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『極悪悪役令嬢 VS 吸血鬼伯爵』~ヒール対ヒールの極悪金網デスマッチ~


 貴族社交界の裏側には、誰も口にしない暗黙の掟がある。


 表の顔は優雅に。裏の顔は徹底的に。


 そして、ラインを越えた者には――制裁を。


 ---


「本日の処刑対象は……」


 私、カオル・ダンプは、王都中央闘技場の特設リングを見下ろしながら、手にした羊皮紙を読み上げた。魔法で増幅された声が、ざわめく観客席に響き渡る。


「かの悪名高き『吸血鬼伯爵』ヴラド・ツェペシュ! 侵略戦争では数千の敵兵を血祭りに上げた英雄として称えられながら、その裏で辺境の村々を襲い、無実の民の血を啜っていた外道である!」


 闘技場が沸いた。いや、正確には「沸いているフリ」をした。


 ここに集まった貴族たちは全員、この茶番劇の意味を理解している。極悪貴族同盟による公開処刑ショー。見世物として悪を断罪することで、王国の秩序を――いや、私たち汚れ仕事専門貴族の立場を維持するための儀式。


「さあ、リングへ入れ!」


 金網の扉が開き、鎖で縛られた吸血鬼伯爵が引きずり出される。


 血のように赤いマントを羽織った長身の男。蒼白い肌に刻まれた傷跡が、彼の戦歴を物語っている。だが、その深紅の瞳には恐怖など微塵もなく――むしろ、不敵な笑みが浮かんでいた。


「ほう、ダンプ家の小娘が私を裁くと?」ヴラドが嗤う。「面白い。だが金網の中では、お前の家名も権力も無意味だ。ここは純粋な暴力の世界……私の世界だぞ?」


「上等だ、吸血鬼」


 私は金網リングに飛び降りた。電流魔法が流れる金網がバチバチと火花を散らす。この中では逃げ場はない。どちらかが倒れるまで、戦いは終わらない。


 ゴングが鳴った。


 ---


「審判はシロー! 公正なジャッジを期待しております!」


 私の口上に、観客席から失笑が漏れる。全員知っているのだ。シローが極悪貴族同盟の専属審判で、私たちから多額の賄賂を受け取っていることを。


 案の定、シローは私に小さくウィンクした。


「ではでは、デスマッチ開始ィィィ!」


 瞬間、ヴラドが消えた。


 いや、消えたのではない――吸血鬼特有の超高速移動。私の背後に回り込み、鋭い爪が喉元に迫る。


 ガキィン!


 間一髪、私は首に仕込んでいた銀のネックガードで防ぐ。火花が散り、ヴラドが苦悶の声を上げて飛びのく。


「銀だと!? 貴様、最初から――」


「ルールブックには『武器の持ち込み禁止』としか書いてないわ」私は冷笑する。「防具がダメとは言ってない。それに……」


 私はドレスの裾を翻し、隠し持っていた銀の木刀を抜き放った。


「木刀は武器じゃなくて『礼儀作法の道具』よね? シロー審判?」


「う、うむ! 問題なし!」シローが即座に宣言する。買収済みの審判は最高だ。


 ヴラドの顔が歪む。「卑怯な……!」


「卑怯? 私に言う?」私は木刀を構えた。「村人を襲うとき、お前は『公平な勝負』をしたのかしら?」


 言葉と同時に踏み込む。銀の木刀がヴラドの肩を掠め、焼けた肉の臭いが立ち上る。


「ぐあっ!」


 だが、吸血鬼の回復力は尋常ではない。傷は見る間に塞がり、ヴラドは再び超高速で動き出す。パンチ、キック、爪による連撃。私は銀のネックガードと腕輪で何とか致命傷を避けるが、無傷ではいられない。


 頬が裂け、血が流れる。


「はははは! いい血の匂いだ!」ヴラドが高笑いする。「お前の血、いただくぞ!」


 牙が迫る――その瞬間。


「シロー! 今よ!」


 私の合図で、シローがリングサイドから何かを投げ込んだ。それは――


「な、ニンニクポーションだと!?」


 ガラス瓶が割れ、濃縮されたニンニクエキスがヴラドに降り注ぐ。


「ぎゃあああああああ!」


 吸血鬼の悲鳴が闘技場に響き渡る。ヴラドは地面を転がり回り、金網に触れてさらに電流を浴びる。


「そ、それは反則だ! 審判!」ヴラドが叫ぶ。


「いやいや、あれは観客が投げ込んだだけですからねー」シローがしれっと言う。


「審判は見てませんでしたー」


「見てただろ今! お前が投げたんだろ!」


「証拠は?」


 完璧な極悪ジャッジだった。


 ---


 だが、ヴラドも甘くはなかった。


「ならば……こちらもルール無用で行くぞ!」


 吸血鬼伯爵は懐から小瓶を取り出し、一気に呷った。血の色をした液体――おそらく、若い娘の生き血を濃縮したもの。禁忌の強化薬だ。


 ヴラドの体が膨れ上がる。筋肉が異様に膨張し、目が血走り、まるで獣のような咆哮を上げる。


「うおおおおお!」


 金網が軋む。ヴラドのパワーは明らかに規格外だ。これはマズイ。


「シロー! 武器の追加!」


「りょーかい!」


 シローがリングに放り込んだのは――聖水入りスプレー、十字架型スタンガン魔道具、そして極めつけは、銀でコーティングされた折りたたみ椅子。


「もはや武器の概念が崩壊してるわね!」


 私は銀の椅子を掴み、突進してくるヴラドに叩きつける。ガキィン! 椅子が曲がり、ヴラドがよろめく。


 だが、まだ倒れない。


「この程度……この程度ォォォ!」


 ヴラドの拳が私の腹部に突き刺さる。内臓が揺れる衝撃。口から血を吐き、私は金網に叩きつけられた。


 電流が全身を駆け巡る。


「があああっ!」


 視界が白く染まる。これはヤバイ。このままでは――


「おい、ダンプ! 早く倒せ! ツケが溜まってるんだからな!」


 シローの野次が聞こえる。最低な審判だ。だが、その声で意識が繋がった。


 私は震える手で、ドレスの最後の隠しポケットに手を伸ばす。そこには――


「これが……最後の切り札よ」


 取り出したのは、小さな宝石。魔力を蓄積した魔導石だ。


「太陽光魔法・貯蔵式……起動」


 宝石が輝き、真昼の太陽光がリング内を照らす。


「ぎゃあああああああああああああ!」


 吸血鬼の天敵。それは太陽。


 ヴラドの体が煙を上げて焼け始める。だが、それでも彼は前に進もうとする。戦士としての意地か、それとも――


「貴様……本当に……外道だな……」ヴラドが苦笑する。


「戦場では……正々堂々と戦ったというのに……」


「戦場?」私も笑った。


「ここは社交界よ。正々堂々なんて言葉が通用する場所じゃない」


 私は銀の木刀を構え直す。


「それに――お前が殺した村人たちに、正々堂々は通用したのかしら?」


 沈黙。


 そして、私は最後の一撃を放った。


 ---


「勝者、カオル・ダンプ!」


 シローが私の手を掲げる。観客席から喝采が沸き上がる。全ては台本通り。悪を断罪し、秩序は守られた――という建前。


 倒れたヴラドは、近衛騎士団によって運び出される。彼を待つのは、おそらく牢獄か、処刑台だろう。


「ふう……疲れたわ」


 私は金網から出て、控室に戻る。ドレスは血と汗で汚れ、全身が痛む。


 控室には、極悪貴族同盟の他のメンバーが待っていた。


「お疲れ、カオル」


 冷酷な笑みを浮かべる公爵ブル家の令嬢、ケイコ。


「見事なショーだったわ。観客も満足しているようね」


「次はどいつを吊るし上げる?」


 凶器攻撃が趣味の『狂える虎』子爵、シン。


「リストには まだ三十人ほど残っているが」


 私は椅子に座り、ため息をついた。


「一週間は休ませて。次は電流じゃなくて、炎の金網にしましょう。もっと派手な方が観客は喜ぶわ」


 彼らが笑う。


 私たちは悪だ。それは間違いない。


 だが、この世界で秩序を保つには、誰かが汚れ仕事をしなければならない。表の世界が光であるなら、私たちは闇。


 そして闇は、決して消えることはない。


「さて」私は立ち上がり、窓の外を見る。夕陽に染まる王都。平和な景色。


「次の獲物は誰かしら?」


 極悪悪役令嬢の仕事に、終わりはない。


 ---


【たぶん完】


 *次回予告:カオルの次なる対戦相手は、『銀髪吸血鬼』! 魔法戦に持ち込まれたとき、彼女はどう戦うのか!? そして、シロー審判の買収額が高騰する理由とは……!?*

プロンプト

「『極悪悪役令嬢 VS 吸血鬼伯爵』~ヒール対ヒールの極悪金網デスマッチ~。場所は異世界ファンタジー。私はカオル・ダンプ。由緒あるダンプ家の令嬢。貴族の中でも汚れ仕事を主に行ういわゆる極悪非道の極悪貴族同盟の一角。貴族の中でも行き過ぎたやつらを電流魔法が流れる金網に閉じ込めて公然の場で粛清する。「本日はかの『吸血鬼伯爵』。吸血鬼として侵略戦争で活躍したが、隠れて村を襲って無実の人々を襲っていた」。金網デスマッチを行う私たち極悪貴族同盟。審判は買収済みのシロー。私は木刀(銀)、ニンニクなどを不正に使って吸血鬼伯爵を追い詰める。このプロットを元にシリアスアクションコメディ短編小説を書きましょう。これは現代の日本プロレスをオマージュした勢い任せの作品です。」

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