『吸血鬼に襲われたらアマゾンの奥地へ向かえ』~ドラキュラ探検隊~
● 第一章:真夜中の提案
東京の片隅、渋谷のラブホテル街を抜けた裏路地。午前二時。
私は目の前に立つ男を見上げた。いや、男と呼ぶべきか。蒼白い肌、紅い瞳、そして口元からのぞく異様に長い犬歯。教科書通りの吸血鬼だった。
「さあ、鬼ごっこをしよう」
吸血鬼は芝居がかった仕草で腕を広げた。マントが風もないのにひるがえる。どういう原理だ。
「お前が朝まで逃げ切れたら、見逃してやる。だが捕まえたら——」
「血を吸うんだろ?」
「当然だ」
私の脳は高速回転を始めた。吸血鬼の弱点。日光、十字架、ニンニク、流水、心臓に杭——。だが、ここは東京だ。朝まで六時間。渋谷の街で六時間も逃げ切れるか? ニンニクを売っているコンビニはあるか? いや、24時間営業の教会なんてあるのか?
待て。落ち着け。考えろ。
吸血鬼の真の弱点とは何だ?
そうだ。あそこしかない。
私は突然振り返って、吸血鬼の紅い瞳を見据えた。
「お前はなぜ吸血鬼になった」
吸血鬼の動きが止まった。口を開けたまま固まっている。
「い……いや」
「答えろ」
「それは……その……」
吸血鬼がしどろもどろになっている。いける。
私は一歩前に出た。
「お前のルーツは何だ。誰に噛まれた。どこで生まれた。なぜ東京にいる。お前の物語を、俺は知らない」
「待て、待ってくれ。そういう話をする流れじゃ——」
「謎を調べよう」
私は吸血鬼の肩に手を置いた。
「俺と一緒に、お前の起源を探す旅に出よう。そう…秘境アマゾンの奥地へ」
「は?」
● 第二章:ドキュメンタリーの始まり
***
☆☆ナレーション☆☆(渋い男性の声):「人類は古来より、吸血鬼という存在に怯えてきた。だが、彼らはどこから来たのか。誰も答えを知らない。今宵、一人の男が立ち上がった。吸血鬼のルーツを探る、前人未踏の旅が——今、始まる」
***
成田空港、出国ロビー。
私は機内持ち込み用のリュックを背負い、チケットを握りしめていた。隣には、サングラスとキャップで完全防備した吸血鬼——名前はドミトリー・フォン・ブラッドという——が、不機嫌そうに立っている。
「なぜ私がアマゾンに行かなければならない」
「お前の起源がそこにあるかもしれないからだ」
「根拠は?」
「吸血鬼伝説は世界中にある。ヨーロッパ、アジア、アメリカ——。だがその多くは近代の創作だ。真の起源を探るなら、人類文明の揺籃の地、アマゾンしかない」
「めちゃくちゃな論理だな」
「ドキュメンタリーとはそういうものだ」
ドミトリーは深くため息をついた。
「それに、なぜ私はお前に付き合っている?」
「お前、さっき『誰も俺の話を聞いてくれない』って泣いてただろ」
「泣いてない! あれは血の涙だ!」
「同じだろ」
***
☆☆ナレーション☆☆:「吸血鬼ドミトリー、推定年齢三百歳。だが、彼自身も自分のルーツを知らない。記憶にあるのは、百年前のプラハで目覚めたこと。それ以前は——謎だ」
***
● 第三章:アマゾンの洗礼
ブラジル、マナウス。
アマゾン川のほとりで、私たちは現地ガイドのカルロスと合流した。五十代の陽気な男で、私たちを見るなり笑顔で言った。
「ようこそ! アマゾンの奥地に何を探しに?」
「吸血鬼の起源です」
カルロスの笑顔が固まった。
「……ジョークだよな?」
「本気です」
私はドミトリーを指差した。ドミトリーは仕方なくサングラスを外した。紅い瞳が陽光を避けるように細められる。
「で、でも昼間だぞ。吸血鬼は太陽光で——」
「日焼け止めSPF9000を全身に塗った」
「そんな商品あるのか!?」
「ある」
ドミトリーが真顔で言った。実際、彼の肌は真っ白な日焼け止めでコーティングされ、マイムのようになっていた。
カルロスは天を仰いだ。
「……いくら払う?」
「五十万円」
「分かった。案内する」
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☆☆ナレーション☆☆:「探検隊は今、アマゾンの奥地へと船を進めている。ジャングルの緑は深く、太陽光は遮られる。吸血鬼にとっては理想的な環境だ。だが——彼らを待つものは、平穏などではなかった」
***
● 第四章:伝説との遭遇
船は泥水の川を遡った。三日後、私たちは奥地の先住民族の村に到着した。
村長は百歳を超える老人で、私たちを見ると目を見開いた。
「お前……吸血鬼か」
ドミトリーは驚いて村長を見た。
「なぜ分かる」
「我々の伝承にある。『夜に生き、血を糧とする蒼い者』——お前たちの起源は、この地にある」
私は身を乗り出した。
「詳しく教えてください」
村長は静かに語り始めた。
「遠い昔、この地に隕石が落ちた。そこから生まれたのが、最初の『夜の者』だ。彼らは不死身で、太陽を嫌い、血を求めた。だが——」
「だが?」
「彼らは孤独だった。誰も理解してくれなかった。だから、世界中に散らばっていったのだ」
ドミトリーは黙って聞いていた。その横顔は、どこか寂しげだった。
村長は続けた。
「そして彼らは、自分たちの居場所を探し続けている。今もなお」
***
☆☆ナレーション☆☆:「吸血鬼の起源——それは宇宙からの訪問者だった。彼らは地球で生き延びるため、血を糧とする体へと進化した。だが、孤独という代償を背負って」
***
● 第五章:帰還
東京、渋谷の裏路地。
あの夜と同じ場所に、私たちは立っていた。
「結局、俺は宇宙人だったわけか」
ドミトリーが自嘲気味に笑った。
「でも、分かって良かっただろ。お前のルーツが」
「ああ。それに——」
ドミトリーは私を見た。
「友達もできた」
「友達?」
「お前だよ、バカ」
私は笑った。
「そうだな。じゃあ、鬼ごっこはなしで」
「ああ、なしだ」
私たちは握手をした。吸血鬼の手は冷たかったが、確かに温もりがあるような気がした。
***
☆☆ナレーション☆☆:「こうして、史上初の吸血鬼ドキュメンタリーは幕を閉じた。吸血鬼の起源は宇宙にあり、彼らもまた、居場所を探す旅人なのだ。そして——人間と吸血鬼の、奇妙な友情が生まれた夜だった」
☆☆ナレーション☆☆(続き):「ちなみに、制作費八百万円は全て自腹である」
***
● エピローグ
翌週、ドミトリーは私のアパートに転がり込んだ。
「お前の家、日当たり悪いから最高だな」
「家賃折半な」
「了解」
こうして、私と吸血鬼の奇妙な同居生活が始まった。
彼は夜にコンビニでバイトを始め、私は昼に働く。すれ違い生活だが、たまに一緒に映画を見る。ドミトリーは『トワイライト』を見て激怒した。
「吸血鬼はこんなにキラキラしない!」
平凡で、少し変わった日常。
でも、悪くない。
***
☆☆番組スタッフロール☆☆
企画・制作:田中一郎(三十二歳・無職)
出演:ドミトリー・フォン・ブラッド(推定三百歳・元吸血鬼、現コンビニ店員)
ナレーション:謎の渋い声の人
撮影:なし(全部記憶)
制作費:八百万円(全額借金)
☆☆この番組はフィクションです。実在の吸血鬼とは一切関係ありません。☆☆
プロンプト
「『吸血鬼に襲われたらアマゾンの奥地へ向かえ』~ドラキュラ探検隊~。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。私は突然振り返って言った。「お前はなぜ吸血鬼になった」。吸血鬼は虚を突かれた。「い…いや」。私は言った。「謎を調べよう」。そこからドキュメンタリー番組風のナレーションがはじまる。彼らはどこへ向かうのか。そうアマゾンの奥地だ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」