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『 1 VS 300 』~それはまるでスパルタの戦い~

 ■ プロローグ


 ギリシャの夜は美しい。星空が輝き、古代遺跡が月光に照らされ、観光ガイドブックに載っている通りの幻想的な景色が広がっている。


 ただし、目の前に三百人の吸血鬼がいなければの話だが。


「さあ、日本から来た旅行者さん」


 先頭に立つ、やけに背の高い吸血鬼が優雅に手を広げた。マントをはためかせ、牙をキラリと光らせる。完璧な吸血鬼のコスプレだ。いや、本物だった。


「我々と鬼ごっこをしていただきたい」


「は?」


 思わず素っ頓狂な声が出た。


「鬼ごっこです。日没から日の出まで。あなたが逃げ切れば解放しましょう。捕まれば……まあ、お察しください」


 後ろでざわざわと笑い声が起こる。三百人。数えたわけじゃないが、たぶん三百人くらいいる。いや、もしかしたら三百一人かもしれない。どっちにしろ多すぎる。


 これはまるでスパルタの戦いだ。いや、あれは三百人が数万の敵と戦った話で、今回は私一人が三百人の吸血鬼から逃げる話だから、むしろ逆スパルタか。


「待って、なんで鬼ごっこ?普通に襲えばいいじゃん」


「我々にも美学というものがありましてね」


 吸血鬼のリーダーが肩をすくめた。


「それに、ただ血を吸うだけでは退屈でしょう?三千年も生きていると、刺激が欲しくなるのですよ」


 三千年。私の人生の百倍以上だ。そりゃ暇だろう。


「では、十秒差し上げます。十、九、八……」


 冗談じゃない。


 ■ 第一章:逃走開始


 私は走り出した。


 頭の中で高速回転する思考。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。でも、今は午前二時。日の出まであと四時間以上ある。


 四時間、三百人の吸血鬼から逃げ続ける?


 無理ゲーすぎる。


「七、六、五……」


 後ろから聞こえるカウントダウン。なぜか律儀に数えている。本当に美学を重んじる種族らしい。


 吸血鬼の弱点を思い出す。日光、ニンニク、十字架、流水、杭……いろいろあるが、どれも決定打にはならない。


 教会に逃げ込む?いや、深夜だから閉まってるし、神父さんを巻き添えにしてしまう。


 川に飛び込む?ギリシャの川なんて知らない。というか、ここアテネ市内だから川なんてあったっけ。


 民家に逃げ込む?最悪だ。一般市民を巻き添えにするわけにはいかない。


「三、二、一……さあ、始めましょう!」


 後ろから歓声が上がった。まるでスポーツイベントだ。いや、私にとっては命がけのサバイバルなんだが。


 ■ 第二章:路地への逃走


 結局、私が選んだのは細い路地だった。


 アテネの旧市街には、迷路のような細い路地が無数にある。人一人がやっと通れるような場所も多い。そこなら、数の暴力が通用しない。


「なるほど、賢い選択ですね!」


 後ろから声が聞こえた。振り返ると、吸血鬼たちがゾロゾロと追いかけてくる。しかし、路地が細いため、せいぜい二、三人ずつしか入れない。


 よし、作戦成功だ。


 リュックの中身を確認する。今回の旅行のために用意した「吸血鬼対策セット」。


 まさか本当に使う日が来るとは思わなかった。


 中身は以下の通り:

 - ニンニクスプレー(自作)

 - 小型の十字架(お土産用)

 - 聖水(たぶん本物)

 - 銀の粉末(ネット通販で購入)

 - 懐中電灯(強力LED、紫外線付き)

 - ペペロンチーノ(非常食、ニンニク入り)


「待て、最後のは違うだろ」


 自分でツッコミを入れながら、ニンニクスプレーを構える。


 最初の吸血鬼が路地に入ってきた。若い女性の吸血鬼だ。金髪で、目が赤く光っている。


「あら、可愛い日本人さん。おとなしく捕まった方が……ぎゃあああ!」


 ニンニクスプレーを直撃させた。効果は抜群だった。彼女は顔を覆って後退する。


「汚い!ニンニクスプレーなんて汚い!」


「生き残るためなら手段は選ばない!」


 私は路地の奥へと走った。


 ■ 第三章:迷路での攻防


 アテネの路地は本当に迷路だ。曲がり角を曲がるたびに新しい路地が現れ、時には行き止まりになり、時には広場に出る。


 吸血鬼たちは執拗に追いかけてくる。


「こっちだ!」

「いや、あっちに逃げたぞ!」

「三班に分かれろ!」


 なんだか組織的だ。三千年生きてるだけあって、連携プレーが上手い。


 私は十字架を取り出した。小さいが、銀製だ。お土産用と言ったが、実は結構高かった。


 角から飛び出してきた吸血鬼に十字架を突き出す。


「うわっ!」


 彼は飛び退いた。効果はあるが、決定打にはならない。あくまで時間稼ぎだ。


「おい、こいつ本気で対策してやがる!」


「ただの観光客じゃないぞ!」


「いや、ただの観光客だから!ただちょっと用心深いだけだから!」


 叫びながら走る。息が切れてきた。運動不足を痛感する。


 聖水の瓶を取り出す。これは教会で買った本物だ。たぶん。


 追いかけてくる吸血鬼の集団に投げつける。瓶が割れ、聖水が飛び散った。


「ぎゃああああ!」


 悲鳴が上がる。聖水に触れた部分から煙が上がっている。


「本物の聖水じゃないか!どこで手に入れた!」


「バチカンのオンラインショップで!」


 走りながら答える。実際には、ギリシャ正教会の小さな教会で買ったのだが。


 ■ 第四章:銀の粉末


 次の路地に逃げ込んだとき、私は袋小路に迷い込んでしまった。


「やった、追い詰めたぞ!」


 後ろから十数人の吸血鬼が迫ってくる。


 万事休すか。


 いや、まだだ。


 私は銀の粉末が入った袋を取り出した。ネット通販で買った、純度99.9%の銀の粉末。本来は工芸用だが、今日は武器になる。


「銀は吸血鬼に効くって聞いたけど、本当?」


「いや、それは狼男だろ!」


 吸血鬼の一人が叫んだ。


「え、そうなの?」


「そうだよ!」


「じゃあ、これは無駄?」


「無駄だ!」


「そっか」


 私は銀の粉末を吸血鬼たちの目に向けて投げた。


「ぎゃああああ!目が!目が!」


「汚い!やり方が汚い!」


「効かなくても痛いものは痛いだろ!」


 吸血鬼たちが目をこすりながらもがく。その隙に、私は脇の細い隙間から脱出した。


 ■ 第五章:ペペロンチーノの奇跡


 午前四時。あと二時間弱で日の出だ。


 しかし、私の体力は限界に近づいていた。足は重く、呼吸は荒い。吸血鬼対策グッズもほとんど使い果たした。


 残っているのは懐中電灯とペペロンチーノだけだ。


「もう逃げられませんよ」


 目の前に、あのリーダーの吸血鬼が現れた。他の吸血鬼たちも、周囲を取り囲んでいる。


「いい運動になりました。しかし、これまでです」


 彼がゆっくりと近づいてくる。


 私は最後の武器、懐中電灯を構えた。強力LED、紫外線付き。これが最後の希望だ。


 スイッチを入れる。


 しかし。


「……あれ?」


 光らない。


「え?」


 何度もスイッチを押す。反応がない。


「電池切れか」


「電池切れですね」


 吸血鬼のリーダーが同情的に言った。


「せっかくのUV懐中電灯なのに。惜しかったですね」


 絶体絶命だ。


 私の手には、ペペロンチーノのパックしか残っていない。


「……もう、これしかない」


 私はペペロンチーノのパックを開けた。中身は昨日の夕食の残り。ニンニクたっぷりのペペロンチーノ。


「何をする気です?」


「これを……」


 私はペペロンチーノを口に含んだ。ニンニクの強烈な風味が口いっぱいに広がる。


 そして。


「ぺっ!」


 吸血鬼たちに向けて、口からペペロンチーノを吹き出した。


「ぎゃああああああ!」


 ニンニクを含んだオイルが吸血鬼たちに降り注ぐ。彼らは一斉に悲鳴を上げて後退した。


「汚い!あまりにも汚い!」


「ニンニクオイルの霧とか反則だろ!」


「そもそも口から吹き出すとか、人としてどうなんだ!」


「生き残るためなら、人としての尊厳なんて!」


 私は走り出した。最後の力を振り絞って。


 ■ 第六章:夜明け


 午前五時四十分。


 私は丘の上にたどり着いた。アクロポリスが見える場所だ。


 東の空が白み始めている。


「もう少し……もう少しで……」


 後ろから吸血鬼たちの足音が聞こえる。でも、もう追いつかれることはない。


 空が赤く染まり始める。


 そして。


 太陽が昇った。


「ぎゃああああ!」


 後ろで悲鳴が上がる。吸血鬼たちが一斉に日陰に逃げ込む音が聞こえた。


 私は勝った。


「やった……やったぞ……」


 その場に倒れ込む。全身が痛い。息ができない。もう一歩も動けない。


 しばらくして、リーダーの吸血鬼が物陰から声をかけてきた。


「見事です。あなたの勝ちです」


「はあ……はあ……そりゃどうも……」


「約束通り、あなたを解放しましょう。ただし」


「ただし?」


「今夜、もう一回戦いませんか?」


「断る!」


 即答だった。


 ■ エピローグ


 その日の夕方、私はアテネの空港にいた。


 次の便でとっとと日本に帰る。もうギリシャには二度と来ない。


 チケットカウンターの職員が尋ねた。


「お客様、ご旅行はいかがでしたか?」


「……忘れられない体験でした」


「それは良かったです。またギリシャにいらしてくださいね」


「……考えときます」


 飛行機に乗り込む前、ふと振り返った。


 空港の隅、日陰になった場所に、あの吸血鬼のリーダーが立っていた。


 彼は手を振り、親指を立てている。


 グッドゲームだった、と言いたいのだろう。


 私も、疲れた体で手を振り返した。


 二度とやりたくないけど、確かに忘れられない夜だった。


 飛行機が離陸する。


 窓からギリシャの大地が遠ざかっていく。


 スマホに一通のメッセージが届いた。


「来年もお待ちしております。次は500人で。吸血鬼たちより」


「ふざけんな!」


 叫んだ私を、隣の乗客が不思議そうに見ていた。


 ---


 こうして、私とギリシャの吸血鬼たちの奇妙な一夜は終わった。


 ちなみに、その後ペペロンチーノを食べるたびに、あの夜を思い出してしまい、しばらくイタリアンが食べられなくなったのは、また別の話である。


プロンプト

「『1 VS 300』~それはまるでスパルタの戦い~。場所はギリシャ、夜中に大量の吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、どこに逃げても誰かを巻き添えにしてしまう。結局あそこしかない。そう細い路地だ。私は吸血鬼対策品を持って路地へ逃げ込む。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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