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『吸血鬼に襲われたら、フィッシング対決』


 ●第一章:邂逅


 日立市の港に面した工業地帯。午前二時の闇は、街灯すら飲み込むほど濃密だった。


 私は終電を逃し、徒歩で帰宅する羽目になった。そして、それが運命の分かれ道だったのだ。


「いい夜だねぇ」


 背後から聞こえた声に振り返ると、そこには信じられない存在が立っていた。漆黒のマント、青白い肌、そして——妖しく光る赤い瞳。


 吸血鬼だ。


「鬼ごっこをしないか?」吸血鬼は優雅に微笑んだ。「朝まで逃げ切れたら、君の勝ちだ。私に捕まったら——まあ、分かるよね?」


 心臓が凍りついた。逃げる? 人間の脚力で、超人的な身体能力を持つ吸血鬼から? 朝まではあと五時間もある。


 私の脳は高速回転を始めた。吸血鬼の弱点——日光、十字架、ニンニク、流水。だが、今手元にあるものは何もない。教会まで三キロ、スーパーは閉店済み、川は——


 その時、潮の香りが鼻を突いた。


 そうだ。ここは港だ。


「待ってくれ」私は叫んだ。「鬼ごっこはフェアじゃない。君の方が圧倒的に有利だ」


 吸血鬼は興味深そうに首を傾げた。「ほう、それで?」


「別の勝負を提案する」私は震える声を必死で抑えながら言った。「フィッシング対決だ。夜明けまでに、多く釣れた方が勝者」


 沈黙が訪れた。


 吸血鬼は目を細め、そして——笑い出した。


「面白い! 三百年生きているが、こんな提案は初めてだ。いいだろう、受けて立とう」


 ●第二章:準備


 近くの二十四時間営業の釣具店に駆け込んだ。店主は眠そうな目をこすりながらも、私たちの奇妙な組み合わせに何も言わなかった。日立市民は何を見ても動じないのだ。


「竿はどれがいい?」吸血鬼が楽しそうに聞く。


「君は初心者か?」


「釣りは初めてだ。血を吸うのに忙しくてね」


 これはチャンスかもしれない。私は子供の頃、祖父に連れられて何度もこの港で釣りをした。地の利は私にある。


「じゃあ、このリール竿がいいだろう」私は親切に助言した。実際は初心者には扱いづらいモデルだ。


 吸血鬼は高級そうなカーボン製の竿を選び、私は使い慣れた安価なグラスロッドを手に取った。


 ●第三章:死闘


 堤防に並んで立つ。奇妙な光景だ。人間と吸血鬼が、命をかけて魚を釣る。


「それでは——始め!」


 吸血鬼は優雅な動作で仕掛けを投げた。美しい放物線を描いて、仕掛けは遠くの暗闇に消える。


 だが、私には分かっていた。この時期、この時間、魚がいるのは堤防のすぐ際、テトラポッドの隙間だ。


 最初の一匹は五分で釣れた。小さなメバルだが、一匹は一匹だ。


「くっ」吸血鬼が悔しそうに呻く。超人的な聴覚で、私の釣果に気づいたらしい。


「焦るな。釣りは忍耐だ」私は余裕を装って言った。


 しかし、吸血鬼は学習が早かった。投げる距離を調整し、潮の流れを読み始める。何世紀も生きた知恵か、あるいは超常的な感覚か。


 午前三時、スコアは私が七匹、吸血鬼が五匹。


 午前四時、私が十二匹、吸血鬼が十一匹。


 差が縮まっている。


「面白いな、これは」吸血鬼が笑う。「血を吸うより興奮する」


「それは良かった」私は冷や汗を拭った。「だったら、今後は釣りを趣味にしたらどうだ」


「君が勝ったらね」


 ●第四章:夜明け


 午前五時三十分。空が白み始めた。


 スコアは私が十九匹、吸血鬼が二十匹。


「まずい」私は呟いた。残り三十分。逆転するには大物を釣るしかない。


 その時、吸血鬼のリールが鋭く音を立てた。大物だ。


「これは——!」吸血鬼の目が輝く。


 違う、まだだ。私は必死で祈った。バラせ、逃げろ。


 そして奇跡は起きた。


 吸血鬼の竿が大きくしなり——糸が切れた。


「あああああああ!」吸血鬼の悲痛な叫び。不死者の嘆きが港に響く。


 そして、私の竿にも大きな当たりが来た。慎重に、慎重に巻き上げる。現れたのは立派なスズキだ。


「フィィィィィィィィッシュ!!!!二十匹!」私は宣言した。


 東の空が茜色に染まる。吸血鬼は力なく膝をついた。


「負けた——いや、負けてない! まだ時間が——」


 日輪が姿を現した。


「ぎゃああああ!」吸血鬼は慌ててマントを被り、堤防の影に逃げ込んだ。「ま、負けた! 負けを認める!」


 私は深く息を吐いた。生き延びた。


 ●エピローグ


「来週もどうだ?」


 影から吸血鬼の声がする。


「は?」


「またフィッシング対決だ。次は負けない。今度は私が装備を整えてくる。フィッシング雑誌も買った」


 私は呆れながらも、少し笑った。


「釣った魚、どうするんだ?」


「近所に配る。人間との交流も大切だからね」


 こうして、私は奇妙な釣り仲間を得た。毎週金曜の夜、港で吸血鬼と釣りをする。負けたら血を吸われるという緊張感はあるが——それもまた、釣りの醍醐味かもしれない。


 だが一つだけ確かなことがある。


 吸血鬼は、まだ私に勝てていない。


 そして、今週も金曜日がやってくる。


プロンプト

「『吸血鬼に襲われたら、フィッシング対決』。場所は日立市、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうフィッシング対決だ。「多く釣れたほうが勝者だ」。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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