『ぶらりヴァンパイア』
私は闇の生き物。月が昇るとともに目を覚まし、東京の街へと漂い出る。血の渇きは私を動かす永遠の動力だが、最近はその味さえも薄っぺらく感じられる。五百年生きていると、何もかもがマンネリ化してくるものだ。
新宿の雑踏に紛れ込み、私は人間たちの匂いを嗅ぐ。甘く、温かく、生命力に満ちている。しかし今夜は狩りではなく、ただぶらりと歩くことにした。現代の東京という迷宮を散策する、夜の帝王としての特権を楽しもうと思う。
「やべっ!リアルに筋肉痛いっす!」
歌舞伎町の一角で、異様に発達した筋肉を持つ金髪の男が叫んでいる。彼はカメラに向かって必死にポーズを取り、汗だくになっている。
「今日の筋トレチャレンジ、あと10回で終わりっす!応援よろしくお願いしまーす!」
彼の周りには誰もいないのに、彼は見えない観客に語りかけている。スマートフォンに向かって微笑む彼の表情には、どこか寂しさが垣間見える。私は首を傾げながら通り過ぎる。人間は常に誰かに見られることを欲しているようだ。
少し歩くと、若い男女のグループが路上で何かを撮影している。彼らは「炎上不可避」「伝説になるわ」と囁き合いながら、道行く人々に向かってカメラを向けている。
「おい、あの外国人、絶対ウケるから絡んでみようぜ」
その言葉に、私は身構えた。人間よ、闇の帝王に手を出すとは愚かな...と思った矢先、彼らは別の外国人観光客に向かって走り出した。私はため息をつく。現代の若者は、命の危うさすら娯楽に変えてしまうのか。
銀座に足を運ぶと、高級クラブから出てきた男たちの会話が耳に入る。
「あの中国の投資家、本気で日本に金を落とす気満々だな」
「政治家の先生も満足そうだったし、この案件は通るだろうな」
「表向きは文化交流だがな、ハハハ」
彼らの笑い声は、私が聞いてきた数々の密談と変わらない。時代は変われど、権力者の欲望の形は変わらないようだ。
新橋では、若い女性と中年の男性が高級ホテルに入っていくのを見た。女性は「お父さん」と呼びかけたが、二人の間に流れる空気は決して親子のものではない。私は鼻を鳴らす。人間の偽善には呆れるばかりだ。彼らの血は甘いが、心は苦いのだろう。
テレビ局の前を通りかかると、大型ビジョンでニュースが流れている。同じ事件を、各局がまったく異なる切り口で報じている。私は思わず笑ってしまう。真実など、視点の問題に過ぎないのだ。
「社会的弱者の権利を守れ!」と叫ぶデモ隊が道を埋め尽くしている。彼らの主張は正しいかもしれないが、その目に宿る憎悪の光は私にも見えてしまう。人間は常に正義の名の下に、自分の欲望を隠している。
夜が深まり、私は東京タワーの頂に舞い上がった。下界では人々が忙しなく動き回り、それぞれの欲望に突き動かされている。私は月を見上げ、静かに微笑む。
五百年前も、百年前も、人間は変わらない。彼らは愚かで、弱く、醜い。しかし、それでも彼らは生きようとする。その執着心、その生への渇望こそが、私を惹きつけて止まないのだ。
私は今夜も獲物を探し始める。マンネリ化した日々の中で、新しい血の味を求めて。そして明日も、ぶらりと東京の夜を彷徨うだろう。永遠の時を持つ者の特権として、この奇妙な人間社会を見守り続けるために。
時が過ぎ、社会は変わっても、闇の中で微笑む私の姿だけは変わらない。それが吸血鬼の宿命。それが私の「ぶらりヴァンパイア」の日々なのだ。
プロンプト
「『ぶらりヴァンパイア』。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はぶらりと東京を歩く。その中で奇妙だが面白い住人と出会う。筋肉ムキムキだが何かソワソワしている金髪の芸人。スマートフォンを使って緊急で動画を撮っている軽薄な男女。中国人や外人に接待を受けている政治家。親子というには疑問な男女がホテルに入っていく。メディアというには偏向報道過ぎるオールドメディア。人権といいつつ自分たちに有利なように社会をかえたいだけの利己的な人権団体。人間賛歌のようで現代日本社会を皮肉りながら歩く私。このプロットを元にシリアスブラックコメディ短編小説を書きましょう。」




