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『吸血鬼 at きさらぎ駅』

 ● 第一章:マンネリ化した夜の帝王


 静岡県のとある山奥で、俺は今夜も獲物を探していた。名前?そんなもの、もう何百年も前に捨てた。俺は吸血鬼、夜の帝王だ。


「はぁ...また今日も同じパターンか」


 最近、どうも血を吸うことにマンネリを感じている。昔は人間の恐怖に歪む顔を見るのが楽しかったが、今では「あー、またこの反応ね」程度にしか思えない。


 そんな時、ふと思いついた。


「そうだ、鬼ごっこをしよう」


 逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけでなく、恐怖の顔を存分に楽しめる。我ながら良いアイデアだ。


 俺は獲物を物色するため、人里に向かった。しかし、田舎の夜は本当に人気がない。仕方なく最寄りの駅に向かうことにした。


 ● 第二章:謎の駅


「あれ?」


 気がつくと、見覚えのない駅のホームに立っていた。


『きさらぎ駅』


 駅名標にはそう書いてある。静岡県に住んで何百年、こんな駅は知らない。


「まぁいいか、人間が来るまで待つか」


 しかし、待てど暮らせど電車は来ない。そもそも線路を見ると、錆びついて何年も使われていない様子だ。


「おかしいな...」


 俺は駅の周りを探索することにした。するとぼんやりと明かりの灯る民家が見えた。


「やっと獲物が...」


 家に近づこうとした時、背後から声がした。


「ぽぽぽぽぽぽぽぽ」


 振り返ると、異様に背の高い女性が立っていた。身長は軽く2メートルを超えている。


「はちゃく、はちゃく...」


「八尺様かよ!」


 俺は思わず叫んだ。まさか同業者に出会うとは。


「あの、すみません」八尺様が丁寧に頭を下げた。


「お仕事中でしたら失礼いたします」


「え?」


「実は私、最近転職を考えておりまして...人を襲う仕事も飽きてきたんです」


 まさかの就職相談だった。


 ● 第三章:時空おっさん現る


 八尺様と就職について話していると、突然空間が歪んだ。


「よう、兄ちゃんたち」


 現れたのは作業着を着た中年男性だった。


「時空おっさん...」俺は呟いた。


「正確には時空のおっさんな。最近みんな略しすぎだよ」


 時空おっさんは煙草を吸いながら続けた。


「で、何してるんだ?八尺様が就職相談?珍しいな」


「あ、時空のおっさんさん」八尺様が振り返る。


「実は私、普通の会社員になりたいんです」


「マジか。俺も実は同じこと考えてたんだ」


 え?


「だってさ、時空を渡り歩いて世界を保全する仕事も、もう飽きたんだよ。安定した収入がほしいしさ」


 なんだこの状況。俺は鬼ごっこがしたいだけなのに、なぜか怪談の怪物たちの就職相談会になっている。


「あの...俺はただ鬼ごっこがしたいだけなんですが」


「鬼ごっこ?」八尺様が興味深そうに首を傾げる。


「それは面白そうですね」


「俺もやりたい!」時空おっさんが手を挙げる。

「久しぶりに子供の頃を思い出すわ」


 ● 第四章:異次元鬼ごっこ


 結局、俺たちは三人で鬼ごっこをすることになった。


「鬼は俺がやる」


「でも吸血鬼さん、私たちは人間じゃないですよ?」


「...細かいことは気にするな」


 俺が目を閉じて数を数えている間に、八尺様は2メートル超の身長を活かして電柱の陰に隠れ、時空おっさんは文字通り違う次元に逃げ込んだ。


「もういいかい?」


「まーだだよ!」


 八尺様の声が妙に高い。


「時空おっさんは別次元にいるから聞こえません!」


 なんだこのルール無用の鬼ごっこは。


 俺は仕方なく八尺様を追いかけた。しかし、彼女は意外と足が速い。


「待てー!」


「ぽぽぽぽぽぽ!」


 八尺様が逃げながら鳴いている。なんかかわいい。


 その時、時空おっさんが突然俺の前に現れた。


「よう、鬼さん」


「うわあああ!」


 俺は驚いて転んだ。


「あ、大丈夫ですか?」八尺様が心配そうに駆け寄る。


 なんか俺が一番情けない。


 ● 第五章:朝が来た


 結局、俺たちは夜通し鬼ごっこをした。気がつくと東の空が白み始めている。


「あー、楽しかった」時空おっさんが伸びをする。


「久しぶりに童心に帰ったわ」


「私も楽しかったです」八尺様も満足そうだ。


「でも、やっぱり普通の仕事がしたいな」


「俺もだ。実は面接の予定があるんだ」時空おっさんが腕時計を見る。


「コンビニのバイト」


「私は事務職を希望しています」


 なんか俺だけ取り残された感じだ。


「じゃあ、俺たちそろそろ帰るか」


「そうですね」八尺様が振り返る。


「あ、でも帰り方がわからない」


「きさらぎ駅は一方通行だからな」時空おっさんが煙草を消す。


「俺が送るよ」


「ありがとうございます」


 俺は八尺様に聞いた。


「今度また会えるかな?」


「もちろんです。今度は普通の服を着て会いましょう」


 八尺様がにっこりと微笑んだ。2メートル超の身長で微笑まれると、なんか威圧感がある。


「じゃあな、吸血鬼」時空おっさんが手を振る。


「お疲れさん」


 二人は時空の歪みの中に消えていった。


 俺は一人、朝日に照らされたきさらぎ駅のホームに立っていた。


「...なんか、普通に楽しかったな」


 結局、血は一滴も吸わなかった。でも、なんか満足だった。


 そして俺は気がついた。


「あれ?俺、どうやって帰ればいいんだ?」


 きさらぎ駅は一方通行。時空おっさんは帰ってしまった。


「...詰んだ」


 俺は途方に暮れた。夜の帝王が、朝日の中で途方に暮れている。


 なんかシュールだ。


 ● エピローグ


「...という話はどうかな?」


 作家の作田は原稿を置いて、編集者の佐々木を見た。


「うーん」佐々木は困った顔をしている。


「吸血鬼が主人公のコメディって、需要あるんですかね?」


「最近のホラーは、怖いだけじゃダメなんですよ。笑えて、ちょっと切ない要素が必要です」


「でも、きさらぎ駅で鬼ごっこって...」


「いいじゃないですか!現代的でしょ?」


「八尺様が就職活動って設定も...」


「時代を反映してるでしょ?就職難の時代ですから」


 佐々木は頭を抱えた。


「もう少し、普通のホラーは書けないんですか?」


「普通のホラーなんて、つまらないじゃないですか」


 作田は得意げに言った。


「これからは、『ほんのりホラー』の時代ですよ」


「ほんのりホラー...」


 佐々木は深いため息をついた。


「わかりました。とりあえず、上に提出してみます」


「よろしくお願いします!」


 作田は嬉しそうに帰っていった。


 残された佐々木は、原稿を見つめながら呟いた。


「...これ、本当に売れるのかな?」


 ---


 ● ネット怪談解説


 ●きさらぎ駅

 2004年に2ちゃんねるで投稿された怪談。電車に乗っていた人が、存在しないはずの「きさらぎ駅」で降りてしまい、元の世界に戻れなくなるという話。リアルタイムで展開された実況形式の怪談として有名。


 ●八尺様

 2008年頃にネット上で広まった怪談。身長8尺(約2.4メートル)の女性の化け物で、「ぽぽぽぽ」という特徴的な声を出す。主に子供を狙うとされ、見つけられると執拗に追いかけてくる。


 ●時空おっさん(時空のおっさん)

 比較的新しいネット怪談の一つ。時空を超えた不可解な現象を起きたとき、突然現れる作業着を着た中年男性。他の怪談に比べて恐怖要素は薄く、シュールな面白さが特徴。


 これらの怪談は、従来の口承される怪談とは異なり、インターネット上で生まれ発展した現代の都市伝説として注目されている。特に「きさらぎ駅」は、実況スレッドという形式で展開されたことで、読者の参加意識を高め、新しい怪談の形を作り出した。

プロンプト

「『吸血鬼 at きさらぎ駅』。場所は静岡県。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。というのが数分前。そして、私は今謎の駅にいる。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。日本のネット怪談『八尺様』『きさらぎ駅』「時空おっさん」などの詰め合わせでお願いいたします。オチは「という話はどうかな」と作家が編集者と話す楽屋オチです。最後にネット怪談の解説を簡単に書いてください。」

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