11.彼氏彼女の関係
「あっ、花!」
「見たよ、今週号の学校新聞!」
「あの生徒会長と付き合ってるだなんてすごーい!」
新聞が発売されるやいなや、私はクラスの女子たちに囲まれた。
「いや、あの、こう……白夜くんとは取材をしているうちに成り行きで付き合うことになって……」
私がしどろもどろになりながら白夜くんと付き合うことになったウソの経緯について答えた。
女子たちは目をキラキラと輝かせる。
「そうなんだ!」
「すごーい」
「まさかあの花がねぇ」
なんだか意外な反応だな。
もっとやっかみとか嫌がらせがあると思ってたのに。
私がビクビクしながら席につくと、今度は沙雪ちゃんが新聞を手にやってきた。
「花ーっ、新聞見たよ! やっぱり二人、そうだったんだー」
「あっ、沙雪ちゃんおはよう。……うん、実は」
私が目をそらしつつも答えると、沙雪ちゃんはニヤリと笑った。
「おめでとう。何だかんだでお似合いじゃない?」
「そう?」
私と白夜くんがお似合い? 一体どこが?
「っていうか、沙雪ちゃん……怒ってない?」
私が恐る恐る尋ねると、沙雪ちゃんはキョトンした顔で首をかしげた。
「怒る? どうして?」
「だってほら、沙雪ちゃん、ずっと白夜くんのこと好きだったでしょ?」
「まあね。でも白夜くんはどちらかというと観賞用の男の子っていうか、恋愛対象っていうよりアイドルみたいな感じだったし」
「そうだったんだ」
良かった。
私はほっと胸を撫で下ろす。
最近、沙雪ちゃんは隣のクラスの男子と仲が良いみたいだし、その影響もあるのかな。
「あ、ウワサをすれば白夜くんだよ」
沙雪ちゃんが教室のドアのところを指さす。
私はドキリと心臓が跳ね上がるような気分になった。
白夜くん? 一体どうして。
私が戸惑っていると、白夜くんは爽やかな笑みを顔に張り付けて私の方へ歩いてきた。
「花、会いに来たよ。一緒にお弁当食べない?」
お弁当? どうして?
っていうか花って――
私は少し戸惑いながらも、拒否するのも変かもと思い渋々うなずいた。
「うん――沙雪ちゃん、いい?」
「いいよいいよ、二人、付き合ってるんだし、行って来なよ」
「ごめんね」
私は白夜くんの後について生徒会室へと向かった。
「びっくりしたよ。いきなり『花』だなんて」
私がぶつくさ言うと、白夜くんは私の背中をトントンと叩きながら笑った、
「良いでしょ、彼女なんだから。花も俺の事、『港』って呼んでいいよ」
「遠慮しておきます」
呼べるわけないよ、白夜くんのこと、『港』だなんて!
「そう? 遠慮しなくていいのに」
遠慮なんてしてない!
私たちがそんな話をしていると、突然ガラリと生徒会室のドアが開いた。
「あれっ、白夜くん」
入ってきたのは、長いサラサラのストレートヘアーに白い肌の美少女。
あ、白雪姫――じゃなくて副会長の綾瀬さんだ。
白夜くんはあわてて私から離れた。
「生徒会室、勝手に使ってたよ。ごめんね」
白夜くんが言うと、綾瀬さんはサッと視線をそらした。
「いえ、別にかまいません。ただ、いくら彼女とはいえ、部外者を入れるのは……」
綾瀬さんは机の上に書類をドサリと置くと、一瞬、私のほうをキッとにらんだ……ような気がした。
私はあわてて頭を下げた。
「ごめんなさい、邪魔でしたら、これ食べたら出ていきますから」
綾瀬さんはさっきのキツい顔がウソだったかのように、可愛らしい笑顔に戻った。
「いえ。別に私は何とも思わないけど、先生に見つかったら困るんじゃないかなって。余計なお世話だったらごめんなさい」
そういうと、綾瀬さんはそそくさとドアを閉めて生徒会室から出ていった。
私はホッと息を吐いた。
綾瀬さん、やっぱり白夜くんのこと好きなのかな。
だとしたら私、なんだか悪いことしてるかも。
「ねえ、白夜くん」
私は思い切って白夜くんに尋ねてみた。
「何」
「本当に、彼女役は私でいいの?」
「何で」
キョトンとした顔の白夜くん。
「だって他にもっと綺麗で可愛くていい人がいるんじゃないの?」
「何言ってんの。俺は花がいいの。変なこと気にするなよ」
そう言って、呑気にお弁当を頬張る白夜くん。
それって私が白夜くんのことを好きじゃないからってこと?
でもそれだったら、他にもっといい人がいそうなのに。
私は小さくため息をついた。
……本当にこれでいいのかな。