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『アブソリュート・ゼロ』~絶対零度に閉じ込めろ!!!~


 夜遅く、研究所の廊下を急ぐ足音が静寂を切り裂いた。


「なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」


 日本からの交換研究員として来ていた私、佐藤拓也(28歳)は、アメリカ・マサチューセッツ州の最先端物理学研究所で異常事態に直面していた。追いかけてくるのは間違いなく吸血鬼だ。長い黒髪、青白い顔、そして鋭い牙。アメリカに来て3ヶ月、やっと研究に慣れてきた矢先のことだった。


「待ちなさい、ジャパニーズ・ボーイ!」


 背後から聞こえる甘い声に、私は振り返りもせず全力で走り続けた。なぜかこの吸血鬼は完璧な日本語を話す。


「鬼ごっこしましょ?朝日が昇るまでに捕まえられなかったら、あなたの勝ち。自由にしてあげるわ」


 走りながら頭の中で必死に考える。吸血鬼の弱点は何だ?十字架?にんにく?聖水?そんなものは今持ち合わせていない。そもそも映画の設定が本当かどうかも怪しい。確実なのは太陽の光だけ。


「逃げ切れるわけないだろ!」叫びながら、私は研究棟の奥へと進んだ。


 私が所属するのは極低温物理学研究チーム。そこには人類の技術の粋を集めた装置がある。絶対零度(マイナス273.15度)に限りなく近い環境を作り出せる超伝導実験装置だ。


「そうだ!」


 閃いた。吸血鬼は不死だと言われているが、それは普通の環境下での話だ。絶対零度近くまで冷やしたら、分子運動がほぼ停止する。吸血鬼だって例外ではないはずだ。


「フフフ、考えてる時間があるなら走った方がいいわよ」


 追ってくる吸血鬼の声が妙に楽しげだ。まるで本当に鬼ごっこを楽しんでいるみたいだ。


 実験室に飛び込み、私は慌てて超伝導冷凍装置の設定を始めた。普段は慎重に時間をかけて温度を下げるところだが、今日は一気に冷やすしかない。


「いい匂い♡ どこにいるのかしら?」


 ドアが開き、優雅に吸血鬼が入ってきた。驚くほど美しい女性の姿をしている。


「ここにいるよ!ちょっと待って!話がある!」


 私は冷凍装置のコンソールから顔を上げた。時間稼ぎするしかない。


「何かしら?最後の願い?」彼女は艶やかに微笑んだ。


「どうして僕を追いかけてるの?他にも人はいるでしょ」


「あなたが特別だからよ。日本人の血は珍しいもの。しかも科学者…知性のある血は格別なのよ」


「そう...光栄だけど、お断りしたい」


 この間にも装置の温度は急速に下がっていく。マイナス100度...マイナス150度...


「無駄よ。朝まであと4時間。あなたはどこにも逃げられない」


 吸血鬼は一歩ずつ近づいてくる。私はゆっくりと後ずさりしながら、冷凍チャンバーの方へと移動した。


「それなら、せめてもう少し鬼ごっこを楽しもうよ。僕の研究、見てみない?」


「研究?」彼女は首を傾げた。「面白そうね」


「こっちだよ」


 私は冷凍チャンバーのドアを開けた。中は既にマイナス200度近くまで冷えている。


「ほら、中に何があるか見てみて」


 吸血鬼は好奇心からチャンバーの中を覗き込んだ。その瞬間、私は彼女を思いっきり押し込み、ドアを閉めた!


「何をするの!?」悲鳴が聞こえる。


「悪いね、でも生きたいんだ」


 チャンバーの温度表示はマイナス250度...マイナス260度...そしてついにマイナス273度付近で安定した。


 ガラス窓から中を覗くと、吸血鬼は完全に動きを止めていた。まるで美しい氷の彫刻のように。


「やった...」


 膝から崩れ落ちる私。しかし安心したのもつかの間、チャンバーのガラスに細かいヒビが入り始めた。


「まさか...」


「冷たいわね...」


 かすかな声がした。まだ意識があるのか!?


「でも、悪くないわ。こんな経験、300年生きてきて初めてよ」


 チャンバーのガラスがさらにヒビが広がる。このままではガラスが割れて吸血鬼が出てくる!


 パニックになりかけた時、研究室のドアが開いた。


「拓也くん?まだいたの?」


 先輩研究者のジョンが驚いた顔で立っていた。


「ジョン!助けて!中に吸血鬼が...」


 ジョンは呆れた顔で私を見た。「また徹夜で幻覚見てるの?ほら、朝ごはん持ってきたよ」


 彼が手に持っていたのはにんにくたっぷりのサンドイッチ。窓の外を見ると、既に朝日が昇り始めていた。


 チャンバーを見ると、中には何もない。氷の破片さえも消えていた。


「え...?」


 混乱する私にジョンは言った。「徹夜は体に悪いって言ったでしょ?特にこの古い研究所は幽霊が出るって噂もあるしね」


「幽霊じゃなくて吸血鬼...」


 ジョンは笑いながら言った。「とにかく、装置の調子を見て。なんで絶対零度近くまで冷やしてるんだい?実験予定なんてなかったはずだよ」


 確かに装置の温度計はマイナス273度を示している。夢じゃなかった?


 私がぼうっとしていると、携帯に知らない番号からメッセージが届いた。


『楽しい鬼ごっこをありがとう。あなたの勝ちよ。でも次はないと思わないことね♡ そして...絶対零度、確かに効くけど、私を倒すには足りないわ。また会いましょう、拓也くん』


 メッセージを読み終えた瞬間、画面から文字が消えた。


 ジョンのサンドイッチからにんにくの強い匂いがした。今日からしばらく、これを常備しておこう。そして、いつか再会する日のために、もっと低い温度を作り出す研究にも本気で取り組まなければ。


 絶対零度よりも冷たい世界。それが可能なのかどうかはわからない。でも、科学者として、そして生き延びるために、私はその不可能に挑戦することにした。


 その夜から、私の研究テーマは「スーパーアブソリュート・ゼロ」となった。

プロンプト

「『アブソリュート・ゼロ』~絶対零度に閉じ込めろ!!!~。場所はアメリカ、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そう絶対零度だ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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