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『夏だ!海だ!ヴァンパイアだ!?』

  第一章 湘南の夜


「よし、今夜こそは!」


 俺は鏡の前で髪型を整えながら気合いを入れた。夏といえば海、海といえば出会い。そんな単純な計算式に従って、俺たち三人組は湘南の海にやってきた。


「おい田中、お前のその格好マジでダサくない?」


 親友の佐藤が俺のアロハシャツを見て笑う。確かに通販で買った安物だが、これでも精一杯のオシャレなのだ。


「うるせー、お前だってその短パン、中学生みたいじゃねーか」


「何だと!?」


 そんな俺たちの前で繰り広げられていたのは、まさに湘南の夜の風景だった。イケイケなギャルたちがキャッキャと笑いながら花火に火をつけ、筋肉自慢のヤンキーたちが「ウエーイ!」と叫びながらビールを飲んでいる。


「あ、あそこのギャルたち、めっちゃかわいくない?」三人目の山田が震え声で言った。


 確かにかわいい。だが、俺たちのような非リア充が声をかけられる相手ではない。圧倒的な格差を前に、俺たちは砂浜の片隅で小さくなっていた。


「あー、なんで俺たちってこんなにダメなんだろうな」


 俺がため息をついた時だった。


「ビビっているようだな、人間よ」


 突然、背後から低い声が響いた。


  第二章 夜の来訪者


 振り返ると、そこには見たこともない美男子が立っていた。漆黒の髪、青白い肌、鋭い眼光。そして何より印象的だったのは、その口元からちらりと見える鋭い牙だった。


「え?え?」


 俺は混乱した。佐藤と山田も同じような顔をしている。


「我輩はヴラド・ツェペシュ三世である。まあ、本名はヴラド田中というのだが」


「田中!?」


 思わず俺は叫んだ。


「そうだ。我輩も田中だ。奇遇だな、人間の田中よ」


 なんという偶然。いや、でも吸血鬼が田中って。


「で、でも君、吸血鬼なんでしょ?なんで湘南なんかに?」


「決まっているではないか」ヴラド田中は颯爽とマントを翻した。


「夏だからだ」


「夏だから?」


「海だからだ」


「海だから?」


「モテたいからだ」


 俺たちは絶句した。吸血鬼も俺たちと同じ理由で湘南にいたのだ。


「しかし、人間ども、我輩は少々退屈している」ヴラド田中は不敵に笑った。


「そこで提案がある。我輩と鬼ごっこをしないか?」


「鬼ごっこ?」


「そうだ。日の出まで我輩から逃げ切れれば、君たちの勝ちだ。捕まったら...」


 ヴラド田中の牙がキラリと光った。


「血を吸わせてもらおう」


  第三章 絶望的な計算


 佐藤と山田は既に逃げていた。取り残された俺は、必死に頭を回転させた。


 現在時刻は午後11時。日の出まであと約6時間。吸血鬼の身体能力は人間を遥かに上回る。普通に考えて逃げ切るのは不可能だ。


 だが、吸血鬼には弱点がある。


 まず日光。これは既に計算に入れている。朝まで逃げ切ればいい。


 次に十字架。しかし持っていない。


 流れる水。海があるじゃないか!でも海に入ったら溺れるかもしれない。


 ニンニク。コンビニで買えるかもしれないが、追いかけられている状況で買い物は現実的ではない。


 銀。アクセサリーショップ?この時間は閉まっている。


 木の杭で心臓を貫く。そんな勇気はない。


 俺は絶望した。どの弱点も現実的ではない。


 だが、その時思い出した。もう一つ、ヴァンパイアの弱点があることを。


「そうだ...スイカ割りだ!」


  第四章 決死のスイカ割り作戦


 吸血鬼には計算強迫という特性がある。目の前に大量の粒状のものがあると、その数を数えずにはいられない。これは映画やゲームではあまり知られていないが、民間伝承では有名な弱点だ。


 そして湘南の海の家には、夜遅くまで営業しているスイカ割り屋台がある。


 俺は全速力で海の家に向かった。後ろからヴラド田中の足音が迫ってくる。


「逃げても無駄だ、人間の田中よ!」


「俺の名前覚えてくれたんだ!」


 妙に嬉しかった。


 海の家に到着した俺は、スイカ割り屋台のおじさんに叫んだ。


「おじさん!スイカを全部割らせてください!」


「は?」


「お金は払います!とにかく全部のスイカを!」


 背後でヴラド田中が迫ってくる。俺は千円札を掴んで屋台に投げつけ、木の棒を手に取った。


「いくぞ!」


 俺は目隠しなしでスイカに向かって突進した。


 バシン!バシン!バシン!


 スイカが次々と砕け散る。種が宙に舞い、砂浜に無数の黒い粒となって散らばった。


「これは...」


 ヴラド田中が立ち止まった。


「一、二、三、四、五...」


 やった!計算強迫が発動した!


  第五章 夜明けの勝利


「十七、十八、十九...いや待て、風で飛ばされたものもあるな...一、二、三...」


 ヴラド田中は砂浜に這いつくばって、スイカの種を必死に数え続けていた。時々風で種が飛ばされ、また最初から数え直している。


 俺はその間に海の家のベンチに座り込んだ。安全だ。


「あの、これ差し入れ」


 振り返ると、さっきのイケイケギャルの一人が冷えたお茶を差し出していた。


「え?」


「あんた、さっきから何やってんのかと思ったら、めっちゃ面白いじゃん。その吸血鬼のコスプレの人も含めて」


 コスプレ。確かに一般人から見たらそうだろう。


「実は本物の吸血鬼で...」


「ウケる!設定凝ってるね!」


 彼女は笑いながら隣に座った。


「私、こういうバカバカしいの好きよ。今度もっと面白い企画やったら呼んで」


「え、えっと...」


「連絡先教えとく」


 こうして俺は、吸血鬼に襲われながらも女の子の連絡先をゲットするという、想定外の展開を迎えていた。


 やがて東の空が白み始めた。


「あー!日光が!」


 ヴラド田中は種を数えるのを諦めて立ち上がった。


「今日のところは負けを認めよう、人間の田中よ。だが次は負けん!」


「次もスイカ割りやるよ」


「ぐぬぬ...」


 ヴラド田中は朝日を避けるように海の家の陰に隠れた。


「そういえば、君も結局モテなかったじゃん」俺は言った。


「ぐぬぬぬ...」


  エピローグ


 後日、俺はその女の子と正式にデートすることになった。場所はもちろん湘南の海。


 そして約束通り、ヴラド田中も現れた。今度は日焼け止めを全身に塗りたくって。


「今度こそは血を吸わせてもらうぞ、人間の田中よ!」


「はいはい、でもその前にスイカ割りやろうか」


「ぐぬぬ...」


 こうして俺の湘南ライフは、思わぬ吸血鬼の友達と彼女を得て、予想以上に充実したものになったのだった。


 夏だ!海だ!ヴァンパイアだ!


 めでたしめでたし。


 ---


 おまけ:佐藤と山田のその後


「おい田中、お前一人だけずるくない?」

「俺たちも吸血鬼と友達になりたいよ」

「じゃあ今度みんなでスイカ割り大会やろうか」

「やったー!」


 湘南の夏は続く...かも

プロンプト

「『夏だ!海だ!ヴァンパイアだ!?』。場所は夜の湘南。モテたいがために湘南の海にきた俺たち。しかし、イケイケなギャルとウエーイなヤンキーたちが花火をする様子にビビる俺。「ビビっているようだな人間よ」。吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうスイカ割りだ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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