『町内会長のドラキュラさん』
第一章 深夜の遭遇
東京の夜は決して眠らない。しかし、午前2時の住宅街はさすがに静寂に包まれていた。残業を終えて帰宅する私の足音だけが、アスファルトに響いている。
「おつかれさまでした」
振り返ると、そこには漆黒のマントを羽織った男が立っていた。月明かりに照らされた顔は青白く、口元から二本の牙が覗いている。
「え?」
「私、この辺りの町内会長をしておりますドラキュラと申します」
名刺を差し出してきた。『渋谷区神南町内会会長 ドラキュラ・ツェペシュ』と印刷されている。
「あの、ドラキュラって...」
「はい、あのドラキュラです。500年ほど前からこの辺りに住んでおりまして」
冷静に考えれば、この状況は完全に異常だった。しかし、なぜか私は妙に納得してしまった。確かに最近、この辺りの治安が異様に良い。空き巣も痴漢も全く発生していない。
「で、何のご用でしょうか?」
「実は、町内会の会員が不足しておりまして。ぜひ、あなたにもご入会いただきたく」
ドラキュラさんは丁寧に頭を下げた。
第二章 逃走の算段
町内会。その響きだけで、私の背筋に悪寒が走った。
近所付き合い、当番制の清掃活動、夏祭りの準備、年末年始の行事。そして何より、土日の貴重な時間を削られるのだ。
「あの、ちょっと考えさせていただいて...」
「いえいえ、今夜中にお返事をいただければ」
ドラキュラさんの目が赤く光った。どうやら断りを聞く気はなさそうだ。
私は必死に思考を巡らせた。吸血鬼の弱点は何だったか。日光、十字架、ニンニク、流水...。
日光が一番確実だ。朝まで逃げ切れば勝てる。しかし、相手は数百年の経験を持つ本物の吸血鬼。果たして朝まで逃げ切れるだろうか。
「少し散歩でもしながら考えませんか?」
「いいですね。では、こちらへ」
ドラキュラさんは街灯の影に向かって歩き始めた。私は反対方向に走り出した。
第三章 最後の砦
息を切らしながら走り続けた私は、ついに最後の手段を思い出した。
会社だ。
24時間稼働のオフィスビル。警備員もいるし、何より十字架のような構造をしている。それに、ドラキュラさんが会社に入ってくることは物理的に不可能だろう。なぜなら、招かれなければ家に入れないのが吸血鬼の掟だからだ。
私は会社のビルに駆け込んだ。
「おつかれさまです」
警備員さんに挨拶をして、エレベーターに乗り込む。33階の自分のデスクに座り、ようやく一息ついた。
「ふぅ、これで朝まで安全だ」
しかし、窓の外を見ると、ドラキュラさんがビルの前で立っていた。こちらを見上げて、何かを訴えかけている。
私は窓を開けて耳を澄ませた。
「町内会の説明をさせてください!」
「入れませんよ、ここは会社ですから!」
「承知しております!」
第四章 意外な提案
朝の6時。東の空が白み始めた。私は勝利を確信した。
エレベーターで1階に降りると、ドラキュラさんはまだそこにいた。しかし、その姿は徐々に薄くなっている。
「おつかれさまでした」
「あ、はい...」
「最後にひとつだけ、お聞きください」
ドラキュラさんは消え行く寸前で言った。
「町内会に入会されますと、『町内会活動』を理由に定時退社が可能になります」
「え?」
「労働基準法第7条に基づく公民権の行使です。会社は町内会活動を理由とした早退を拒否できません」
私の脳裏に、定時で帰宅する自分の姿が浮かんだ。毎日6時に家に帰り、夕食を作り、ゆっくりと風呂に入る。そんな人間らしい生活が...。
「入会届はどちらに?」
「明日の夜、同じ場所でお待ちしております」
ドラキュラさんは満足そうに微笑んで消えた。
エピローグ
翌日の夜、私は入会届を手に同じ場所に向かった。
「おつかれさまでした」
「こちらこそ。では、早速ですが印鑑を...」
入会届にハンコを押しながら、私は思った。
確かに町内会は面倒かもしれない。しかし、定時退社の権利は何物にも代えがたい。それに、会長が吸血鬼なら、きっと他の面倒な役員は全て彼が引き受けてくれるだろう。
「では、明日から定時でお帰りください」
「ありがとうございます、ドラキュラ会長」
私は初めて、心から町内会に感謝した。
翌日から私の生活は一変した。午後6時きっかりに「町内会の用事で」と言って退社する。上司も渋い顔をするが、法的には何も言えない。
そして毎晩、ドラキュラ会長と顔を合わせる。
「おつかれさまでした」
「おつかれさまでした」
なんだか、悪くない人生だと思った。
プロンプト
「『町内会長のドラキュラさん』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して町内会に入ることを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そう会社だ。私は町内会に入るデメリットを考えながら会社に向かう。オチ、町内会を理由に定時退社できることを言われる。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」




