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『吸血鬼に襲われたら、断崖絶壁ギリギリへ逃げろ!!!』~それはまるで『エーイチロー・フナコシ ディテクティブショー』の如く~

 福井県の海岸線。午前2時32分。


 俺の名前は田中一郎。何の変哲もないサラリーマンだった。過去形なのは、今この瞬間、俺が吸血鬼と鬼ごっこをしているからだ。


「さあ、ゲームの始まりだ!」


 白いマントを翻した吸血鬼が、演劇部の新人のような大げさな身振りで宣言する。どこか間の抜けた声だが、牙だけは本物だった。俺は慌てて逃げ出した。


 足音が後ろから迫ってくる。しかし、なぜかゆっくりだ。まるで俺のペースに合わせているようで、これはこれで不気味である。


「待て待て、なぜ追いかけっこなんだ!普通に襲えばいいだろう!」


 走りながら振り返ると、吸血鬼は真面目な顔で答えた。


「最近の若い吸血鬼は、すぐに襲うからダメなんだ。我々にはプライドというものがある。正々堂々と狩りをするのが吸血鬼の美学なのだよ」


 なんだその昭和のオヤジみたいな価値観は。


 俺は必死に思考を巡らせた。吸血鬼の弱点は日光。あと3時間ほど逃げ切れば朝が来る。しかし、この体力で3時間も逃げ切れるのか?運動不足の32歳には厳しすぎる挑戦だ。


 他に弱点は...十字架、ニンニク、流水、聖水...


「あ、そうだ!」


 俺の脳裏に、昨夜見た『エーイチロー・フナコシ ディテクティブショー』の最終回が蘇った。犯人が追い詰められて断崖絶壁に逃げるあのシーンだ。


「そうだ、断崖絶壁しかない!」


 俺は方向を変え、海岸の崖へ向かって走った。背後から吸血鬼の困惑した声が聞こえる。


「おい、どこへ行くんだ!そっちは崖だぞ!」


 やがて、俺は断崖絶壁の端に立った。眼下には真っ暗な日本海が広がっている。波の音が不気味に響く中、俺は振り返った。


 吸血鬼がゆっくりと近づいてくる。しかし、その表情は先ほどまでの余裕から一変し、明らかに焦っていた。


「おい、危険だ!そこから下がれ!」


 俺は片足を崖の外に出した。小石がカラカラと落ちていく音が響く。


「動くな!こっちに来い!」


 吸血鬼は完全にパニックモードに入っていた。そして突然、刑事ドラマでよくある、あの決まり文句を言い始めた。


「君にも家族がいるだろう!」


「いません」


「じゃあ...恋人は!」


「いません」


「友達は!」


「...微妙です」


 吸血鬼は明らかに困った。しかし、持ち前の演技力で何とか立て直そうとする。


「君の人生には、まだやり残したことがあるはずだ!」


「そうですね、昨日録画し忘れた『エーイチロー・フナコシ ディテクティブショー』の最終回を見たかったです」


「...それは確かに重要だな」


 妙に納得している。


 吸血鬼は手を差し伸べながら、涙ながらに訴え続けた。


「頼む!死ぬのはやめてくれ!君が死んだら、俺の獲物がいなくなってしまう!俺だって生活がかかってるんだ!最近は吸血鬼の仕事も少なくて、副業でコンビニバイトまでしてるんだぞ!」


 なんだその切実な理由は。


「それに、海に飛び込まれたら俺は追えない!吸血鬼は流水が苦手なんだ!君が溺れても助けられないんだよ!」


 俺は冷静に指摘した。


「でも泳げるかもしれませんよ」


「君、運動神経悪そうだから無理だろう」


「...確かに」


 沈黙が流れた。波の音だけが響く中、俺たちは見つめ合っていた。


 やがて吸血鬼が小さくつぶやいた。


「なあ、どうだ?俺と一緒にコンビニで働かないか?夜勤専門だから、君の昼の仕事にも影響しないし...」


「時給はいくらですか?」


「1,053円」


「安っ!」


「福井県の最低賃金だからしょうがないだろう!」


 気がつくと、俺たちは崖の上で就職について相談していた。吸血鬼との鬼ごっこは、いつの間にか就職相談に変わっていたのだった。


 結局、俺は崖から下りることにした。吸血鬼との約束で、朝まで付き合ってもらい、朝日と共に彼は煙のように消えていった。最後に「また今度、コンビニに寄ってくれよ」と言い残して。


 翌日、俺は近所のコンビニに行った。夜勤のバイトに、見覚えのある青白い顔の青年がいた。名札には「山田」と書かれている。


「いらっしゃいませ」と彼は笑顔で言った。牙は見えなかった。


 俺は弁当を買って帰った。レシートを見ると、そこには「またのご来店をお待ちしております 山田」と手書きで書かれていた。


 福井県で一番奇妙な夜の出来事は、こうして幕を閉じたのである。


 ***


 ※『エーイチロー・フナコシ ディテクティブショー』は架空の番組です。実在しません。多分。

プロンプト

「『吸血鬼に襲われたら、断崖絶壁ギリギリへ逃げろ!!!』~それはまるで『エーイチロー・フナコシ ディテクティブショー』の如く~。場所は福井県、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そう断崖絶壁だ。俺はサスペンスドラマの犯人の如く断崖絶壁へ逃げる。吸血鬼は海に飛び込まれては困るので、刑事ドラマの刑事の如くお涙頂戴人情で説得を試みる。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう」

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