10.熱愛発覚
先輩がこんなに顔色を変えるだなんて、どんな記事なんだろう。
私は先輩が手に持っている日報をひょいとのぞきこんだ。
見出しに書いてあったのは、「熱愛発覚!? 新聞部の記者、生徒会長にお弁当の差し入れ」という文字。
ええっ。
生地とともに私が白夜くんにお弁当を渡す写真も掲載されている。
何これ。
誰かがスマホで撮った写真だろうか。
私がびっくりして固まっていると、紬くんが青い顔をして私の顔を見つめた。
「これって本当なんですか!?」
私は慌てて首を横に振った。
「本当なわけないじゃん。たまたま取材のお礼にあげただけだよ」
紬くんはホッと胸をなで下ろした。
「なぁんだ、そうだったんですね」
そんなやり取りを横で見ていた部長は眉に皺を寄せた。
「まあ、ともあれ、否定の記事は書かないと。このままだと新聞部の名誉にも生徒会長の評判にも、傷がつく」
「はい、すみません。そうします」
私はぺこりと頭を下げた。
困ったなあ。
とりあえず白夜くんの名誉のためにも、ゴシップを否定する記事を書かないと。
これで騒動が収まるといいんだけど……。
***
「俺と五十鈴さんの熱愛報道? 面白いね」
放課後。白夜くんは私の作ったカレーを食べながら、のんきに笑った。
今日の晩ご飯は野菜をたっぷり使ったスープカレー。
白夜くんのファンの子が北海道から取り寄せたじゃがいもと玉ねぎを使ってるんだけど、これがホクホクして美味しいんだ。
でも今はそれどころじゃない。
「もう、笑い事じゃないよ」
私はサラダを頬張りながら白夜くんを睨んだ。
「こんなこと書かれたら、白夜くんのイメージも悪くなるでしょ」
「うん、それなんだけどね」
とここで、白夜くんは名案とばかりにニヤリと笑った。
「そうだ。いっその事、俺たちは付き合ってるってことにして、学校新聞で大々的に報じちゃえばいいんじゃないの」
私は箸からサラダのキュウリをポロリと落とした。
「な、何言ってるの?」
「だってその方が、学校で親しく話したり、お互いの家に行き来したりするのも気兼ねなくできるし」
「だからって――」
「それに、五十鈴さんが彼女になってくれれば、五十鈴さんの料理が毎日食べられるし、お弁当を作ってもらっても全然不自然じゃないじゃん?」
子供のような笑顔で笑う白夜くん。
もしかして白夜くん、食べ物目当て?
まあ、確かにそうすれば二人でコソコソ会う必要もないし、堂々と話ができるかも。
でも……。
「確かにそうかもしれないけどさ」
私が迷っていると、白夜くんが頬杖をつきながら上目遣いに聞いてくる。
「それとも、あの後輩に誤解されるのがイヤとか?」
へっ?
「後輩って、紬くん? ないない。ただの幼なじみだよ」
もう、沙雪ちゃんだけじゃなく白夜くんまで、何言ってるんだか。
「本当に? 五十鈴さんは何ともなくても、向こうは好きなんじゃないの?」
私は首をブンブンと横に振った。
「違うよ、紬くんとは姉と弟みたいな関係で、そんなんじゃないの。それに幼稚園のころから一緒だけど、一度も告白されたことなんてないし」
「ふーん」
信じられない、という様子の白夜くん。
本当に紬くんとは何ともないんだけどな。
「じゃあ、別に彼女のふりをしてもいいじゃん」
「うん……」
私はしぶしぶうなずいた。
白夜くんの言う通り、今は良くても、次はこうやってお互いの部屋に出入りする所をスクープされるかもしれない。
そんなふうになって、ある事ない事日報に書かれるくらいなら、先に新聞部で熱愛宣言しちゃった方がいいのかも。
私はうなずいた。
「分かった。次の号の新聞で、熱愛宣言しちゃおう」
「うん、よろしくね」
ニコニコ笑ってカレーを頬張る白夜くん。
はあ。
ニセとは言え、白夜くんの彼女になるだなんて、学校中が大さわぎになりそう。
……気が重いなあ。