『カップル襲う系ヴァンパイア』
■ 第一章 夜の帝王(自称)
東京の夜は、俺にとって最高の狩場だ。
ビルの屋上から見下ろす街には、無数の生命の灯が瞬いている。人間どもの血の匂いが風に乗って漂ってくる。俺は吸血鬼。夜の帝王。不死の存在。
……まあ、見た目は完全に冴えないサラリーマン風だけど。
鏡に映らないから確認できないが、吸血鬼になる前の記憶によると、俺の顔面偏差値は推定38くらい。髪は薄く、目は小さく、顎は引っ込んでいる。百年前に吸血鬼に襲われて仲間入りしたが、外見は一ミリも改善されなかった。
「吸血鬼になったら美形になれると思ったのに」
独り言を呟きながら、俺は次の獲物を探す。
そして、見つけた。
公園のベンチで抱き合うカップル。男は爽やかイケメン、女は可愛い系美女。完璧な組み合わせ。見ているだけで胃液が逆流しそうだ。
「……爆発しろ」
呪詛を吐きながら、俺は飛び降りる。
■ 第二章 新しい遊び
最近、ただ血を吸うだけじゃつまらなくなってきた。
百年も同じことを繰り返していれば、そりゃマンネリにもなる。美味い血、不味い血、いろいろ試したが、結局のところ栄養補給でしかない。
だが先週、面白い発見をした。
渋谷で酔っ払いカップルを襲った時、俺の姿を見た女が悲鳴を上げた。
「キャアアア! 化け物!」
ひどい。俺は吸血鬼だぞ。化け物呼ばわりは失礼だ。まあ、見た目的には否定できないが。
その時、男の方が言ったのだ。
「お、お前を差し出せば助かるかも!」
女を突き飛ばして逃げようとした。女は泣き叫び、男を罵った。二人は醜く言い争いを始め、結局俺が両方の血を吸った後、そのカップルは別れた。
これだ、と思った。
単なる捕食じゃない。恐怖と絶望のエンターテインメント。そして何より、幸せそうなカップルを破局に追い込める。
一石三鳥だ。
■ 第三章 ゲームの始まり
「こんばんは」
俺が背後から声をかけると、カップルは驚いて振り返った。
「な、なんですか?」
イケメン男が警戒した目で俺を見る。女は俺の姿を見て、わずかに顔をしかめた。ああ、分かってるよ。俺がブサイクなのは自覚してる。
「鬼ごっこしませんか?」
「は?」
「俺から五分間逃げ切れたら、見逃してあげます」
「意味わかんないんですけど。行こう、ミキ」
男が女の手を引いて立ち去ろうとする。
俺は一瞬で男の前に移動した。超高速移動。吸血鬼の基本能力だ。
「うわっ!」
「ゲームは強制参加です。ルールは簡単。俺がカウントダウンを始めたら逃げてください。捕まったら……」
俺は牙を見せた。二人の顔が真っ青になる。
「血ぃ、吸わせてもらいます」
「バ、バケモノ!」
「化け物は失礼だな。吸血鬼だよ。さあ、カウントダウン開始。ご、よん、さん……」
二人は走り出した。
■ 第四章 醜い本性
公園を飛び出したカップルは、必死に逃げていた。
俺はゆっくりと後を追う。全力で走る必要はない。どうせ捕まえられる。大事なのは、プロセスを楽しむことだ。
「ちょっと、拓也、早く!」
「お前こそ、足遅いんだよ!」
お、早速ギスギスしてきたな。
俺は街灯の上に飛び乗り、二人を見下ろした。
「あと三分でーす」
「キャアアア!」
ミキが悲鳴を上げる。拓也は彼女の手を引いて路地裏に逃げ込んだ。
が、そこは行き止まり。
「やば、どうしよう」
「あんたが変な方向に走るから!」
「は? お前が勝手についてきたんだろ?」
おお、責任の押し付け合いが始まった。最高だ。
俺はゆっくりと路地裏に降り立つ。
「あと一分」
「や、やめてください! お金払いますから!」
拓也が財布を差し出す。
「血の方がいいです」
「じゃ、じゃあこいつの血を吸ってください! 俺は関係ないんで!」
拓也がミキを俺の方に突き飛ばした。
「えっ、拓也?」
ミキが信じられないという顔で彼を見る。
「だってお前、どうせ俺のこと金目当てで付き合ってたんだろ? こんな時くらい役に立てよ!」
「あんたこそ、私の体目当てじゃん! 最低!」
「うるせえ! ブス!」
「ハゲ!」
二人の罵り合いを眺めながら、俺は心の中でガッツポーズをした。
完璧だ。
■ 第五章 収穫の時
結局、両方の血を吸った。
ミキはAB型で少し酸味があり、拓也はO型で標準的な味だった。二人とも気絶させて、適当な場所に放置しておいた。死にはしない。俺は紳士的な吸血鬼だから、殺しまではしない。
ただ、あのカップルはもう終わりだろう。
翌日、俺は同じ公園のベンチに座っていた。陽の光は帽子とサングラスと日焼け止めでなんとかなる。体力は消耗するが、観察のためだ。
案の定、ミキが一人で公園に来て、ベンチに座った。目は腫れている。泣いていたようだ。
しばらくして、拓也も現れた。
「ミキ……」
「来ないで」
「昨日のことは……」
「もういい。私たち、終わりにしよう」
「そんな、あれは極限状態で……」
「あんたの本性がよく分かった。さようなら」
ミキは立ち去った。拓也はベンチに崩れ落ちた。
俺は満足してその場を後にした。
■ 第六章 続々・獲物たち
それから俺は、東京中のカップルを襲い続けた。
代々木公園のジョギングカップル。男が彼女を置いて逃げた。
お台場のデートカップル。女が「あなたが盾になって!」と男を突き飛ばした。
新宿のディナーカップル。お互いに「お前のせいでこんなことに」と責め合った。
全員、見事に破局。
俺の心は満たされていった。ざまあみろ、リア充ども。お前らの幸せなんて、ちょっとしたストレスで崩壊する脆いものなんだ。
だが、ある夜。
■ 第七章 想定外
「鬼ごっこしませんか?」
いつものように声をかけた相手は、地味な眼鏡男と地味な女だった。美男美女ではない。むしろ俺に近い外見レベル。
でも、カップルはカップルだ。許さん。
「え、鬼ごっこ? 急に?」
「はい。五分間、俺から逃げ切ってください」
牙を見せる。
「うわ、吸血鬼だ!」
「どうする、健太?」
「そうだな……全力で逃げるしかないか」
「うん。二人で頑張ろう」
二人は手を繋いで走り出した。
俺は追いかけた。が、何かがおかしい。
「こっちの路地!」
「分かった!」
二人は息を合わせて逃げている。お互いを見捨てようとしない。
「健太、疲れた?」
「平気。美月は?」
「私も大丈夫」
なんだこれ。
俺は本気を出して、二人の前に立ちはだかった。
「時間切れです」
「あー、残念」
健太が肩を落とす。美月も「仕方ないね」と苦笑した。
「血を吸いますよ?」
「どうぞ。でも、美月を傷つけないでください」
「私こそ。健太だけは助けてあげて」
二人はお互いを庇い合った。
俺は……なぜか血を吸う気が失せた。
「……今日は気分じゃないんで」
「え?」
「帰っていいです」
「本当に?」
「早く失せろ」
二人は不思議そうな顔をしながら、手を繋いで去っていった。
■ 最終章 夜の帝王の憂鬱
俺は屋上に戻り、夜空を見上げた。
百年生きて、ようやく分かった。
カップルが憎かったんじゃない。俺が欲しかったのは、ああいう関係だったんだ。どんな時でもお互いを思いやれる、本物の繋がり。
見た目じゃない。金じゃない。ただ、相手を大切に思える心。
「……俺、何やってんだろ」
自己嫌悪の波が押し寄せる。
まあ、今さらどうしようもない。俺は吸血鬼だ。人間と恋愛なんてできるわけがない。
「やっぱりカップルは爆発しろ」
空に向かって呪詛を吐く。
でも、心のどこかで思った。
次に襲うカップルが、あの二人みたいなカップルじゃないことを祈ろう、と。
東京の夜は、今日も続いていく。
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*不器用な吸血鬼は、今日も東京の夜を徘徊する。幸せを壊しながら、本当の幸せを探して。*
プロンプト
「『カップル襲う系ヴァンパイア~爆発しろ!~』。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、見た目はパッとしない。吸血鬼=美男美女とは限らない。ぶさめんが吸血鬼になっただけ、彼女いない歴=年齢。そして、最近マンネリ化してきた。街中でいちゃつくカップルを見ると、いらいらする。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑うカップルを狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。醜くお互いを生贄に捧げるカップル。そのせいでカップルは破局する。一度ならず二度三度楽しめる。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」




