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『ピザデブドラキュラ』

 東京の夜は思ったより暗かった。


 街灯の光も届かない路地裏で、私は息を殺していた。心臓の鼓動が耳に響く。これが最後の隠れ場所だ。もうこれ以上走れない。


「出ておいで~、人間くん~」


 甘ったるい声が闇の中から聞こえてきた。私は壁に背中を押し付け、膝を抱えた。


「隠れてもムダだよ~。君の血の匂い、すっごくいい匂いがするんだよね~」


 その姿が月明かりの中に現れた。トレンチコートを着た太った男。いや、男ではない。吸血鬼だ。


 顔は青白く、頬はぽっちゃりとしていて、体型はまるで風船のように丸かった。彼は私を見つけると、口角を上げてニヤリと笑った。長い犬歯が月明かりに反射して光る。


「見~つけた♪」


 ***


 一時間前、私は終電を逃してしまい、徒歩で帰る途中だった。コンビニでおにぎりを買って、人気のない道を歩いていると、彼が現れた。


「こんばんは、美味しそうな人間さん」


 最初は冗談かと思った。ハロウィンの仮装か何かだろうと。しかし彼は私の目の前でコウモリに変身し、また人間の姿に戻った。それが吸血鬼だと理解するまでに時間はかからなかった。


「今夜は暇なんだ。ちょっと遊ぼうよ」彼は言った。


「鬼ごっこしない?君が朝まで生き延びられたら、君の勝ち。僕が捕まえたら、君の血をちょっとだけ頂く。公平でしょ?」


 選択肢はなかった。彼はひらりと宙に浮き、私は走り出した。


 ***


「もう逃げられないね」


 彼は私の前に立ち、太った指で私の頬を撫でた。冷たい。死人の手のようだ。


「あと三時間あれば朝だったのに...残念だね」


 私は頭を働かせようとした。吸血鬼の弱点...日光、ニンニク、十字架、銀...どれも今は役に立たない。


 そのとき、彼のお腹が「グゥ~」と鳴った。


「あ、ごめん。血を吸う前にいつもお腹が鳴るんだ」彼は照れ笑いを浮かべた。


「実は僕、人間の頃からよく食べる方でさ...吸血鬼になった今も、血以外の食べ物が恋しくてね」


 そこで思いついた。彼の体型...「ピザデブ吸血鬼」という異名が地域で囁かれていたことを思い出した。


「近くに24時間営業のファストフード店があるよ」私は言った。


「そこのチーズバーガーセット、めちゃくちゃ美味しいんだ」


 彼の目が輝いた。


「マジで?でも...血を吸わないと...」


「どうせ私の血を吸うんでしょ?その前に最後の晩餐として、一緒にハンバーガー食べない?おごるよ」


 彼は躊躇した。


「...いいの?」


「もちろん」


 ***


 ファストフード店に入ると、深夜にもかかわらず数人の客がいた。店員は眠そうな目で私たちを見た。吸血鬼は人間に見えるようだ。ただの太った外国人に見えるのかもしれない。


「チーズバーガー10個、ポテト特大5つ、コーラ特大3つください」


 私は思い切って注文した。吸血鬼は興奮した様子で、よだれを拭きながら待っていた。


「本当に食べられるの?」私は小声で聞いた。


「もちろん!血以外も食べられるよ。ただ、栄養にはならないから結局血が必要なんだけどね」彼は答えた。


「でも味は感じられるんだ。特に脂っこいものが大好きなんだよね~」


 食事が運ばれると、彼は獣のように食べ始めた。バーガーを次々と平らげ、ポテトを口に詰め込み、コーラをガブ飲みする。店員も他の客も、その異様な食欲に目を丸くしていた。


「う~ん、最高!」彼は満足そうに言った。


「本当にありがとう!久しぶりのファストフードだよ」


 しかし、食べ終わると彼の表情が変わった。彼のお腹から奇妙な音が聞こえ始めた。


「あ...あれ?なんか...おかしいな...」


 彼は苦しそうに顔をゆがめた。顔が青白くなり、汗が吹き出してきた。


「お腹が...痛い...」


「吸血鬼って消化能力、どうなんだろうね?」私はニヤリと笑った。


「特に大量のジャンクフード食べたら...」


「う...うっ...トイレ...」


 彼はよろよろと立ち上がり、トイレに向かった。私はチャンスとばかりに店を出て、全力で走り出した。


 ***


 朝日が昇る頃、私は自宅のベッドで目を覚ました。昨夜の出来事が夢ではなかったことを証明するように、財布の中身はすっからかんだった。


 インターネットで「ピザデブ吸血鬼」について検索してみると、いくつかの目撃情報が出てきた。どうやら彼は何十年も東京の夜を徘徊しているらしい。そして面白いことに、彼に遭遇した人々はみな同じ方法で逃げていた。


 過食による一時的な腹痛。それが彼の本当の弱点だったのだ。


 電話が鳴った。見知らぬ番号だ。


「もしもし?」


「ひどいよ~、人間くん」聞き覚えのある甘ったるい声だった。


「あんなにお腹を壊したの初めてだよ。でも、面白かったな!今度は僕がおごるから、また遊ぼうよ」


 私は思わず笑ってしまった。


「次はもっと高いところで奢ってもらうよ」


「いいよ~。でも次は逃がさないからね」


 電話を切ると、窓の外で一匹のコウモリが飛んでいるのが見えた。私は手を振った。彼も羽を振り返してきた気がした。


 東京の夜は、まだまだ不思議な生き物であふれているようだ。

プロンプト

「場所は東京、夜中にピザデブ吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そうファストフードだ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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