16.お母さんのピンチ
「あれっ、花、スマホ光ってる」
いつものようにうちに晩ご飯を食べに来きた白夜くんが、私のスマホを指さす。
「えっ?」
慌ててスマホを手にとると、おばあちゃんからの着信だった。
おばあちゃんが電話なんて珍しいな。どうしたんだろ。
不思議に思いながらも電話に出る。
「はい、もしもし?」
すると電話口からこんな声が聞こえてきた。
「花、大変よ。あんたのお母さんが倒れたの!」
「ええっ!?」
お母さんが……倒れた!?
「ど、どうして?」
「私もさっき病院から連絡があったばかりだからよく分からないけど、とにかくこれから総合病院に行って様子見てくるわ。あんたは心配するんじゃないよ。それじゃあね!」
「あ、ちょっと!」
ガチャッ。
ツーツーツー。
電話が一方的に切られる。
私はスマホを手に途方に暮れた。
お母さんが倒れた……一体なんで?
私がぼう然としていると、白夜くんが心配そうに声をかけてくる。
「どうしたの、花。顔が真っ青だけどおばあちゃんは何て?」
「よ、よく分かんないけど……お母さんが倒れたって……」
私は震える唇で白夜くんに話した。
自分で口にしておいて、自分で信じられない。
だって、そんなまさか、お母さんが。
「えっ、倒れたってどうして?」
心配そうな顔をする白夜くん。
私は首を横に振った。
「どうしてかは全然分かんない。おばあちゃんもさっき病院から連絡が来たばかりで、よく分かってないみたいで……」
どうしたんだろう、お母さん。
事故? 病気?
頭の中にグルグルと悪い考えがうずまく。
どうしよう、もしお父さんだけでなくお母さんまで死んじゃったりしたら……。
気がつくと、私の目からはボロボロと涙がこぼれ落ちていた。
「花、大丈夫だよ」
白夜くんがギュッと私の手を握った。
暖かなぬくもりに、私はハッと顔を上た。
「白夜くん……」
白夜くんは、いつものだらけた顔とは違う、完璧王子のスマイルとも違う、真っ直ぐな眼差しで私を見つめて言った。
「俺がついてる。一緒に病院に行こう」
白夜くんと一緒に病院に?
それは心強いけど……。
「でも、どこの病院かも分からないし」
「おばあちゃんにもう一度連絡してみたら?」
「あ、そっか」
私は慌てておばあちゃんにメッセージを送った。
どうしよう。手が滑って中々文字が打てない。
心臓が嫌な音を立てる。
やっとの事で「お母さんの入院している病院はどこ?」と送ったんだけど、おばあちゃんからの返信はない。
電話をかけても繋がらない。
「返事が来ない……」
「病院に向かってる最中なのかも」
と、そこで白夜くんは少しうつむいて考えこむような仕草をした。
「そういえば、五十鈴さんの実家ってどの辺?」
「えっと、山中町」
「お母さんの職場もその辺なの?」
「うん」
「……確か、花のお母さん、救急車で運ばれたって言ってたよな。なら、山中総合病院じゃないか。あの辺で救急外来やってるのってそこぐらいだし」
「あっ」
そういえばおばあちゃんも、総合病院って言ってたっけ。
さすが白夜くん。頭良いな。
「そうかも。でも山中町って結構遠いし、どうやって行くの?」
私の問いに、白夜くんは少し考えたあとでこう答えた。
「それなら、寮母さんに相談してみよう」
そっか、寮母さんなら車を持っているかもしれない。
「うん、そうしよう」
私たちは、二人で部屋を出て寮母さんの部屋へと向かった。
「寮母さん!」
私たちが寮母室へ向かうと、ちょうど寮母さんはどこかへ出かけようとしている所だった。
「あらま、二人そろってどうしたの?」
キョトンとした顔の寮母さん。
「寮母さん、車って出してもらえますか?」
「車?」
事情を説明すると、寮母さんは深くうなずいた。
「なるほどね。でも残念だけど私は車を持ってないんだよね」
「そんな」
私が落ち込んでいると、寮母さんは続けてこう言った。
「でも、緊急の用事みたいだし、私が普段使ってるタクシーを呼んであげましょ」
タクシー!
その手があったんだ。
「ありがとうございます!」
私と白夜くんは深々と頭を下げた。
良かった。これで病院に行ける!
私たちは二人で病院に向かうことにした。