『ヴァンパイア…辞めます!?』
○ 第一章 夜の帝王の憂鬱
東京の夜、ネオンが煌めく街角で、俺は今夜も獲物を物色していた。名前?そんなものはとうの昔に忘れた。今の俺は夜の帝王、不死の吸血鬼だ。
「うーん、今日はどの人間にしようかな」
渋谷のスクランブル交差点を見下ろしながら、俺は軽くため息をついた。最近、この仕事にマンネリを感じている。血を吸うだけ、それだけ。もう何十年も同じことの繰り返しだ。
「そうだ!」
突然ひらめいた。鬼ごっこはどうだろう?逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけでなく、恐怖に歪む表情も楽しめる。一石二鳥じゃないか。
俺は颯爽と地上に降り立ち、獲物を選んだ。深夜のコンビニから出てきた若いサラリーマン。完璧だ。
「君、ちょっと」
「え?」男性は振り返る。
「鬼ごっこをしないか?」
「は?」
「君が逃げて、僕が追いかける。捕まったら…まあ、お楽しみということで」
男性の顔が青ざめる。これこれ、この表情だ。俺は満足気に微笑んだ。
「ひっ!」
男性は全速力で逃げ出した。俺もゆっくりと後を追う。スリルがあっていい感じだ。
○ 第二章 ふとした記憶
追いかけっこを楽しんでいると、ふと昔のことを思い出した。まだ人間だった頃…確か200年ほど前だったか。
あの頃は太陽の下を自由に歩き回れた。朝の清々しい空気を吸い、昼間の街を散策できた。そして何より…
「あ」
俺は立ち止まった。逃げていたサラリーマンも、なぜか振り返って立ち止まる。
「舞浜のネズミーランド…」
最後に行ったのはいつだっけ。確か入園料が5000円程度で済んだ時代だ。今はいくらになってるんだろう。でも関係ない。深夜営業なんてしてないし、日中は俺には無理だ。
「おい、なんで止まってるんだ!逃げろよ!」
「え?あ、はい!」
サラリーマンは再び走り出したが、俺の心はもうそこにはなかった。
○ 第三章 ヴァンパイアって縛りゲーじゃね?
結局その夜は適当に血を吸って終わった。味も覚えていない。家に帰って棺桶に入りながら、俺は考え込んでいた。
「ヴァンパイアって、よく考えたら縛りゲーじゃない?」
まず食事制限が厳しすぎる。血しか摂取できない。ラーメンも寿司も焼肉も、この200年間一度も味わっていない。コンビニの新商品なんて永遠に縁がない。
そして活動時間の制約。夜しか動けないって、どれだけ不便なことか。銀行も役所も病院も、全部昼間しか開いてない。ネット通販の受け取りすら困難だ。
「宅配便の人に『夜中に持ってきて』なんて言えないしな…」
娯楽施設も大半が昼間メイン。映画館のレイトショーくらいしか楽しめない。それも最終回だけ。
「あー、昼間の動物園とか水族館とか行きてぇ」
十字架とにんにくとか、些細な弱点も地味に面倒だ。イタリア料理なんて怖くて近づけない。
○ 第四章 現代ヴァンパイアの悩み
翌夜、俺は新宿の高層ビルの屋上にいた。眼下に広がる東京の夜景は美しいが、心は晴れない。
「SNSとかも困るんだよな」
現代は写真を撮る機会が多すぎる。鏡に映らない体質だから、自撮りもままならない。インスタ映えなんて夢のまた夢だ。
「『今日の夜食』とか投稿しても、血の画像じゃフォロワー減るだけだし」
それに恋愛も難しい。相手の首筋見ると食欲が湧いてしまうし、デートも夜限定。朝まで一緒にいたら、朝日で灰になってしまう。
「『君と朝日を見たい』なんてロマンチックなこと、絶対言えない」
現代社会は24時間社会とか言いながら、結局昼間中心で回ってる。夜勤の人間だって昼間は寝てるのに、俺は昼間も夜中も寝てる。活動時間短すぎ。
○ 第五章 不死の重み
俺はビルの縁に腰掛け、足をぶらぶらさせた。
「不死って響きはかっこいいけどさ…」
実際は面倒なことばかりだ。住民票の更新とか、どうやってごまかしてるんだっけ。200年も生きてると、事務手続きが半端なく複雑になる。
「保険証とか免許証とか、もう何回偽造したか覚えてない」
人間関係も希薄になる。知り合いは皆老いて死んでいく。新しく友達を作っても、いずれ別れが来る。永遠に一人ぼっち。
「あー、普通に年を取って、普通に死にたい」
そんなことを呟いたとき、ふと気づいた。
「俺、なんでヴァンパイアになったんだっけ?」
確か…そうだ、不老不死に憧れたんだった。永遠の命を手に入れれば、なんでもできると思った。
「大間違いだった」
○ 第六章 普通の幸せ
空を見上げると、星がきれいに見えた。人工的な光に邪魔されながらも、確かに輝いている。
「人間だった頃は、こんなこと考えもしなかった」
朝起きて、朝食を食べて、仕事に行って、友達と笑って、恋人とデートして、家族と過ごして。そんな当たり前のことが、どれほど贅沢だったか。
「コンビニ弁当でいいから、普通に食事したい」
「朝のラジオ体操に参加したい」
「海で日焼けしたい」
「友達と昼間っからビール飲みたい」
次々と浮かぶ願望は、すべて普通の人間なら当然できることばかりだった。
○ 第七章 決意
俺は立ち上がった。決心がついた。
「ヴァンパイア、やめる」
でも、どうやって?一度ヴァンパイアになったら、元には戻れないはず。調べたことはないが、多分そうだろう。
「まあ、ダメ元でやってみるか」
とりあえず明日…いや今夜から、普通の人間のような生活を心がけてみよう。血以外のものを食べる練習をして、昼間も起きてみる。太陽光線で灰になるかもしれないが、それもまた一興だ。
「最悪死んでも、それはそれで目標達成だしな」
○ エピローグ 新しい夜明け
それから一週間後、俺は病院のベッドに横たわっていた。
昼間に外出しようと試みた結果、重度の日光アレルギーで緊急搬送されたのだ。灰にはならなかったが、全身やけどのような状態になった。
「やっぱりヴァンパイアはヴァンパイアか…」
隣のベッドの老人が話しかけてきた。
「若いのに大変だねぇ。でも諦めちゃダメだよ。私なんて80年生きてるけど、まだまだやりたいことがあるんだ」
「80年…」
俺の4分の1以下の人生なのに、この人は俺より生き生きしている。
「実は来月、初孫とネズミーランドに行く約束なんだ。楽しみでねぇ」
「…そうですか」
「君も何か楽しみを見つけなさい。人生、制約があるからこそ面白いんだよ」
老人の言葉が胸に響いた。
○ 最終章 ヴァンパイア続けます
退院後、俺は再び夜の街に立った。でも今度は違う。
「制約があるからこそ面白い、か」
確かにそうかもしれない。昼間の人間たちには夜の世界は見えない。俺にしか見えない景色、感じられない空気がある。
「よし、ネズミーランドは無理でも…」
夜の東京を見回す。24時間営業の施設を探せば、案外楽しめる場所はあるかもしれない。深夜の居酒屋、24時間営業のカラオケ、夜景スポット…
「血を吸うのは週末だけにして、平日は夜の東京を満喫しよう」
新しい目標ができた。ヴァンパイアという制約の中で、どれだけ人生を楽しめるか。それが俺の新しいゲームだ。
「ヴァンパイアやめません!夜の帝王、続けます!」
俺は新しい夜に向かって歩き出した。確かに制約は多い。でも、それもまた人生…いや、アンデッドライフだ。
案外悪くない。
プロンプト
「『ヴァンパイアやめます!?』。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。しかし、ふと人間だった時のことを思い出す。(ヴァンパイアって縛りゲーじゃね)。食べるものも生活も夜しか活動できない。舞浜のネズミーランドへ最後に行ったのはいつだろうか。まだ5千円程度で遊べたときだ。ましてや深夜に入れない。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。吸血鬼の制約について考えて悩む哀愁漂う作品です。」




