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『ウノ・ゼロ』~ゴール前に鍵を架けろ!!!~

 

 夜のトスカーナの田舎道を走る私の足音だけが、静寂を破っていた。


「クソッ、なんでこんな時に車が故障するんだ」


 ルッカからフィレンツェへ向かう途中、愛車のフィアットは突然エンジンを吹かした。修理工場まで歩いて助けを求めるしかなかった。地図アプリによれば、最寄りの村まであと3キロ。こんな真夜中に。


 月明かりだけが頼りの道を進んでいると、突然背後から声がした。


「ブオナセーラ、お困りのようですね」


 振り返ると、そこには一人の男が立っていた。長身で青白い顔、完璧に整えられた黒髪に、時代錯誤なアップターンカラーのシャツ。何より異様だったのは、その目。月明かりに反射して赤く光っていた。


「あなたは...」言葉に詰まる私。


「失礼、自己紹介が遅れました。コンテ・ドラクローネと申します」彼は優雅に一礼した。「あなたのような...美味しそうな方が、こんな夜更けに一人で歩いているのは危険ですよ」


 その瞬間、彼の唇が開き、鋭い牙が月明かりに煌めいた。


「吸血鬼!?」私は思わず叫んだ。


「なんと直接的な!」コンテ・ドラクローネは口元を手で覆い、貴族のように優雅に笑った。「イタリアでは『ヴァンピーロ』と呼んでください。ところで、あなたの血を頂く前に少し...退屈しのぎをしませんか?」


「退屈しのぎ?」


「そう、ゲームです。私は長い人生で様々な遊びを楽しんできました。今夜は...」彼は腕時計を見た。「夜明けまであと5時間。あなたが夜明けまで逃げ切れば、私はあなたを解放します。でも捕まえたら...」


 彼は再び牙を見せた。メッセージは明確だった。


 ***


 逃げ出した私は必死に考えた。吸血鬼の弱点といえば...十字架?ニンニク?銀の弾丸?そんなものどこにある?日の出まで逃げ切るのが最善だが、この男...いや、この怪物の俊敏さを考えると、5時間も逃げ切れるとは思えない。


 暗闇の中、丘の上に灯りが見えた。近づくと、それはサッカー場だった。夜間練習をしている地元のチームがいる。


 そして閃いた。


 サッカー場。フルピッチ。そこには十字架の形がある。ゴールポストだ!


「なあ、ちょっと頼みがある」私は練習中のチームのキャプテンらしき男に声をかけた。「信じられないかもしれないが、俺、吸血鬼に追われてるんだ」


 予想通り、彼らは笑った。しかし、私が必死に説明し続けると、キャプテンのマルコは不思議そうな顔で言った。


「冗談でも何でもいい。お前が本当に困ってるなら、俺たちは助ける。それに...」彼は意味深な笑みを浮かべた。「面白そうじゃないか」


 計画を立てる時間はほとんどなかった。私は急いでチームメイトたちにルールを説明した。


「俺たちは11人。吸血鬼は1人。サッカーのルールに従って、ゴールを死守する。奴が得点したら俺の負け...俺の命が奪われる。でも夜明けまで守りきれれば勝ち」


「それで、その吸血鬼というのは、どんな...」


 マルコの言葉が途切れた。フィールドの端に、月光に照らされたコンテ・ドラクローネの姿があった。


「面白い提案ですね」彼の声は風のように場内に響いた。「私も昔は名プレイヤーでしたよ。1872年のイングランド対スコットランドの初の国際試合を観戦したほどです」


 全員が固まる中、マルコが前に出た。


「ルールは単純だ。PK戦。お前が1点取ったら、こいつの命はお前のもの。でも夜明けまでに得点できなければ、こいつは自由だ」


「PKですか...」コンテ・ドラクローネは面白そうに笑った。「構いませんよ。ただし、私が1点取ったらゲーム終了。彼は私のものです」


 ***


 ゴールキーパーのジャンルイジは、チーム一の剛腕だった。彼が私に囁いた。


「吸血鬼ってのがホンモノなら、奴の反射神経は人間じゃないぞ。だが...」彼はニンンクの首飾りを首にかけた。「俺の爺ちゃんから受け継いだんだ。効くといいけどな」


 笛が鳴り、最初のキッカーはコンテ・ドラクローネ。


 彼の蹴ったボールは音速のように飛んだ。人間離れした速さだったが、奇跡的にジャンルイジの指先に触れ、クロスバーを直撃して跳ね返った。


「うおおおお!」チームメイトたちが雄叫びを上げる。


「運が良かったですね」コンテ・ドラクローネは微笑んだが、その目は怒りに燃えていた。


 次は私の番。足が震える。


「落ち着け」マルコが私の肩を叩いた。「奴の弱点を考えろ。吸血鬼は自分の影を見ることができない。だから予測もできない」


 そうか!私はボールを置き、助走を始めた。蹴る直前、地面ではなく月を見上げ、影の動きだけでボールを蹴った。


 ゴール!コンテ・ドラクローネは逆方向に飛んでいた。


「1-0だ!」マルコが叫んだ。「あとは夜明けまで守るだけだ!」


 しかし、吸血鬼は簡単に諦めなかった。


「面白い。では次のラウンドへ」


「いや、PKは1人1回だ」マルコが言った。「これからは守りの時間だ」


 コンテ・ドラクローネは不満そうな顔をしたが、すぐに微笑んだ。


「わかりました。では...」彼は突然消えた。次の瞬間、ボールを持ってフィールドの真ん中に立っていた。「通常のプレーで行きましょう。私一人対あなたたち全員です」


 ***


 それからの4時間は、まさに悪夢だった。


 コンテ・ドラクローネの動きは超人的だった。彼は時に霧のように姿を消し、時に蝙蝠のように舞い、10人をかわして次々とシュートを放った。


 しかし、チームは必死に守った。ジャンルイジは神がかり的なセーブを連発。守備陣は文字通り命懸けでブロックし、中盤の選手たちは走力の限界を超えてボールを追いかけた。


「あと30分だ!」マルコが叫んだ。「夜明けまでもう少し!」


 私たちは全員がゴール前に集結し、人間の壁を作った。十字を切る者、ニンニクを振りかざす者、祈りを唱える者。あらゆる手段を使ってゴールを守った。


 そして最後の瞬間、コンテ・ドラクローネが放ったスーパーシュートをジャンルイジがファインセーブ。ボールはクロスバーを直撃し、どこかへ消えていった。


 その時、東の空が少しずつ明るくなり始めた。


「ノーーーー!」コンテ・ドラクローネの悲痛な叫び声が響く。彼の体から煙が立ち上り始めた。


「終わりだ、コンテ」私は言った。「ウノ・ゼロ。俺たちの勝ちだ」


 彼は苦しそうに微笑んだ。


「見事です。数百年も生きていますが、こんなに楽しいゲームは久しぶりでした」彼は優雅に一礼した。「約束通り、あなたの命は自由です。ですが...」


 彼は煙に包まれながら最後の言葉を残した。


「次回の再戦を楽しみにしています。その時は...アウェイゲームになりますよ」


 そして彼は完全に消えた。残されたのは、燃え尽きた高級革靴だけだった。


 ***


「信じられねえ...」マルコが呟いた。「俺たち、本物の吸血鬼相手にサッカーで勝ったのか?」


「それも1-0でな」ジャンルイジが笑った。


 私は解放感と疲労で倒れ込みそうになりながら、チームメイトたちと抱き合った。


「なあ、お前」マルコが私に声をかけた。「うちのチーム、ストライカーが足りないんだ。興味ないか?」


 空は完全に明るくなり、新しい朝が始まっていた。吸血鬼との死のゲームは終わり、私の新しいサッカー人生は、ここから始まるのかもしれない。


 アウェイゲーム?次はないさ。少なくとも私がボールを蹴れる限りは。


「ウノ・ゼロ」私は空を見上げて呟いた。「最高のスコアだ」

プロンプト

「『ウノ・ゼロ』~ゴール前に鍵を架けろ!!!場所はイタリア、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あれしかない。そうフットボールだ。フットボール仲間とともにゴール前を守る。オチ、PKで取った1点を守り勝つ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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