『次のターゲットはノスフェラトゥ』
● 第一章 夜のささやき
永田町の議員会館、十三階。蛍光灯の冷たい光の下で、田中秀議員は明日の国会質疑のための資料を整理していた。時計の針は午後十一時を指している。
「こども家庭庁予算について...」
彼が呟いた瞬間、窓の外で何かが音を立てた。風か。それとも鳩か。田中は一瞬手を止めたが、すぐに作業に戻った。政治家になって二十年、こんな小さな音に神経を尖らせていては身が持たない。
その判断が、彼の最後の判断となった。
● 第二章 麺と死のニュース
翌日の午後二時、下町の老舗ラーメン屋「麺心」。カウンターに座る中年男性は、醤油ラーメンを音を立てて啜っていた。グレーのスーツ、黒縁眼鏡、どこにでもいそうなサラリーマン風の男。しかし、その眼の奥に宿る冷たさは、普通の会社員のものではなかった。
店内のテレビでは昼のニュースが流れている。
「昨夜遅く、田中秀衆議院議員が議員会館の自室で死亡しているのが発見されました。死因は心筋梗塞と見られており...」
男—黒川は箸を止めることなく、麺を口に運び続けた。三十年この仕事を続けてきた。政治家、やくざ、企業家、主婦。依頼さえあれば誰でも、どんな方法でも始末してきた。業界では「影」と呼ばれる伝説的な殺し屋だった。
隣の席に別の男が座った。注文もせずに封筒をカウンターに置く。
「味噌ラーメン、大盛りで」
黒川は会計を済ませ、店を出た。封筒はもうそこにはなかった。
● 第三章 インターネットカフェの依頼書
新宿のネットカフェ。個室ブースで黒川は封筒を開けた。
『殺害依頼：ノスフェラトゥ・ドラキュラ
報酬：10,000万円
期限：一週間以内
備考：標的は非常に危険。通常の手段では対処困難の可能性あり』
黒川は眉をひそめた。偽名にしても「ドラキュラ」とは随分と大仰な。だが、報酬額は本物だった。
パソコンに向かい、情報収集を開始する。都内の高級住宅街に住む資産家。本名は不明だが、夜間にのみ活動する奇行で知られている。近隣住民からの目撃証言によると、異常に背が高く、常に黒いマントを着用している。
「どうせコスプレ趣味の成金だろう」
黒川は呟いた。しかし、調べれば調べるほど奇妙な点が浮かび上がってきた。昼間の目撃証言が皆無。写真も一枚も存在しない。そして、彼の周囲で起こる不可解な失踪事件の数々。
● 第四章 訪問者
三日後、黒川は都内の隠れ家から奥多摩の山中にある別の隠れ家に移動していた。情報収集が進むにつれ、何か得体の知れない恐怖を感じるようになったからだ。三十年のキャリアで初めて感じる、説明のつかない不安。
深夜二時。
ドアをノックする音が響いた。
黒川は拳銃を握り締めた。この場所を知る者はいないはずだった。
「どちら様で？」
「あなたが探している者です」
扉の向こうから低く響く声。黒川は躊躇なく扉を開けた。三十年の殺し屋人生で培った直感が、逃げても無駄だと告げていた。
現れたのは、背丈二メートルを超える痩身の男だった。黒いマント、蒼白い肌、そして血のように赤い瞳。まさに映画で見るドラキュラそのものの姿。
「あなたの依頼人、つまり私を始末しようとした者はすでにいません」
男は静かに告げた。
「昨日の夜、彼は私の晩餐となりました。あなたは優秀な始末屋だと聞いています。ここはひとつ、取引をしましょう」
● 第五章 奇妙な契約
ドラキュラと名乗る男の提案は意外にも単純だった。
「私は長い間、退屈していました。群れを狩る楽しみを味わいたい。あなたには三つのターゲットを見つけて、おぜん立てをしてもらいます」
黒川は煙草に火をつけた。超常現象など信じない男だったが、目の前の存在は明らかに人間ではなかった。
「報酬は？」
「あなたの命」
「つまり、断れば殺すと？」
「その通りです」
交渉の余地はなかった。黒川は提示された三つのターゲットを確認した。
一つ目：高級焼肉店「牛神宮」の店主、宮廻太郎。
二つ目：青森のニンニク農家、矢部一郎。
三つ目：カトリック教会の神父、田村誠。
「なぜこの三人を？」
「私の天敵だからです」ドラキュラは笑った。
「焼肉屋は十字架の代わりに銀の箸を、ニンニク農家は私が最も嫌う匂いを、神父は聖水を武器にするでしょう」
黒川は苦笑した。
「随分とゲーム感覚ですね」
「八百年生きていれば、娯楽も必要になるのです」
● 第六章 三つの餌
一週間後。
まず黒川は焼肉店「牛神宮」の店主、宮廻に接触した。借金まみれの男で、闇金からの取り立てに怯えていた。黒川は彼に「高額バイト」を持ちかけた。指定された廃工場で、変わった客の相手をするだけの簡単な仕事だと説明した。
次に、青森のニンニク農家、矢部。不作続きで農協からの借金が膨らんでいた男だった。黒川は東京の高級レストランからの大口注文があると嘘をつき、東京への出張を促した。
最後に神父の田村。彼は最も厄介だった。信仰心が厚く、金銭で動く男ではない。黒川は教会に悪魔祓いの依頼を持ち込んだ。都内の廃病院で奇怪な現象が起きており、調査してほしいと頼んだ。
三人とも、指定された日時に現れた。
● 第七章 最後の晩餐
廃病院の屋上。午前零時。
三人の「餌」が揃った時、ドラキュラが現れた。
「素晴らしい」彼は手を叩いた。
「まさに私が求めていた演出です」
焼肉店主の宮廻は震え上がった。ニンニク農家の矢部は持参したニンニクを取り出した。神父の田村は十字架を掲げた。
「さあ、ゲームの始まりです」
ドラキュラが牙を剥いた瞬間、奇妙なことが起こった。
宮廻が振り回した焼肉用の銀製トングが、なぜかドラキュラの額に深々と刺さった。矢部の投げたニンニクが次々とドラキュラの胸に命中し、煙を上げ始めた。田村の聖水が雨のようにドラキュラに降りかかった。
「なんと...まさか...」
ドラキュラは倒れた。八百年の生涯で初めて、本当の恐怖を味わいながら。
黒川は呆然と立ち尽くしていた。
● 第八章 奇妙な事件
翌日のニュース。
「都内の病院跡地で不可解な事件が発生しました。現場では大量の灰と、焼肉用のトング、ニンニク、十字架が発見されましたが、詳細は不明です。警察では引き続き捜査を...」
黒川は下町のラーメン屋で醤油ラーメンを啜りながらニュースを見ていた。隣には新しい封筒が置かれている。
次の依頼だった。
彼は封筒を開けた。
『殺害依頼：人狼・オオカミ男
報酬：10,500万円
期限：一週間以内
備考：月の満ち欠けに注意』
黒川は深いため息をついた。
「今度は狼男か...」
彼は麺を啜り続けた。この世界には、まだまだ理解できないことがあまりにも多すぎた。しかし仕事は仕事だ。三十年間、そうやって生きてきた。
ラーメンを食べ終えた黒川は立ち上がった。次のターゲットを探しに、再び街に消えていく。
影の殺し屋の奇妙な日常は続いていく。
プロンプト
「『次のターゲットはノスフェラトゥ』。場所は東京、ある国会議員は次の国会の質疑応答のために書類をまとめていた。そのとき、何か音がした。次の日、都内の下町のラーメン屋でラーメンを啜る中年男性がいた。テレビでは国会議員の変死のニュースが流れていた。中年男性は殺し屋だった。金を貰えばだれでもどのような方法でも始末できる裏社会の伝説的な存在だった。殺し屋の横に男が座る。男は手紙を横においてラーメンを注文した。殺し屋は会計を済ませてラーメン屋を出た。手紙はすでにラーメン屋にはなかった。しばらく歩いてネットカフェに入った。殺し屋は手紙を開けて次の依頼を見る。「殺害依頼『ノスフェラトゥ・ドラキュラ』 」。男は黙々とターゲットの居場所から暗殺方法を調べる。殺し屋は徐々にドラキュラの身元が分かってくる。しかし、自分の身辺で異常な現象が起きる。都内から地方の隠れ家へ移動するが深夜にドラキュラが家に現れる。「あなたの依頼人つまり、私を始末しようとした者はすでにいません...あなたは優秀な始末屋らしいですね。ここはひとつ取引をしましょう」。それは簡単な仕事だった。殺し屋はただターゲットを見つけてくるだけ、そしておぜん立てをする。「焼肉屋」「ニンニク農家」「神父」。すべて吸血鬼の天敵。殺し屋はこの取引を承諾する。後日、奇妙な事件がオールドメディアで流れてこの話は幕を閉じる。このプロットを元にハードボイルドシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」
