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『絶体絶命!バリキャリアママ!!遠足前日!!!』

 ○ 第一章 夜の邂逅


 東京の夜空に三日月が輝く中、私ブラッド・マウンテンは今宵も狩りの時間を迎えていた。三百年の長きにわたり夜の帝王として君臨してきた私だが、最近の人間たちの血の味は昔ほど濃厚ではない。ストレス社会の影響だろうか。


「さて、今夜はどのような獲物と出会えるか」


 私は優雅にマントを翻し、オフィス街を歩いていた。すると、一際背の高い女性が颯爽と歩いているのが目に入った。その歩き方、肩の張り具合、まさにバリバリのキャリアウーマンの風格である。


「お嬢さん、私と鬼ごっこはどうかな?」


 私は紳士的に声をかけた。三百年の経験上、このような洒落た誘い文句で獲物の興味を引くのが定石である。


「なに!なんか用?」


 女性は振り返ると、物凄い剣幕で言った。その目には疲労と焦燥の色が浮かんでいる。これは只事ではない。


「アタシはバリバリキャリアのシングルマザー。一人息子を育てているけど、明日が息子の遠足なのに何の準備もせずに遅くまで残業していたの!息子は明日の遠足のお弁当を楽しみにしているのに何の準備も出来ていない。それにあたしはあんまり料理をしない、ましてやお弁当を作ったことがないから、何をすればいいか見当がつかなくて困っているの。もし、コンビニのお弁当を詰め替えたお弁当を出そうものなら息子はがっかりして、もしかしたら、これがトラウマになってお弁当を心から憎む大人になってしまうわ。それにママ友からの評価も最低になってママ友カーストが危ないの!誰か私にお弁当の作り方を教えて!」


 私は思わず感嘆した。さすがバリバリのキャリアだ。プレゼン力が段違いだ。説明がまとまっている。論点整理も完璧で、問題の本質を的確に捉え、リスク分析まで含んでいる。三百年生きてきた私でも、これほど見事なプレゼンテーションはそうそう見たことがない。


「よかろう。私がお弁当の神髄を教えてやろう」


 女性はあっけに取られていた。


 ○ 第二章 吸血鬼の料理道


「え?本当に?でも、あなた誰?なんでこんな夜中に?」


「私はブラッド・マウンテン。夜の帝王として名を馳せる吸血鬼である」


「は?吸血鬼?」


 女性は眉をひそめた。しかし、追い詰められた状況では藁をも掴む思いなのだろう。


「まあ、何者でもいいわ。お弁当の作り方を知っているなら!私、田中美咲。息子は我愛弥(ガイヤ)、小学三年生。明日の遠足は井の頭公園よ」


「承知した、美咲殿。まずは食材の調達からだ。コンビニへ向かおう」


「コンビニ?でもさっき、コンビニのお弁当を詰め替えるのはダメだって…」


「愚かな。コンビニの既製品を使うのではない。コンビニで素材を調達し、それを組み合わせて真のお弁当を作り上げるのだ」


 私たちは24時間営業のコンビニに向かった。店内の蛍光灯が私の肌を青白く照らす。


「まず基本中の基本、白飯だ。しかし、ただの白飯では芸がない」


 私は冷凍のチャーハンの素とふりかけを手に取った。


「このチャーハンの素を少量使い、ご飯に混ぜ込む。そして、のりたまふりかけで彩りを加える。これで立派な混ぜご飯の完成だ」


「なるほど…でもおかずは?」


「焦るな、美咲殿。次は冷凍食品の唐揚げ、これをレンジで温める。しかし、そのまま入れては平凡だ」


 私は小さなケチャップとマヨネーズのパックを取った。


「この二つを混ぜ合わせれば、オーロラソースの完成。唐揚げにかければ、たちまち特製チキンの出来上がりだ」


 美咲の目が輝いた。


「天才ね!他には?」


「卵焼きは冷凍品を使う。しかし、チーズを挟んで再加熱すれば、チーズ入り玉子焼きに変身する。ウインナーはタコの形に切り込みを入れ、茹でれば可愛らしいタコウインナーに」


 私は次々と食材をカゴに放り込んでいく。


「ブロッコリーは冷凍品を茹で、マヨネーズとコーンを和える。プチトマトはそのまま彩りに使う。最後に、デザートとして一口ゼリーを添える」


「すごい…まるで魔法みたい」


「三百年の経験は伊達ではない。実は十八世紀のフランス宮廷で料理長を務めていたこともあるのだ」


 これは嘘である。当時の私はもっぱら貴族の血を吸うのに忙しかった。


 ○ 第三章 深夜の料理教室


 美咲のマンションに到着した。モダンなインテリアが整然と配置された、いかにもキャリアウーマンらしい住まいだ。


「我愛弥は?」


「もう寝てるわ。起こしちゃダメよ」


 私たちはキッチンに立った。美咲は手慣れた様子でエプロンを締める。


「まずは米を炊こう。冷凍チャーハンの素を適量加えて」


「こう?」


「そうだ。次に冷凍唐揚げをレンジで温める。その間にオーロラソースを作ろう」


 私は美咲の手を取り、ケチャップとマヨネーズの配合を教えた。触れた瞬間、彼女の血の匂いを感じる。疲労と栄養不足の香りが混じっている。


「大丈夫か、美咲殿。最近きちんと食事を取っているか?」


「忙しくて…コンビニ弁当ばっかり」


「それではいかん。子を持つ母として、まず自分の健康を大切にせねば」


 私は思わず説教モードに入ってしまった。三百年生きていると、つい年長者ぶってしまう悪い癖である。


「はい、お母さん」


 美咲が苦笑いしながら答える。


「お母さん?私は男性だぞ」


「でも、なんだか頼りになるお母さんみたい」


 なんと失礼な。私は夜の帝王である。


 しかし、不思議と嫌な気分ではなかった。


 ○ 第四章 弁当箱の中の小宇宙


「さあ、いよいよ弁当箱に詰める作業だ」


 私は手品師のような手つきで食材を配置していく。


「まず、ご飯を弁当箱の半分に敷き詰める。隙間なく、しかし押し固めすぎないように」


「む、難しい…」


「案ずるな。コツは愛情だ」


「愛情?」


「そうだ。我愛弥殿への愛情を込めて詰めるのだ。母の愛は最高の調味料である」


 美咲の手が止まった。


「愛情…そうね。最近、我愛弥とゆっくり話す時間もなかった」


「仕事も大切だが、子との時間はかけがえのないものだ。私は三百年生きているが、失った時間は二度と戻らない」


「あなた、本当に吸血鬼なの?」


「疑うか?」


 私は軽く牙を見せた。美咲は目を丸くする。


「本物…」


「しかし、今夜の私は料理の師匠だ。さあ、続けよう」


 私たちは黙々と作業を続けた。唐揚げにオーロラソースをかけ、チーズ入り卵焼きを切り分け、タコウインナーを配置する。


「ブロッコリーは緑の宝石のように配置し、プチトマトは赤い太陽のように」


「なんだか、アートみたい」


「料理は芸術だ。そして、愛の表現でもある」


 最後に一口ゼリーを添えて、お弁当の完成だ。


 ○ 第五章 夜明け前の告白


 弁当箱のフタを閉めた瞬間、東の空が薄っすらと明るくなり始めた。


「あ、もう夜明け…あなた、大丈夫?吸血鬼って朝日がダメなんでしょ?」


「心配無用。最近の吸血鬼は日焼け止めで対策している」


 これも嘘である。実際は、三百年の修行で多少の朝日には耐えられるようになっただけだ。


「でも、なぜ私を助けてくれたの?」


 美咲が真剣な顔で尋ねた。


「実は…」


 私は少し迷った。真実を話すべきか。


「実は、君のプレゼンテーション能力に感動したのだ。三百年生きてきたが、あれほど見事な説明は初めて聞いた」


「それだけ?」


「それと…」


 私は窓の外を見た。


「君の息子への愛情が、私の心を動かした。愛とは、種族を超えた普遍的な力なのかもしれない」


 美咲は微笑んだ。


「ありがとう、ブラッド・マウンテン。あなたは本当に優しい吸血鬼ね」


「礼はいらぬ。ただし…」


 私は振り返った。


「今度我愛弥殿の誕生日には、また呼んでくれ。今度はケーキ作りを教えよう」


「約束よ」


 私はマントを翻し、朝日を背に歩き去った。振り返ると、美咲が弁当箱を大切そうに抱えて手を振っていた。


 ○ エピローグ 遠足の日


 その日の夕方、私は偶然井の頭公園の近くを通りかかった。すると、我愛弥らしき少年が母親に向かって興奮して話しているのが聞こえた。


「ママ、今日のお弁当すごく美味しかった!みんなに自慢したよ!」


「本当?よかった…」


 美咲の安堵の表情が見えた。


「それに、田中君のお母さん、料理上手なのね」


 ママ友らしき女性の声も聞こえる。


 私は満足げに頷いた。夜の帝王として、また一つ良い仕事をしたようだ。


 そして私は夜の闇に消えていった。明日もまた、誰かが私の助けを必要としているかもしれない。


 ---


 **著者注**: この物語はフィクションです。実際の吸血鬼がお弁当作りを教えてくれることはありません。また、コンビニ食材でのお弁当作りは自己責任でお願いします。

プロンプト

「『絶体絶命!バリキャリアなママ!!遠足前日!!!』。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。逃げ惑う人間を狩る。私は長身の女を見つけて声をかける。「お嬢さん、私と鬼ごっこはどうかな?」。「なに!なんか用?」。女は物凄い剣幕で言った。「アタシはバリバリキャリアのシングルマザー。一人息子を育てているけど、明日が息子の遠足なのに何の準備もせずに遅くまで残業していたの、息子は明日の遠足のお弁当を楽しみにしているのに何の準備も出来ていない。それにあたしはあんまり料理をしない、ましてやお弁当を作ったことがないから、何をすればいいか見当がつかなくて困っているの。もし、コンビニのお弁当を詰め替えたお弁当を出そうものなら息子はがっかりしてもしかしたら、これがトラウマになってお弁当を心から憎む大人になってしまうわ。それにママ友からの評価も最低になってママ友カーストの地位が危ないの!誰か私にお弁当の作り方を教えて!」。さすがバリバリのキャリアだ。プレゼン力が段違いだ。説明がまとまっている。「よかろう。私がお弁当の神髄を教えてやろう」。女はあっけに取られていた。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。

登場人物:

・私こと吸血鬼ブラッド・マウンテン:高貴な吸血鬼、あらゆる分野を極める律儀で礼儀を重んじるノリのいい吸血鬼。ナイスガイ。血液型でいえばB型、吸血鬼でいえば保守派。三百年以上生きている。」

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