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13.ゴシップの罠

 結局、私は学校新聞に二股疑惑の否定記事を載せた。


 だけど、次の週の日報には、今度は私と紬くんのことについて詳しく書かれた記事が載り、騒ぎは収まるどころかさらに大きくなっていった。


 それに加え、関係ないはずの部長やクラスの男子と私が楽しそうに話す写真まで載っちゃって――。


 どうしてこうなるの!?


「もう、まるでいたちごっこだよー!」


 私が叫ぶと、部長が日報を手に渋い顔をする。


 そこには『前代未聞の男好き!』『五十鈴花のモテ人生』なんて言葉が載っていた。


「……自慢じゃないけど、モテた事なんて一度もありませんよ」


 苦々しい顔で私が言うと、部長は首を横に振った。


「そういう問題じゃない、学校新聞の発行部数の話だよ」


 そう言って、部長は何かのグラフを黒板に貼り付けた。


「この折れ線グラフの赤い線は学校新聞、青い線は学友日報の発行部数だ」


 部長に言われてグラフを見る。


 今年に入ってから、ずっと学校新聞の方が多かったのが、ここ数週間は学友日報に負けている。


「発行部数で負けてるんですか?」


 私がびっくりして尋ねると、部長は苦々しい顔で腕を組んだ。


「ああ、君たちのゴシップが出始めてからね」


「そんな」


 あんなウソの記事に学校新聞が負けるなんて、信じられない。


「早く何とかしないとな」


「はい」


 取り合えず返事をしてから考えこむ。


 でも何とかって言われてもどうしたらいいんだろう。


「紬くんはどうしたらいいと思う?」


 私は隣にいた紬くんに声をかけた。


 紬くんは平然とした顔で肩をすくめる。


「そうですね、僕が思うに、五十鈴先輩はわざわざ反論記事を書かなくてもいいんじゃないですか?」


 反論記事を書かなくても良いって……本気で言ってる?


「でも、反論しないとみんな向こうを信じちゃうよ」


「そうでしょうか? 案外、無視してればみんな飽きて自然と騒ぎも収まると思いますよ。反論するからさわぎが大きくなってるのかも」


「そうかなあ」


 紬くんの言うことも一理あるかもしれない。でも……本当にこのままでいいの?


「ドーンと構えてましょうよ、ドーンと!」


 明るい顔で胸をたたく紬くん。


「……うん、そうだね」


 私は何も言えなくなって視線を床に落とした。


 本当に、そうだといいんだけど。


 そんな私の思いをよそに、私が二股をかけているというウワサは学校中にどんどん広まっていってしまった。


「見て見て、あの子だよ」

「えー、全然可愛くないじゃん」

「本当。なんであんな女がモテるんだろ」

「いい加減、白夜くんと紬くん、どちらが本命かハッキリさせたらいいのにねー」


 廊下を歩くだけでそんな声が聞こえてくる。


 なんかイヤだな。


 どうしてみんなあんな信憑性のない記事を信じてしまうんだろう。


 私が身を縮こまらせながら教室を移動していると、後ろから声をかけられた。


「五十鈴さん、ちょっといいかな」


 振り返ると、そこにいたのは綾瀬さんだった。


 私は綾瀬さんに連れられて、廊下の隅にやってきた。


「私に何の用ですか?」


 恐る恐る尋ねると、綾瀬さんはふうと息を吐いた。


「決まってるじゃない。白夜くんのことよ。もうすぐ文化祭があるのは分かってるよね?」


「……はい」


「なら話は早いけど、文化祭を成功させるのは、白夜くんの入学当時からの夢なの」


 綾瀬さんが言うには、白夜くんは一年生のころから綾瀬さんと一緒に裏方として体育祭や文化祭、キャンプなど学校行事の手伝いをしてきたらしい。


「そのころから白夜くんは『いつか俺も生徒会長になって学校行事を成功させたい』って言ってたわ」


 へえ、そんなに昔から……。


 私が感心していると、下を向いていた綾瀬さんの目から急にポロポロと涙がこぼれ落ちてギョッとする。


「文化祭のでき次第で、白夜くんの生徒会長としての評価が決まるから、白夜くんも頑張ってるの。こっちから見ても怖いぐらいに準備に没頭してる。でも最近は最近無理がたたったみたいで顔色も良くないし、少しやつれちゃって……見てられない」


 涙ながらに訴える綾瀬さん。


 確かに、最近の白夜くんはあんまり顔色が良くないかも。


 頑張ってる白夜くんの邪魔になるようなこと、私がしちゃいけない。


 私はギュッと手をにぎりしめた。


「大丈夫だよ。私は白夜くんの邪魔なんてしないから」


「本当?」


「うん。あんなゴシップ、本気にしないで」


 私の言葉に、綾瀬さんはこくんと可愛らしくうなずくと、ハンカチで顔をぬぐった。


「ごめんなさい、感情的になって。それじゃ」


 ぱたぱたと足音を立てて去っていく綾瀬さん。


 その後ろ姿を見ながら、私は妙に寂しい気持ちになった。


 綾瀬さんもたぶん、白夜くんのことが好きなんだろうな。


 白夜くんだってそんなに鈍感にも見えないし、その気持ちには気づいているはずなのに。


 それなのに、私に彼女役を頼むだなんて。


 あんなにも白夜くんを心配している綾瀬さんの気持ちを考えただけで、なんだか胸がむかむかしてきた。

 

 白夜くん、あなたはいったい何を考えているの――?


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