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『吸血鬼に襲われたら、地下シェルターへ』

 

 午前2時17分。渋谷のスクランブル交差点で、私は吸血鬼と向き合っていた。


「鬼ごっこをしませんか?」


 吸血鬼は礼儀正しく提案した。マントを翻し、牙をキラリと光らせながら。まるで小学生が放課後に遊びを誘うような口調だった。


「え、あの...なんで?」


「最近の若い血は味気なくて。追いかけっこをして恐怖で血をおいしくしてからいただきたいのです」


 なんて丁寧な吸血鬼だろう。しかし丁寧でも吸われるのは困る。


「もし朝まで逃げ切れたら?」


「お見事。私の負けです。潔く諦めましょう」


 朝まで約4時間。東京の夜は長い。


「では、3秒数えますね。いーち、にー...」


 私は走り出した。


 ---


 最初に浮かんだのは高いところに逃げること。吸血鬼は空を飛べるが、きっと建物の中は苦手だろう。東京タワーかスカイツリーか。でも夜中に入れるはずがない。


 次に考えたのは水。十字架、ニンニク、そして流水。吸血鬼は川を渡れない...はずだ。隅田川に向かおうか。でも泳いで渡るのは現実的じゃない。


「おーい、どこにいるんですかー」


 背後から吸血鬼の呑気な声が聞こえる。本当に鬼ごっこを楽しんでいるようだ。


 走りながら考える。吸血鬼の弱点は日光、十字架、ニンニク、流水、銀、木の杭...でもそんなもの夜中の東京でどこに?


 コンビニに駆け込む。


「いらっしゃいませ」


 店員は慣れた調子で挨拶したが、私の血相が変わった顔を見て眉をひそめた。


「すみません、ニンニク料理ありますか?」


「え?お弁当コーナーに餃子が...」


 餃子を5個買い、全部平らげる。口の中がニンニクだらけになった時、吸血鬼が店に入ってきた。


「あ、いましたね。隠れるのがお上手で」


 平然と近づいてくる。ニンニク効果なし。映画の見すぎだった。


「あの、お客様、店内での追いかけっこは...」


「すみません、すぐ出ます」


 裏口から逃走。


 ---


 新宿駅に向かいながら思案する。電車で遠くへ?でも終電はとっくに終わっている。タクシー?運転手を巻き込むわけにはいかない。


 ふと、看板が目に入った。


『地下シェルター見学ツアー 24時間営業』


 ...まさか、こんな時間に営業してる?


 受付の女性は眠そうだった。


「地下シェルターの見学を」


「お一人様ですか?3000円になります」


 高いな、と思いながら支払う。命には代えられない。


「では地下15メートルのシェルターへご案内します」


 エレベーターで降りていく間、私は天才的なひらめきに感動していた。地下シェルター。太陽の光が絶対に届かない場所。朝になっても明るくならない。つまり吸血鬼にとって永続的に安全な場所...。


 あれ?


 エレベーターが止まった瞬間、恐ろしい事実に気づく。


「素晴らしいアイデアですね」


 振り返ると、吸血鬼が優雅に手を振っていた。


「え?なんで?」


「地下シェルター。太陽光が届かない理想的な住環境です。実は私もここの年間パスを持っているんです」


 年間パス。


「つまり...」


「ここなら朝になっても私に何の影響もありません。ゆっくり追いかけっこができますね」


 完全に裏目に出た。自ら吸血鬼の楽園に足を踏み入れてしまった。


 ---


「あの...上に戻ってもいいですか?」


「せっかく入場料を払ったのに?もったいないですよ」


 ガイドの女性が言った途端、彼女の口元に小さな牙が見えた。


「え...まさか」


「はい、私もこちらの住人です。昼間のバイトもしているんです。地下なら安全ですから」


 吸血鬼のコミュニティだった。


「皆さん、新しいお客様です」


 シェルター内から、ぞろぞろと住人たちが現れる。全員、微妙に牙が見えている。


「ようこそー」


「鬼ごっこですか?楽しそう」


「久しぶりの生血ですね」


 私は絶望した。地下シェルターは確かに吸血鬼から逃れる場所だった。でも、それは外にいる吸血鬼から逃れる場所であって、中にいる吸血鬼コミュニティに囲まれることではなかった。


「さて、鬼ごっこの続きを」


 最初の吸血鬼が言いかけた時、大きな鐘の音が響いた。


「あ、6時ですね」


 外では夜が明けていた。


「...えーっと」


 吸血鬼たちは困惑している。ここは地下で太陽光は関係ない。でも約束は朝まで逃げ切れば私の勝ち。


「約束通り、私の負けです」


 最初の吸血鬼は潔く認めた。


「でも、他の皆さんとは約束していませんよね?」


 残りの吸血鬼たちがにっこり微笑む。


「新しいゲームを始めましょうか」


 ---


 結局、私は地下シェルター年間パスを購入することになった。


「毎晩来てくれるなら、少しずつ血をもらうということで」


「献血みたいなものですね」


「健康的ですよ」


 今では地下シェルターの常連客だ。吸血鬼たちとトランプをしたり、映画を見たりしている。たまに血を少し分けて、みんなでワイワイやっている。


 夜の東京で吸血鬼に出会ったら、地下シェルターに逃げるのは悪くない選択だった。


 ただし、既にそこが吸血鬼たちの憩いの場になっていないことを祈るばかりだ。



 **教訓: 緊急避難場所を選ぶ際は、事前に住人を確認しましょう。**

プロンプト

「場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そう地下シェルターだ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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