『無差別級・フリースタイル・アンクルブレイカー』
「アンクルブレイク」:重心を崩して、転ばせる技術。
○ 第一章 夜の遭遇
東京の夜は静寂に包まれていた。コンビニの蛍光灯だけが薄暗い路地を照らす中、俺は帰路を急いでいた。残業で疲れ切った体に鞭打ちながら歩いていると、突然背後から声をかけられた。
「こんばんは」
振り返ると、そこには異様に白い肌をした男が立っていた。口元から牙がちらりと見える。間違いない、吸血鬼だ。
「鬼ごっこをしませんか?」男は不気味な笑みを浮かべながら言った。
「もし朝まで逃げ切れたら、あなたの勝ちです」
俺の頭は瞬時に回転した。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、奴らの身体能力は人間を遥かに凌駕する。逃げ切れる保証はない。
「ところで」俺は急に口を開いた。
「鬼ごっこって言葉、語源知ってる?」
吸血鬼は困惑した表情を見せた。
「え?」
「平安時代の『於児尼』から来てるって説があるんだけど、実際は諸説あって…」
○ 第二章 アンクルブレイクの極意
吸血鬼が話に気を取られた瞬間、俺は動いた。フェイントをかけながら移動し、奴の重心を見極める。何を隠そう、俺は『無差別級・フリースタイル・アンクルブレイカー』の世界王者なのだ。
「それより」俺は続けた。
「今の時期、消費税の計算方法変わったの知ってる?」
「いや、それは…」吸血鬼が混乱している隙に、俺は完璧なアンクルブレイクを決めた。吸血鬼はバランスを崩し、派手に転倒する。
「あ、でもその前に」俺は追い打ちをかけた。
「うちの会社の経費精算システムの話なんだけど…」
○ 第三章 解説者の登場
気がつくと、どこからともなく解説者が現れていた。
「おお、これは見事なアンクルブレイクですね!」解説者は興奮気味に叫んだ。
「しかし注目すべきは彼の真の武器…それは話術です!」
俺は次々と吸血鬼にアンクルブレイクを決めていく。物理的な重心だけでなく、話の腰も容赦なく折っていく。
「見てください!」解説者が続ける。
「あれが会議にたまにいる『その話…いまする?』と言う類の話をするやつです。目的は主導権を握るだけ。会議の趣旨から外れていく。ああいうやつが上司にいると往々にして会議は…長引くんです!」
観客席(いつの間にかできていた)からは、社会人たちのぞっとする声が漏れ聞こえた。
○ 第四章 変幻自在の戦術
「それでですね」俺は吸血鬼を追い詰めながら続けた。
「先週の資料なんですけど、修正版が…」
吸血鬼は完全に混乱していた。
「お、お前は一体何者だ!」
「あ、そうそう」俺は急に話を変えた。
「今朝のニュース見ました?ガソリン価格がまた…」
「さっきと話が全然違う!」吸血鬼は叫んだ。
解説者が興奮して実況する。
「出ました!話題変更アンクルブレイク!さっき言ったことがすぐに変わる、これぞプロの技です!相手は完全に主導権を奪われています!」
○ 第五章 朝の勝利
気がつくと東の空が白んできていた。吸血鬼は完全に戦意喪失し、地面に倒れ込んでいる。
「あ、そういえば」俺は時計を見ながら言った。
「今日の天気予報、晴れでしたよね?」
吸血鬼は絶望的な表情で空を見上げた。朝日が昇り始めている。
「う、負けた…」吸血鬼はつぶやくと、煙のように消えていった。
解説者が締めくくる。
「見事な勝利です!無差別級・フリースタイル・アンクルブレイカーの面目躍如といったところでしょうか!」
○ エピローグ
俺は普通に出社した。会議室では部長が延々と関係ない話を続けている。
「それでですね、先週の件なんですが…」
俺は思わず身震いした。まさか、部長も吸血鬼なのだろうか?
いや、違う。彼はただの『その話…いまする?』おじさんだ。ある意味で、吸血鬼より恐ろしい存在かもしれない。権力があるから、指摘もできない。無視も出来ない。徐々に会議の本筋から外れていく。
俺は静かにアンクルブレイクの構えを取った。今日も戦いは続く。
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*作者注:この物語はフィクションです。実在の吸血鬼、会議、アンクルブレイカーとは一切関係ありません。*
プロンプト
「『無差別級・フリースタイル・アンクルブレイカー』。重心を崩して、転ばせる技術を「アンクルブレイク」と言います。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あれしかない。そうアンクルブレイクだ。私はすかさずフェイントをしながら移動し、吸血鬼の重心を崩してアンクルブレイクをする。なにを隠そう俺は『無差別級・フリースタイル・アンクルブレイカー』の世界王者。次々と吸血鬼のアンクルブレイクに成功する俺は身体の重心だけでなく、話の腰も折る。気が付くと、解説がいる。「あれが会議にたまにいる『その話今する?』と言う類の話をするやつ。目的は主導権を握るだけ、ああいうやつが上司にいると往々にして会議は…長引く」。社会人ならぞっとする技を見せる俺。さっき言ったことがすぐに変わる。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」