12.三角関係?
休み時間。私は一人、白夜くんのインタビュー記事の原稿をチェックしていた。
「花っ!」
私を呼ぶ声に顔を上げる。
目の前にいたのは、ミルクティー色の髪の可愛い女の子、沙雪ちゃんだ。
「今忙しい?」
沙雪ちゃんは意味深な笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「ううん、別に。何か用?」
「特に用ってわけじゃないんだけど、白夜くんって、普段どんな感じなのかなあって」
私はかあっと顔が熱くなった。
「別に普通だよ。みんなの前でクールに見えるかもしれないけど、中身は普通の男の子って感じかな」
私が答えると、沙雪ちゃんが小さくため息をついた。
「いいなあ、花は白夜くんとラブラブで」
沙雪ちゃんの言葉に、私は慌てて首を横に振った。
「そ、そんなラブラブってほどでもないよ」
っていうかニセのカップルだし。
「またまたあ。いつもお弁当も作ってあげてるんでしょ?」
「それは、自分のを作るついでだから!」
そんなふうに私と沙雪ちゃんが話していると、クラスの女子がわらわらと集まってきた。
「でも私、花ちゃんは紬くんと付き合うのかと思ってたけどな」
「そうそう! っていうか、あの子と付き合ってるのかと思ってた!」
「ねー、紬くんも結構イケメンだよね。もったいないー」
へっ、紬くん?
何で今紬くんが出てくるの?
私は慌てて首を横に振った。
「ないない。あれは弟みたいなものだし、私の彼は白夜くんだから」
と、そこまで言って、急に沙雪ちゃんたちの表情が変わった。
「ん? どうしたの?」
ゆっくり振り向くと、そこには真っ青な顔をした紬くんが立っていた。
「せ、先輩、この記事本当なんですね」
うるうるとチワワみたいな瞳で見つめてくる紬くん。
「う、うん、本当だよ」
私が答えると、紬くんはがっくりと肩を落とした。
「そ、そんな。先輩が生徒会長と付き合ってるだなんて、てっきりフェイクニュースかと思ってたのに」
「えっと……黙っててごめんね」
私がオロオロしていると、突然後ろからグイッと腕をつかまれた。
「俺の彼女に何か用かな?」
振り向くと、そこにいたのは白夜くん。
「びゃ、白夜くん!?」
白夜くんは私の体を強引に自分の横に引き寄せると、紬くんを真正面から見すえた。
白夜くんの鋭い視線にさらされた紬くんは、ぷいっと視線をそらした。
「別に、用があるわけじゃありませんけど」
「君さ、花の幼馴染なんだって?」
白夜くんがじっと紬くんを見つめる。
「そ、そうですけど」
紬くんがたじろぎながら返事をすると、白夜くんはクスリと笑った。
「そう。でもこれからはあんまり馴れ馴れしくしないでね。花は俺のだから」
挑発的な目で紬くんを見つめる白夜くん。
はあ⁉
ちょ、ちょっと白夜くんったら、何言ってるの?
「分かってます。失礼します。五十鈴先輩、生徒会長とお幸せに」
紬くんは唇を噛み締めると、苦々しい顔で教室から走って出ていった。
「あっ、紬くん!?」
もう、白夜くんったら。
いくら私と付き合ってるふりをしなきゃいけないからってやりすぎだよ!
「やだ、修羅場?」
「三角関係!?」
教室内にいたクラスメイトたちがザワつく。
「ち、違うってば!」
慌てて否定したけど、またたくまに私が二股をかけているだとか、三角関係だというウワサが広まってしまった。
***
「今度は君たちが三角関係だっていう記事が日報に出てるぞ」
部長が机の上の日報を指さして苦々しい顔をする。
「そうなんですよね。困ったなあ。どうしたらいいんでしょう」
私が頭を抱えていると、部長はトントンと記事の見出しを指さす。
「『学園のモテ男二人を手玉に取る魔性の女』だとさ」
「もう、笑いごとじゃないですよ」
「だってさ、『男心をもてあそぶ小悪魔女』だよ? 五十鈴さんのイメージと全然違う」
そう言って笑い続ける部長。
もう、部長は他人事だからいいよね。
こっちは本気で悩んでるのにさ。
「わあ、僕まで日報に載ってますね。まるで有名人になったみたいだ」
紬くんまで笑顔で記事を見つめる。
あのね、自分のことだって分かってる?
私は思わず語気を強めて言った。
「あのね、喜んでる場合?」
私の言葉に、紬くんはしゅんと縮こまった。
「すみません、僕、こういうのに載ったことないのでなんだか新鮮で」
「もう、こっちは否定記事を書くので大変なんだからね」
私は書きかけの記事に目を落とした。
本来書くはずだった記事と全然違う記事。
本当なら白夜くんの連載記事を載せる予定で、私も白夜くんも楽しみにしてた。
なのに――どうしてこうなったんだろう。