『ノスフェラトゥ組合』
☆ 第一章 日常に飽きた夜の帝王
俺の名前は...まあ、どうでもいい。重要なのは俺が吸血鬼だということだ。夜の帝王、闇の支配者、血に飢えた不死の存在——そんな大仰な肩書きを持ちながら、今夜も俺は渋谷のコンビニ前でサラリーマンの首筋を狙っていた。
「うーん、また同じパターンか」
最近、どうも血を吸う作業がマンネリ化している。昔は恐怖に震える人間を見るのが楽しみだったが、今や彼らはスマホに熱中していて、首に牙を立てても「あ、虫?」程度の反応しか示さない。情緒がない。
ふとスマートフォンで予定を確認すると、画面に「ノスフェラトゥ組合関東支部定期会合」の文字が躍っていた。
「しまった!」
☆ 第二章 地下に集う者たち
急いで会合場所へ向かう。港区某所のタワーマンション地下。エレベーターの隠しパネルに「666」と入力すると、秘密の扉が開く。なんとも分かりやすい暗号だが、これでいいのだ。我々不死の者は案外単純である。
地下会議室に足を踏み入れると、そこには見慣れた面々が集まっていた。
「おー、久しぶり!」
狼男の田中が手を振ってくる。普段は月夜に遠吠えをする彼だが、今日はユニ●ロのポロシャツを着ている。
「田中さん、その服...」
「ああ、これ?妻に買ってもらったんだ。『もう少し人間らしい格好をしなさい』って」
妻?狼男に妻がいるのか。
会場を見回すと、天使のミカエルと悪魔のベルゼブブが隅っこで盛り上がっている。
「いやー、うちの上司もひどくてさ」とミカエル。
「分かる!『地獄の業務効率を上げろ』って言われるけど、そもそも地獄って非効率が売りでしょ?非効率的なブラック労働が地獄なんでしょ?」とベルゼブブ。
敵対関係はどこへやら、完全に友達である。
☆ 第三章 無礼講という名の近況報告会
「皆さん、お疲れさまです!今日は無礼講ということで、リラックスしていきましょう」
司会は妖怪のろくろ首、佐藤さんだ。普段は首を伸ばして人を驚かせているが、今日は普通に立っている。というか、名前が佐藤って...
「それでは恒例の近況報告から参りましょう。まずは新人さんから」
新人の座敷わらしが立ち上がる。
「え、えーっと、座敷わらし一年目の鈴木です。最近は空き家が増えて仕事が...」
「ああ、それ分かる」と狼女で美容脱毛中の山田さんが手を上げる。
「私も森が減って狼に変身する場所がなくて。この前なんて代々木公園で変身したら、インスタ映えするって若い子に写真撮られまくって」
「え、それってある意味成功じゃない?」
「でも『#オオカミ女子』ってハッシュタグ付けられて...」
会場がどっと笑う。
☆ 第四章 時代の波に揉まれる不死者たち
天使のミカエルが発表台に立つ。
「最近、祈りの数が激減してまして。みんなググるかチャットGPTに聞くんですよ。『神様、宝くじ当たりますように』じゃなくて『宝くじ 当選確率 上げる方法』って検索するんです」
「時代だねー」と悪魔のベルゼブブが相槌を打つ。
「こっちも『悪魔に魂売ります』って来る人いないし。みんな臓器をダークウェブで転売してる」
次は吸血鬼の新人、田中(なぜか田中が多い)が発表する。
「血を吸う時に『失礼します』って言うようにしたら、みんな『あ、はい』って返事してくれて。でも後で『あれ?何か吸われた?』って気づくパターンが多くて...」
「それ、日本人の性格を利用した新しい手法だね」
俺も負けじと発表台に立つ。
「最近マンネリで困ってるんですが、今度『血を吸われる体験ツアー』をやろうかと思ってまして」
「え、観光業に参入?」
「そうです。インバウンド需要を取り込もうかと。『Real Vampire Experience in Tokyo』みたいな。東京の景色を楽しみながら美男美女に血を吸われるってコンセプトで」
会場がざわめく。
☆ 第五章 現代的な悩み
座敷わらしの鈴木が手を上げる。
「あの、皆さんにお聞きしたいんですが、SNSってやってます?」
「やってるよー」と狼女の山田さん。
「Instagram。満月の写真とか上げてる。フォロワー結構いる」
「私も」と天使のミカエル。
「Twitter...じゃなくてXで天界の日常をつぶやいてる。『今日も人間の願いを聞いております』とか」
「私も」と悪魔のベルゼブブ。
「TikTokで『悪魔の日常』シリーズやってる。地獄の料理とか紹介してる。案外バズる」
現代の不死者はSNSもやるのか。時代は変わった。
ろくろ首の佐藤さんが進行を続ける。
「皆さん、在宅ワークってどうですか?」
「やってます」と狼男の田中。
「月に一度の変身日以外は基本リモート。Zoomで会議参加してる」
「私も」と座敷わらしの鈴木。
「空き家の管理をオンラインで。情報サイトで物件チェックしてる」
もはや何の集まりなのか分からない。
☆ 第六章 不死者たちの生き甲斐
「皆さん、最近のやりがいって何ですか?」
司会の佐藤さんの質問に、天使のミカエルが答える。
「困ってる人を助けた時ですね。この前、道に迷ったお婆さんを案内したら、すごく喜んでくれて」
「それ、普通に良い人じゃん」
「でも天使ですから。上司からは『当たり前だ』って言われちゃうんですよ」
悪魔のベルゼブブも手を上げる。
「私は逆に、イライラしてる人の気持ちを理解することですね。『あー、この人今悪魔に魂売りたい気分だろうな』って分かる時があるんです。でも話を聞いてあげると結構スッキリしてくれて…結局魂は貰えずに終わっちゃって」
「それカウンセラーでしょ」
「まあ、そうかも」
狼女の山田さんも発言する。
「私は動物保護のボランティアやってます。狼の血が入ってるからか、動物の気持ちが分かるんですよね」
「それ素晴らしいね」
皆、案外まともなことをしている。
☆ 第七章 組合の存在意義
会合も終盤に差し掛かった頃、新人の座敷わらしが質問した。
「あの、素朴な疑問なんですが、なんで我々はこうやって集まるんでしょうか?」
会場が静まり返る。確かに、なぜだろう。
しばらくの沈黙の後、狼男の田中が口を開いた。
「寂しいからじゃない?」
「寂しい?」
「だって、俺たち不死だし、普通の人間とは違うし。でも結局、誰かと繋がっていたいんだよ。たとえそれが悪魔だろうと天使だろうと妖怪だろうと」
天使のミカエルがうなずく。
「分かります。天界にいても結局一人だし、人間界に降りてきても理解してもらえないし」
悪魔のベルゼブブも同意する。
「地獄も意外と孤独なんですよね。みんな苦しんでるから、話し相手もいないし」
俺も頷いた。確かに、血を吸うのは空腹を満たすためだが、それ以上に誰かと関わりたいからなのかもしれない。
☆ 第八章 不死者たちの未来
「そういえば、来年の会合はどうします?」と司会の佐藤さん。
「オンラインでもいいんじゃない?」と狼女の山田さん。
「でも実際に会うのも大切だよ」と狼男の田中。
「じゃあ、ハイブリッドで」と天使のミカエル。
「それ現代的だね」
「でも、リアルで会うのも楽しいよね」と座敷わらしの鈴木。
「そうそう、Zoomだと佐藤さんの首が伸びてるの分からないし」
「それ関係ある?」
会場が笑いに包まれる。
悪魔のベルゼブブが提案する。
「来年は新しい企画もやってみない?不死者向けの婚活パーティーとか」
「それいいね!」と狼女の山田さんが食いつく。
「でも天使と悪魔が付き合ったらどうなるの?」
「Romeo and Julietならぬ、Angel and Devilか」
「禁断の恋だね」
☆ エピローグ 夜明け前の帰路
会合が終わり、皆それぞれの住処に帰っていく。
「お疲れさまでした」
「また来年」
「今度一緒に飲みましょう」
「LINE交換しましょう」
不死者たちの別れの挨拶は、どこか人間臭い。
俺も会場を後にし、夜明け前の東京の街を歩く。
今日は血を吸わなかった。でも満腹感がある。
そうか、俺たちが本当に飢えていたのは血ではなく、繋がりだったのかもしれない。
スマートフォンに新しいLINEグループの通知が来た。「ノスフェラトゥ組合関東支部」。
狼女の山田さんが早速スタンプを送っている。可愛い狼のスタンプだ。
俺も血を滴らせたスタンプで返事をする。
夜明けまであと1時間。今日も良い夜だった。
明日からまた血を吸う日々が始まるが、今度は少し違うかもしれない。
マンネリ化した日常に、新しい彩りが加わった気がする。
不死者だって、仲間が必要なのだ。
プロンプト
「『ノスフェラトゥ組合』。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと予定をスマートフォンで確認する。「しまった!今日はノスフェラトゥ組合の関東支部の会合の日だ」。それは不死の者たちが集まる10年ごとに行われる会合。我々、不死の者は横の繋がりを大切にするさみしがり屋が多い。私は急いで会合場所に向かう。都内のタワーマンションの地下。秘密のコードを入力する行ける場所。そこには古今東西の不死のものたちが集っていた。狼男、悪魔、妖怪、天使。悪魔と天使は敵対するかと思いきや上司の愚痴で盛り上がったり、狼女は吸血鬼とSNSを交換したりしていた。みななぜか人間臭い良い奴らである。「今日は無礼講だ!」。みなの近況をプレゼンしたり、新しい組合員を紹介したり、ここ数年の暇の潰し方など。みな楽しんでいた。このプロットを元にシニカルコメディ短編小説を書きましょう。」




