幸運な黒猫
目を開くと、空が青かった。
それだけだけど、僕は満たされていた。
僕は、僕は、晴れを待ち望んでいたから。
***
僕はこの世界だと不幸の象徴。僕はいるだけで誰かを不幸にさせてしまう。
どうして?
僕はみんなに笑ってほしいのに、いつもうまく行かない。
僕がいる場所はいつも雨。ずーっと雨で、僕は青い空を拝んだことがないんだ。
空って本当に青いのかな?
白いんじゃない?透明なんじゃない?
赤とか、紫もありだよね。
僕、空の色を想像するのが好きなんだ。
でも今日も駄目な日だ。僕はだめなやつだ。
目が覚めては雨音ばかり。
誰かのそばにいると迷惑をかけてしまう。
僕がいなくなることをみんなが望んでいる。
僕がいることをみんなが嫌がっている。
嫌な気持ちにさせている。
ねぇ、僕は本当は消えたいんだ。
そう言って駆け出した。
僕は最後に空が見たかった。
だから高く高く登った。
歩道橋の一番上。
小さな僕の世界で一番高い場所。
でも空はとっても遠くて、雨が降っていたよ。
そこで僕は力尽きてしまったんだ。
疲れちゃったよ。
それでね、うっかり足を滑らせた。
僕本当に消えれるのかもしれないと思って少しだけ幸せだった。
でもやっぱり悲しかったな。
誰からも必要とされなくて、誰かに迷惑ばかりかける自分が。
1度でいいから誰かを笑顔にしたいと望んでも、僕には叶わない。その力すらない。
僕は目を閉じた。諦めたんだ。
でもその時、僕の頼りない手を握る温かい手があった。
それが君。
君は僕のことを助けてくれた。命の恩人だよ。
僕はびっくりしちゃって、固まって何も言えなかった。怖くて顔も見れなくて俯いてたんだ。
すると君の目は悲しそうに雨を降らしてた。
「いなくならないで」
そんなこと初めてだ。
「君が一番君がいなくなることを望んでるの」
どういうこと?
「君の周りの人はね、君がいるからって迷惑なんかかってないよ。」
でも僕は、隣にいるだけで誰かに雨を降らせてしまう。
「お願い気づいて、君のこと迷惑だなんて思ったことない」
そうなの?
「お願い、笑って」
そう言われて初めて自分がずっと泣いていたことに気づいた。
僕はね、ずっと雨だと思ってた。
でもそれは僕がずっと泣いていたからだった。
初めて自分の姿を見たよ。
泣いてた。
僕はきっと君に言われなければ気づかなかった。
泣いてたら晴れなんて見えない。
僕は、ずっと自分の涙を雨と勘違いしてたんだ。
それに気づくと僕は笑った。
涙を拭った。
目を開くと、空が青かった。
それだけだけど、僕は満たされていた。
僕は、僕は、晴れを待ち望んでいたから。