21.本当の気持ち
お昼を食べ終えた私は、午後から新聞部の展示の仕事のため空き教室へと向かった。
新聞部の展示をしている教室は、三階の一番奥。
私は教室前の廊下に立ち、キョロキョロと辺りを見回した。
うわあ、思った以上に人通りが少ないなあ。
せっかく今までの記事や新聞部の歴史を頑張ってまとめたのにな。
お客さんが誰も来ない中、私は撮った写真を確認しながらぼうっと過ごしていた。
「やっほー、花。来たわよ」
勢いよくドアを開け入ってきたのはお母さんだ。
「お母さん」
仕事で来れるかどうか分からないって言ってたけど、来てくれたんだ。
お母さんは教室の中をキョロキョロと見回した。
「へえ、これが花が作った新聞? すごいじゃない」
「私ひとりで作ったわけじゃないよ」
照れながら答える。
わあ、お母さんに新聞見られるの、なんだかドキドキしちゃうな。
「頑張ったのね。すごいわ」
「ありがとう」
お母さんの言葉に、なんだか胸が一杯になった。
ふと、お母さんが白夜くんが一面に写った新聞を手に取る。
「あっ、この子、この前会った花の彼氏ね」
白夜くんが写った写真を見つめ、笑顔になるお母さん。
「いい写真ね」
「あ……うん」
私は少しうつむいて、白夜くんの写真から目をそらしながら言った。
「花、どうしたの?」
心配そうな顔をするお母さん。
「ううん、何でもない」
私は無理して笑顔を作った。
「お父さんのこと、思い出すわ」
懐かしそうな顔をするお母さん。
私はふと、お母さんに尋ねてみた。
「ねえ、お母さんは、何でお父さんと結婚したの?」
「えっ? そうねぇ」
お母さんは照れたように笑ったあと、窓から空を見上げて語り出した。
「お父さんはね、すごくかっこよくてモテモテだったの。だから私、最初は身を引こうと思ってたの」
「そうなの?」
「うん。それにお父さんは毎日家に帰ってくるのも遅くて、結婚しても幸せになれないかもって思ってた」
まさかお母さんが、お父さんのことをそんな風に思っていただなんて。
「それなのにどうしてお母さんはお父さんと結婚したの?」
私が尋ねると、お母さんは遠い目をして答えた。
「確かに、他のもっと良い人と結婚したいなって思ったりしたこともあったわ。でも結局、お母さんはお父さんのことばかり考えてた。お父さんのことばかり目で追ってたの」
お母さんが照れたように笑う。
「結局、好きになるのって理屈じゃないのよね」
お母さんの言葉に、はっと顔を上げると、白夜くんの写真が目に飛び込んできた。
壇上で演説する端正な横顔。
真摯な眼差し。
他の誰よりも輝いて、一人だけピントが合ったようにくっきりと見える人。
「……うん、そうだよね」
私は小さくうなずいた。
気がついたら目で追ってしまう。
その人のことばかり考えてしまう。
理由なんてない。
それがきっと恋なんだ。
「それじゃあ花、がんばってね」
「うん」
お母さんと別れ、また教室で一人になる。
展示された学園新聞の中、白夜くんはどの記事でもキラキラと輝いていた。
私が一人白夜くんの写真をじっと見つめていると、急にドアが開いて紬くんが入ってきた。
「五十鈴先輩、交代の時間ですよ」
――紬くん。
「う、うん」
立ち上がりかけて、私はギュッとこぶしを握った。
……言わなきゃ。
「あ、あのねっ、紬くん、告白の事だけど」
「はい」
紬くんが息を飲むのが分かった。
私は思い切って頭を下げた。
「……ごめんなさい。私やっぱり、白夜くんのことが好きなの。紬くんとは付き合えない」
紬くんは少しの沈黙の後、小さく息を吐いた。
「そうですか」
紬くんは窓の外を見つめた。
「でもいいんですか? 生徒会長と付き合うと、先輩は苦労すると思います」
私はうなずいた。
「うん、そうだね。でも好きになっちゃったからしょうがないよ。今さらやめられないの」
私が笑うと、紬くんも小さく苦笑した。
「それなら仕方ないですね」
紬くんは勢いよく椅子に腰かけた。
「あーあ、やっぱりあの生徒会長には負けるか」
「紬くんには紬くんの良さがあるよ。ただ私は、白夜くんじゃなきゃダメだっただけ」
私が言うと、紬くんはくやしそうに口をとがらせた。
「……だといいんですけどね。ま、先輩は早く生徒会長のところに行ってください」
「うん、ごめんね」
私は教室を出て、白夜くんの元へと急いだ。
白夜くん。
白夜くんに、会いたい。
そして伝えるんだ。
例えこの恋が実らなくても、私の本当の気持ちを。




