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『吸血鬼に襲われたら、焼きそばパン買ってこい!』

 ○ 第一章 深夜の遭遇


 東京の夜は静かだった。いや、静かすぎた。


 渋谷のスクランブル交差点から一本裏に入った路地で、俺は立ち尽くしていた。目の前にいるのは、どう見ても吸血鬼だ。漆黒のマント、蒼白い肌、そして妙に光る牙。まるで昭和の怪奇映画から抜け出してきたような出で立ちだ。


「人間よ、私と鬼ごっこをしよう」


 吸血鬼は尊大な態度でそう言った。声は低く、夜の闇に溶け込むような響きを持っている。


「鬼ごっこ?」


「そうだ。夜明けまで逃げ切れたら、貴様を見逃してやろう。だが、捕まえたら……」


 吸血鬼は牙を舐めた。言外の意味は明白だ。


 俺の脳は高速回転を始めた。時刻は午前二時。夜明けまであと四時間。吸血鬼の身体能力を考えれば、逃げ切るのは絶望的だ。ニンニク? 十字架? 今から調達できるわけがない。


 待てよ。吸血鬼の弱点は他にもあったはずだ。民俗学の本で読んだことがある。吸血鬼は……


「どうした? 怖気づいたか?」


 その時、俺の中で何かが閃いた。


「待て」


 俺は手を上げた。


「逆に提案がある」


「逆に……提案?」


 吸血鬼は困惑した表情を浮かべた。おそらく数百年の生涯で初めての経験だろう。


 俺は真剣な眼差しで吸血鬼を見据えた。


「至高の焼きそばパンを買ってこい」


 ○ 第二章 吸血鬼の混乱


「……は?」


 吸血鬼の顔から威厳が消え失せた。


「至高の焼きそばパンだ。それを俺に持ってきたら、好きなだけ血を飲んでいい」


「待て待て待て」


 吸血鬼は両手を振った。先ほどまでの貴族的な態度はどこへやら、完全に素に戻っている。


「何を言っている? 私は吸血鬼だぞ? 人間を狩る側だぞ?」


「知ってる。だから取引だ」


 俺は腕を組んだ。ここが勝負だ。


「至高の焼きそばパンを持ってきたら、抵抗せずに血を提供する。どうだ? 悪くない話だろう?」


「いや、意味が分からない。なぜ焼きそばパン?」


「それが俺の条件だ。嫌なら鬼ごっこで構わないが」


 吸血鬼は頭を抱えた。三百年生きてきたが、こんな人間は初めてだ。普通は命乞いをするか、逃げるか、せいぜい戦うかのどれかだ。焼きそばパンを要求してくる人間など聞いたことがない。


「……至高の、とは?」


「最高に美味い焼きそばパンだ。東京一、いや、日本一と言えるレベルのものを持ってこい」


「そんなもの、どこで手に入る?」


「それを探すのがお前の仕事だ」


 吸血鬼は空を仰いだ。なぜこんなことになったのか。今夜は単純に腹を満たすつもりだったのに。


「いいか、ヴァンパイア」


 俺は一歩踏み出した。


「お前は何百年も生きてるんだろう? その経験と知識を使えば、至高の焼きそばパンくらい見つけられるはずだ。それとも、数百年生きてきた吸血鬼様は、焼きそばパン一つも探せないのか?」


 完全に挑発だ。だが、これが俺の策だった。


 吸血鬼には『招待されなければ家に入れない』『流れる水を渡れない』といった制約がある。だが、最も有名な弱点がもう一つ。


 **強迫性障害**だ。


 種を数える、結び目をほどく、砂粒を数える。民俗学では、吸血鬼はこうした強迫的な行動を取らざるを得ないとされている。地域によって細かい違いはあるが、本質は同じだ。


 吸血鬼に無理難題を与えれば、それを達成しようとする。少なくとも、時間を稼げる。


 ○ 第三章 吸血鬼の焼きそばパン探訪


「……分かった」


 吸血鬼は深いため息をついた。


「私のプライドにかけて、至高の焼きそばパンを見つけてやる。だが、それを食したら、必ず血を飲ませてもらうぞ」


「約束する」


 俺はスマホを取り出した。


「ああ、それとルールを追加だ。お前が焼きそばパンを探している間、俺はここを動かない。公平だろう?」


「……公平、なのか?」


 吸血鬼は首を傾げたが、最終的に頷いた。


「よかろう。では行ってくる」


 マントを翻し、吸血鬼は夜の闇に消えた。


 俺は近くの自動販売機で缶コーヒーを買い、道端の壁にもたれかかった。さて、どれくらい持つか。


 ---


 三十分後、吸血鬼が戻ってきた。手には某コンビニの焼きそばパンがある。


「これだ」


「却下」


「早い!」


「コンビニの焼きそばパンが至高なわけないだろう。やり直し」


「ぐっ……」


 吸血鬼は再び消えた。


 一時間後。


「これは夜間限定のパン屋で買った焼きそばパンだ。開店までの一時間、店の前で待った」


「評価する。だが至高ではない。やり直し」


「なぜ分かる!?」


「食べてないからだよ。至高かどうかは食べなきゃ分からないだろう?」


「……つまり?」


「お前が食って、至高だと確信したものを持ってこい」


「私は吸血鬼だぞ!? 食事は血だけだ!」


「じゃあ至高の焼きそばパンは持ってこれないってことか。残念だな」


 俺は肩をすくめた。


「待て! 待て待て!」


 吸血鬼は必死に手を振った。もはや威厳のかけらもない。


「食べる。食べればいいんだろう。至高の焼きそばパンを見つけて、食べて、持ってくる」


「それでいい」


 吸血鬼は夜の街へと消えた。その背中は、どことなく哀愁を帯びていた。


 ○ 第四章 夜明けの決着


 午前五時。空が白み始めていた。


 俺は同じ場所で、すでに五本目の缶コーヒーを飲んでいた。


「……見つけた」


 疲弊しきった声が聞こえた。吸血鬼が、フラフラと歩いてくる。マントは汚れ、顔には焼きそばソースがついている。


「これだ……至高の焼きそばパン……」


 吸血鬼が差し出したのは、小さなパン屋の紙袋だった。中から取り出した焼きそばパンは、見るからに普通とは違う。パンの焼き色、麺の艶、キャベツの緑。すべてが完璧なバランスで調和している。


「下北沢の……小さなパン屋だ。開店三十年。店主は元中華料理人で、焼きそばの麺から自分で作っている。パンの生地は北海道産小麦を使い、低温で長時間発酵させている。私は……七十三軒のパン屋を回り、二十八個の焼きそばパンを食べた……」


 吸血鬼の目には涙が浮かんでいた。


「これが……至高だ……」


 俺は焼きそばパンを受け取り、一口囓った。


 ソースの甘辛さ、麺のもちもちとした食感、パンの柔らかさ。すべてが口の中で完璧に溶け合う。これは確かに至高だ。


「……認める。これは至高の焼きそばパンだ」


「そうか……」


 吸血鬼は力尽きたように、その場に座り込んだ。


「では、約束通り……」


 俺は首を差し出そうとした。その瞬間。


 東の空が、オレンジ色に染まり始めた。


「あ」


 吸血鬼の顔が蒼白になる。いや、元々蒼白だが、さらに白くなった。


「夜明けだ……」


「おい、まずいんじゃないか?」


「まずい。非常にまずい」


 吸血鬼は慌てて立ち上がった。


「す、すまない! 私は帰らねば! だが約束は果たした! いつかまた……!」


「待て、血は?」


「いい! もういい! 焼きそばパンで腹がいっぱいだ!」


 吸血鬼は泣きそうな顔で叫んだ。


「二十八個も食べたんだぞ!? もう何も入らない! さらばだ人間! 二度と会うことはないだろう!」


 マントを翻し、吸血鬼は朝日から逃れるように走り去った。その姿は、もはや恐怖の象徴ではなく、どこか滑稽だった。


 俺は残りの焼きそばパンを食べながら、朝日を眺めた。


 こうして、東京で最も奇妙な夜が終わった。


 ---


 **エピローグ**


 それから一週間後。


 俺は下北沢のパン屋に並んでいた。あの焼きそばパンが忘れられなくて、何度も買いに来ている。


 レジで会計を済ませた時、ふと気配を感じた。振り向くと、フードを深く被った人物が店の外で立ち止まっている。


 その人物は小さくガッツポーズをすると、そそくさと立ち去った。フードの隙間から、一瞬だけ見えた蒼白い肌。


 俺は笑った。


 吸血鬼も、至高の焼きそばパンの虜になったらしい。


プロンプト

「『吸血鬼に襲われたら、焼きそばパン買ってこい!』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した俺。吸血鬼は俺に対して鬼ごっこを提案する。俺は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あれしかない。俺は言った。「逆に提案する。至高の焼きそばパンを買ってこい!」。俺は無理難題を持ちかける。明らかに困惑する吸血鬼。「至高の焼きそばパンを出せば好きなだけ血を飲んでいい」。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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