮き上がって見えた。
これがきっと、好きってことなんだろうな。
――あ、そうだ。写真。
私がデジカメを探していると、白夜くんはパシャリと私をインスタントカメラで撮った。
「……もう」
相変わらず不意打ちが好きなんだから。
私たちの日々は幸せで満ち溢れていた。
こんな日々がずっと続くものだと――そう思っていた。




