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2.ツンドラの白夜くん

「えーっ、それじゃあ、また白夜くんのインタビューできなかったんだ」


 お昼休み。親友の沙雪ちゃんが可愛らしいサンドウィッチを頬張りながら残念そうな顔をした。


「そうなの。いっつもファンがたくさんいて近づけないんだよね」


 私が答えると、沙雪ちゃんは深いため息をついた。


「そっかあ。白夜くんのファンクラブ、すごいもんねー。はあ。白夜くんのインタビュー学園新聞に載ったら絶対に買うのにな」


 沙雪ちゃんは、一年生の時から白夜くんのファンなんだ。


 私は沙雪ちゃんの顔をじっと見つめる。


 ミルクティー色の長いふわふわした髪。色白の肌に長いまつ毛。


 沙雪ちゃんはクラスの中でもダントツに可愛い。学年でもトップ三に入ると思う。


 告白なんて一度もされたことがない恋愛に無縁な私と違って、数か月に一度は告白されてる。


 そんなモテ女の沙雪ちゃんまでファンだなんて、白夜くんってやっぱりすごいな。


 そんなことを考えていると、紗雪ちゃんがお弁当箱の蓋をパタンと閉じた。


「はあ、ごちそうさま。お腹いっぱい」


 私は沙雪ちゃんの小さなピンク色のお弁当箱を見つめた。


 ……って、ウソ。


 もうお腹いっぱいなの⁉︎


 私だったらあれ、三口ぐらいで食べきっちゃうよ!


 びっくりして周りの女子たちのお弁当を見ると、みんな小鳥が食べるみたいに小さなお弁当箱に、女の子らしくて可愛い色のお弁当を持ってきていた。


 慌てて自分のお弁当に目をやる。


 飾り気のない大きな銀のお弁当箱には、ぎっしりのご飯に梅干、それから山盛りの唐揚げに煮物。


 ……なるほど、これが女子力の違いってやつか。


 私は何となく自分がモテない理由が分かった気がした。


「どうしたの? 暗い顔して」


 沙雪ちゃんが不思議そうな顔をする。


「あ、ううん、何でもない。ただ、自分がモテない理由を悟っただけ」


 私が苦笑いしていると、沙雪ちゃんが大きく目を見開いた。


「えーっ、花、モテないかな? あのいつも一緒にいる後輩くんは?」


 いつも一緒にいる後輩くんって――まさか紬くんのこと? 


 私は慌てて否定した。


「いやいや、紬くんは違うよ。ただの幼馴染」


「えーっ、そうなの? 彼、見た目も可愛いし、真面目そうだし、付き合っちゃえばいいじゃん」


 ニヤニヤしながら行ってくる沙雪ちゃん。


 ええっ、付き合う?


 私と紬くんが?


 うーん、全然想像つかない。


 そりゃ、紬くんはマジメないい子だけど、子供の時からずっと一緒だし、今までそういう対象として見たことなかったから……。


 っていうか、今まで好きな人すらできたことないから、そういう気持ちってよく分かんないや。


「いやいや、私たち、そういうんじゃないから」


 私は首を横に振って、唐揚げを頬張った。


 ま、いっか。女子力なんて。


 私は別に、誰か好きな人がいるわけじゃないし、お嫁さんになりたいわけでもない。


 私がなりたいのは、お父さんと同じ新聞記者。


 そのために、私はお父さんが卒業したこの学校で新聞部の記者として頑張ってるんだ。


 まあ、まだ新生徒会長のインタビューすらできていないんだけどね……。


「はあ、これ食べ終わったらまた白夜くんのこと探しに行かなきゃ」


 私が呟くと、沙雪ちゃんが目をキラキラと輝かせた。


「えっ、白夜くんのこと探しに行くの⁉ いいなー、私も行きたい!」


 あのね、遊びじゃないんだよ?


 でもよく考えたら私より、白夜くんファンの沙雪ちゃんのほうが白夜くんの居そうな場所を知ってるかもしれない。


 それに、白夜くんも私一人で行くよりより沙雪ちゃんみたいなかわいい子がいたら話も聞いてくれるかもしれないし。


「じゃあ、一緒に行く?」


「うん!」


 私たちはお弁当を食べ終わると、さっそく白夜くんにインタビューすべく校内を探し回ることにした。


「白夜くん、どこにいるんだろう」


 教室にもいないし、生徒会室にもいない。


 となると後は……。


 私がカメラを手にキョロキョロしていると、急に沙雪ちゃんが私の腕を引っ張った。


「花、あそこ!」


 見ると、渡り廊下の端に白夜くんと……背の高い肩までの茶髪の女の子がいる。


「あれは……A組の高倉(たかくら)さん?」


 沙雪ちゃんがつぶやく。


「高倉さん。あの子が?」


 私も名前だけは知ってる。読者モデルやっててS N S でもフォロワーの多い人気インフルエンサーだ。


 近くに行き、柱の陰から様子をうかがうと、高倉さんはカバンから白い包みを取り出し、白夜くんに渡した。


「あ、あの、ずっとファンでした! もしよかったらこれ……手作りのクッキーです!」


 うそっ。あんな可愛くて有名な子も白夜くんのファンなんだ。


 私たちがびっくりしながら見守っていると、白夜くんは眉一つ動かさずに、クッキーを突き返した。


「……悪いけど俺、誰かの手作りって気持ち悪くて受け付けないから」


「ご、ごめんなさい……っ!」


 泣きながら去って行く高倉さん。


「さすがツンドラの白夜くん」


 沙雪ちゃんがポツリとつぶやく。


 ツンドラの白夜って言うのは完璧王子の生徒会長、白夜くんのあだ名。


 女の子に対して永久凍土(ツンドラ)並みに冷たいって言うのがその由来。


 沙雪ちゃんによると、女の子に冷たくて特定の彼女を作らないから安心して推せる言うのも白夜くん人気の一因らしいんだけど……。


 私はというと、なぜだか白夜くんに対し猛烈に腹が立っていた。


 あんなに可愛い子が一生懸命作ったんだから、一応受け取っておけばいいじゃん。


 いらないなら家でこっそり捨てればいいだけだし、それをあんな冷たい言い方しなくても……。


 私がじっと白夜くんを見つめていると、不意に白夜くんがくるりと振り返った。


「まずいっ」

「隠れよ」


 慌てて沙雪ちゃんと二人、柱の陰に隠れる。


 しばらくして恐る恐る柱の陰から顔をのぞかせると、もうそこに白夜くんの姿はなかった。


「……あーあ、行っちゃったね」

「そうだね、残念」


 私たちはがっくりと肩を落とした。


 結局その日、私は白夜くんの取材をすることはできなかった。


 はあ、いつになったら取材できるんだろ。

 


 

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