『吸血鬼に襲われたらモンキーターン!』
☆ 第一章 夜の尼崎
午前二時の尼崎市。街灯がぽつりぽつりと灯る住宅街を、俺は必死に走っていた。
「キキキキ……追いかけっこは楽しいですね」
背後から聞こえる不気味な笑い声。振り返ると、真っ白な肌にマントを翻した男が、まるで地面を滑るように俺を追いかけてくる。
吸血鬼だ。
「なんで俺が……」
ことの発端は単純だった。コンビニで夜食を買って帰る途中、この化け物に遭遇したのだ。そして奴はにやりと笑ってこう言った。
「久しぶりに人間と遊びましょう。朝まで逃げ切れたら見逃してあげます」
☆ 第二章 絶体絶命
「ハァハァ……クソッ!」
住宅街を抜け、商店街を駆け抜け、俺は必死に頭を回転させていた。吸血鬼の弱点——日光、十字架、流水、ニンニク……
「朝まであと四時間。でも、こいつから逃げ切れる保証なんてない」
そのとき、目に入った看板。
『尼崎競艇場』
「そうだ!流水!」
競艇場なら水がある。大量の水がある。そして夜中でも警備員がいるはずだ。
☆ 第三章 水上の攻防
「ここまでくれば、追ってこないだろう」
警備員を適当にごまかして場内に侵入し、係留されているボートに飛び乗った俺。安堵の息をついた瞬間——
「競艇とは考えましたね」
隣のボートに、いつの間にかマントの男が座っていた。
「なっ!?流水は苦手じゃないのかよ!」
「確かに嫌いですが、ボートに乗れば濡れませんからね」
☆ 第四章 実況開始
俺は慌ててエンジンをかけた。ボートが勢いよく水面を滑り始める。
「逃がしませんよ!」
吸血鬼も負けじとエンジンを始動。二艇のボートが夜の競艇場を駆け抜ける。
そのとき、突然スピーカーから声が響いた。
「え〜、なんと夜中に緊急レースが開催されております!3号艇、人間の田中選手!対する4号艇は……え〜と、吸血鬼のドラキュラ選手!」
「誰だよ実況してるの!?」
振り返ると、実況席に眠そうな顔をしたアナウンサーが座っていた。そして観客席には、なぜかパジャマ姿のギャンブラーたちがぞろぞろと集まってきている。
「おい、3号艇100円!」
「4号艇の吸血鬼、なんかつえーぞ!」
「バカ野郎!人間を応援しろよ!」
☆ 第五章 白熱のデッドヒート
「田中選手、必死に逃げております!しかしドラキュラ選手、さすがは超人的な反射神経!徐々に差を詰めてきます!」
「うるせぇ!実況すんな!」
第一ターンマーク。俺は思い切って内側に切り込んだ。
「おおっと!田中選手、インコースに突っ込みました!これは危険な賭けです!」
ザブーン!
派手に水しぶきを上げながら、俺のボートがターンマークを回る。後ろの吸血鬼は外に膨らんでしまった。
「やった!」
「田中選手、見事なターン!これで一気に差を広げます!観客席も大盛り上がり!」
「3号艇いけーっ!」
「頑張れ人間!」
なぜか観客席から声援が飛んでくる。パジャマ姿のおっさんたちが拳を振り上げていた。
☆ 第六章 最終決戦
「しかし!ドラキュラ選手も黙っていません!第二ターンマーク、見事に差を詰めてきました!」
クソッ、まだ午前三時だ。朝まで一時間以上ある。
「キキキ……なかなか面白い」
吸血鬼が隣に並んできた。その瞬間、奴の手が伸びてくる。
「うわあああ!」
俺は咄嗟にボートを急転回させた。
「おおおおお!田中選手、急角度ターン!まさにモンキーターン!これぞ競艇の華です!」
「モンキーターンって何だよ!」
しかし、この無茶な動きが功を奏した。吸血鬼のボートとの距離が一気に開く。
☆ 第七章 夜明け
「現在時刻午前五時三十分!夜も明け始めました!そして田中選手、まだ逃げ切っております!」
東の空がうっすらと明るくなってきた。俺は最後の力を振り絞ってボートを走らせる。
「うぐ……日が……」
後ろの吸血鬼が苦しそうに声を上げた。
「おや!ドラキュラ選手に異変が!やはり日光は苦手のようです!」
「そして〜!太陽が昇りました〜!田中選手の勝利〜!」
ドカーン!
朝日と共に、派手に花火が打ち上がった。観客席からは拍手喝采。
「うぉぉぉぉ!3号艇勝ったぁぁぁ!」
「人間万歳!」
☆ エピローグ
「参りました……約束通り見逃しましょう」
吸血鬼は苦笑いを浮かべながら、朝霧の中に消えていった。
俺は力尽きてボートにへたり込む。すると、実況席からアナウンサーが降りてきた。
「いや〜、素晴らしいレースでした!明日の夜もやりませんか?」
「二度とやるか!」
こうして、俺の人生で最も奇妙な夜が終わった。
後日、尼崎競艇場では『深夜の特別レース』として、この出来事が語り継がれることになった。もちろん、吸血鬼の部分は都市伝説として。
そして俺は、二度と夜中にコンビニには行かないと心に誓ったのだった。
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*「モンキーターンは競艇界の華!次回もお楽しみに!」*
*(尼崎競艇場・深夜実況より)*
プロンプト
「『吸血鬼に襲われたらモンキーターン!』。場所は兵庫県尼崎市、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は俺に対して鬼ごっこを提案する。俺は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。俺は尼崎市内を必死に駆ける。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そう競艇場だ。競艇上でボートに乗る俺。「ここまでくれば、追ってこないだろう」。吸血鬼は流れる水を苦手とする。しかし、「競艇とは考えましたね」。隣にはボートに乗った吸血鬼。俺はボートを発進させる。気が付くと実況が解説がはじまり、ギャンブラーが集まっていた。このプロットを元に実況解説が熱い!シリアスコメディ短編小説を書きましょう。」