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『吸血鬼に襲われたらケータリングカーに逃げ込め!!!』

  第一章 真夜中の遭遇


 東京ドーム。真夏の全国ツアーファイナルの余韻がまだ残る深夜二時。


 俺、天城リョウは楽屋裏の喫煙所で一息ついていた。今夜のライブは完璧だった。五万人の観客が俺の歌声に酔いしれ、涙を流し、共に叫んだ。アイドル生活七年目にして、ついに頂点を極めた瞬間だった。


「お疲れ様でした、天城さん」


 振り返ると、見覚えのない男が立っていた。背が高く、やけに肌が白い。スーツは高級品だが、どこか時代錯誤な印象を受ける。そして何より、その瞳が異様に赤く光っていた。


「君は...?」


「私は古い音楽の愛好家でして」男は優雅に微笑む。


「特に、生きた音楽が好きなのです」


 その瞬間、俺の本能が警鐘を鳴らした。この男は危険だ。


「面白い提案があります」男は一歩近づく。


「鬼ごっこをしませんか?朝まで逃げ切れたら、あなたの勝ち。捕まったら...」


 男の口元から、鋭い牙がのぞいた。


「吸血鬼...」


「ご名答」男は手を叩く。


「制限時間は夜明けまで。ルールは簡単、私から逃げ続けること。では、十秒差し上げましょう」


 俺は走った。


  第二章 逃走開始


 東京ドームシティの複雑な構造を利用し、俺は必死に逃げ回った。しかし吸血鬼の身体能力は人間を遥かに凌駕している。瞬間移動に近い速度で現れ、消える。まるで影と戯れているような感覚だった。


「はははは!いい運動になります!」


 吸血鬼の嘲笑が夜空に響く。


 俺は思考を巡らせた。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。体力の差は歴然としている。


 他に弱点は...十字架、聖水、ニンニク、銀...


「そうか!」


 俺の脳裏に一つのアイデアが浮かんだ。会場の裏手に停まっているケータリングカー。あそこならニンニクも調味料も揃っている。


 俺は方向を変え、駐車場へ向かった。


  第三章 最後の砦


 ケータリングカーに飛び込んだ俺は、即座にドアを閉め、鍵をかけた。車内は調理器具と食材で溢れている。まさに移動式要塞だ。


「なるほど、賢い選択ですね」


 振り返ると、吸血鬼が窓の外に立っていた。しかし中に入ってくることはできない。


「招かれざる者は入れない...古典的なルールだな」俺は安堵した。


「しかし」吸血鬼は指を立てる。


「私は時間を味方につけています。夏場のキッチンカーはさぞ暑いでしょうね」


 俺は手早くニンニクを刻み始めた。オリーブオイルで炒め、香りを車内に充満させる。吸血鬼は顔をしかめて後ずさった。


「ペペロンチーノか...イタリアンは得意でしてね」


 俺は調理を続けた。ニンニクたっぷりのパスタ、ガーリックライス、アヒージョ...次々と吸血鬼避けの料理を作り上げていく。


 外では心配したファンやスタッフが集まってきていた。俺は窓を少し開け、料理を配り始めた。


「天城くん、大丈夫?」

「なにこの美味しそうな匂い!」

「深夜の炊き出しなんて、さすが天城さん!」


 ファンたちは大喜びでニンニク料理を頬張っている。知らず知らずのうちに、彼らも吸血鬼避けのバリアを身にまとっていた。


  第四章 ジリ貧の状況


 しかし吸血鬼は余裕の表情を崩さない。


「いいアイデアですが、これではジリ貧ですよ」


 吸血鬼はニヤッと笑った。その通りだった。材料には限りがある。ニンニクも調味料も、やがて底をつく。そうなったら終わりだ。


 時計は午前四時を指していた。夜明けまであと二時間。


 俺は額の汗を拭いながら、最後のニンニクを刻んでいた。もうこれで終わりだ。


「観念しましたか?」吸血鬼が再び窓に近づく。


 その時だった。


「リョウ!」


 マネージャーの田中の声が聞こえた。彼は息を切らしながら駆け寄ってくる。


「会場の準備が整いました!みんな待ってます!」


「え?」


「ファンの皆さんが、あなたの料理に感動して...急遽、料理ライブをやろうって!会場側も特別に許可してくれました!」


 俺は呆然とした。料理ライブ?


「ケータリングカーごと会場に入れるそうです!天城さんなら、きっと最高のパフォーマンスを...」


  第五章 逆転のフィナーレ


 午前五時。東京ドームのステージ中央に、俺のケータリングカーが鎮座していた。


 観客席には三万人のファンが詰めかけている。急な告知にも関わらず、SNSの拡散力で瞬く間に会場は満席となった。


「みなさん!今夜は特別な夜です!」


 俺はマイクを握り、調理台に向かった。大型スクリーンには俺の手元が映し出される。


「愛をこめて、ニンニク料理を作ります!」


 会場は大歓声に包まれた。俺は歌いながら調理する。新しいスタイルのパフォーマンスだった。


「♪ニンニクで愛を伝えよう〜」


 即興の歌詞に、ファンたちは手拍子で応える。


 観客席の隅で、吸血鬼が苦悶の表情を浮かべていた。三万人分のニンニクの香りが会場を支配している。彼にとって、ここは地獄だった。


「♪朝が来るまで踊ろう〜」


 そして午前六時。東の空が白み始めた瞬間、吸血鬼の姿は煙のように消えた。


「やったー!」


 俺は拳を突き上げた。会場は割れんばかりの拍手に包まれる。


  エピローグ 新たな伝説


 その日の午後、俺は楽屋で新聞を読んでいた。


『天城リョウ、史上初の料理ライブで東京ドームを沸かす』

『深夜の奇跡!ファンとの絆が生んだ新たなエンターテイメント』

『ニンニク王子誕生?天城リョウの新境地』


 どの記事も、昨夜の出来事を熱狂的に報じていた。もちろん、吸血鬼のことは一切書かれていない。


「天城さん」田中が顔を出す。


「全国の料理番組から出演依頼が殺到してます」


「マジで?」


「それから...これ」


 田中が差し出したのは、一通の手紙だった。差出人は不明。便箋には美しい文字で一行だけ書かれている。


『また遊びましょう。今度は昼間で』


 俺は苦笑いを浮かべた。


「田中、ニンニク農家と契約できる?」


「は?」


「これから必要になりそうなんだ」


 俺は空を見上げた。太陽が燦々と輝いている。しばらくは安全だ。


 でも夜は必ず来る。


 そして、俺にはケータリングカーがある。


『吸血鬼に襲われたらケータリングカーに逃げ込め!!!』


 これは俺の人生に刻まれた、新たな金言となった。



 ---


 *天城リョウの料理ライブツアー「Garlic Love」は翌年、全国二十都市で開催され、すべて完売。彼の代表曲「ニンニクのセレナーデ」は年間チャート一位を獲得した。そして今でも、深夜の東京のどこかで、彼と吸血鬼の追いかけっこは続いているという...*

プロンプト

「『吸血鬼に襲われたらケータリングカーに逃げ込め!!!』。場所は東京。今日は全国ツアーファイナル。夜中に吸血鬼と遭遇した現役アイドルの俺。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうケータリングカーだ。このプロットを元にシリアススタイリッシュアクションコメディ短編小説を書きましょう。」

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