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『逃げ込まれたら、出る迄待とう、吸血鬼』

 

 銀座の夜景が瞬く中、私は高層ビルの屋上に佇んでいた。かつての江戸城を見下ろす場所で、今宵も獲物を探している。


 私の名はブラド徳川。東の吸血鬼と呼ばれ、三百年以上この東京の地を支配してきた。西洋の吸血鬼が日本に渡り、徳川家に入り込んだのは江戸時代中期のこと。それ以来、影の支配者として君臨してきた。


 しかし最近、単調さに飽き飽きしていた。生き血を吸うという行為自体は変わらないが、その過程があまりにも予測可能になってしまった。獲物に近づき、魅了し、首筋に牙を立てる。そして満足するまで血を啜る。


「もっと...刺激が欲しい」


 ふと、ある考えが浮かんだ。幼き頃の人間たちが楽しんでいた「鬼ごっこ」。追いかけ、逃げ惑う姿。恐怖に歪む表情。そして最後の瞬間の絶望。


 そう、これだ。


 私は今夜の獲物を定めた。長身で凛とした佇まいの女性。黒のスーツに身を包み、夜の街を歩いている。昼間はおそらくキャリアウーマンなのだろう。


「お嬢さん」


 私は彼女の前に現れた。完璧な日本語で話しかける。


「私と鬼ごっこはどうかな?逃げれば命は助けよう。捕まえれば...」


 私は唇の端を上げ、鋭い牙を見せた。


 彼女の瞳が見開かれ、恐怖が走る。素晴らしい反応だ。次の瞬間、彼女は振り向いて全力で走り出した。


「良いぞ、走れ、走れ!」


 私は笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩き始めた。全力疾走する人間でも、私にとっては緩歩でしかない。しかし今夜は楽しみたい。ゆっくりと恐怖を味わわせたい。


 彼女が曲がった角を曲がると、そこには賑やかな焼き肉店があった。「肉匠 龍華」と書かれた看板が輝いている。彼女はためらうことなく店内に飛び込んだ。


「なるほど...」


 私は店の前で立ち止まった。焼き肉の煙と共に、忌まわしいニンニクの匂いが漂ってくる。店内を覗くと、テーブルには銀の箸置きや小物が置かれ、壁には何故か木の杭が装飾として飾られている。まるで吸血鬼対策の要塞だ。


「ここは...不用心だな」


 私は店の向かいにあるベンチに腰掛けた。彼女は賢い。しかし人間には限界がある。いずれ店を出なければならない。


「焼き肉店に何時間いられるというのだ?待つとしよう」


 私は月を見上げた。時間は十分にある。永遠の時間を持つ者にとって、数時間の待機など何でもない。


 ***


 店内、恵理子は息を切らしていた。


「大丈夫ですか?」


 店員が心配そうに声をかける。


「は、はい...ちょっと、追いかけられていて...」


「追いかけられて?」


「変な人に...」


 店員は窓の外を見た。


「あ、あの人ですか?ずっとこちらを見ていますね...」


 恵理子は青ざめた顔で頷いた。


「とりあえず、お一人様用のテーブルへどうぞ。何か注文されますか?」


「と、とりあえずお水と...ニンニク料理...何かありますか?」


「ニンニク料理ですか?そうですね、ニンニクホイル焼きがオススメです」


「それをお願いします。あと...すみません、裏口ってありますか?」


 店員は少し怪訝な顔をしたが、「はい、ありますが...」


「実は...」恵理子は声を潜めた。


「元彼氏で...ストーカー気質で...」


「あぁ...」


 店員は理解したように頷いた。


「わかりました。お食事の後、ご案内しますね」


 ***


 時間が過ぎていく。一時間、二時間...


 私は辛抱強く待ち続けた。店内の客は徐々に減っていくが、彼女の姿はまだ見える。少なくともそう思っていた。長い黒髪の女性が窓際に座っている。彼女だ。


「粘るな...」


 私は感心した。しかし、これもまた楽しみの一部。待つことで、最後の瞬間はより甘美になる。


 夜も更け、店の閉店時間が近づいていた。最後の客たちが店を出ていく。そして...


「おや?」


 窓際に座っていた女性が立ち上がった。どうやら店員と話している。そして...別の女性だった。彼女ではない。


「何だと?」


 私は混乱した。店内を見渡すが、彼女の姿はない。


「まさか...」


 裏口。そんなものがあるとは思いもしなかった。


 ***


 恵理子は裏路地を抜け、大通りに出た。そこからタクシーを拾い、安全な場所へと向かった。


「危ないところだった...」


 彼女はスマートフォンを取り出し、メッセージを送った。


「今晩の異常者、撃退完了。明日の会議で報告します」


 画面には「東京超常現象対策課」という文字が浮かび上がっていた。


 ***


 私はまだ店の前で待っていた。ふと、所持していた古い懐中時計を取り出す。


「もう四時間か...」


 突然、ある可能性に気づいた。私は店内に向かって声を上げた。


「店員!あの女性はどこだ?」


 若い店員が恐る恐る外に出てきた。


「あ、あの...もうお帰りになりましたよ」


「何だと?いつだ?」


「二時間くらい前ですかね...裏口から...」


 私の表情が凍りついた。「裏口...だと?」


 店員は小さく頷いた。


 私はその場に崩れ落ちそうになった。三百年の人生で、こんな愚かな失態は初めてだ。


「私を出し抜くとは...」


 怒りではなく、どこか感心の念が湧き上がる。そして次第に...笑みが浮かんだ。


「面白い...非常に面白い!」


 私は大声で笑い出した。東京の夜空に、吸血鬼の笑い声が響き渡る。


「良いだろう。今夜は君の勝ちだ。だが次は...必ず捕まえてみせる」


 私は夜空に飛び立った。新たな獲物を追う喜びを再び見出した夜だった。


 しかし、私は知らなかった。彼女が単なる獲物ではなく、私たち超常存在を研究する特殊機関の一員だということを。


 そして新たな「鬼ごっこ」が、始まろうとしていた。

プロンプト

「『逃げ込まれたら、出る迄待とう、吸血鬼』。場所は東京。私はブラド徳川。吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。私は長身の女を見つけて声をかける。「お嬢さん、私と鬼ごっこはどうかな?」。女はダッシュで逃げた。逃げた先は…焼き肉屋。ニンニク。木の杭。銀の食器。「人が多すぎて、うかつに入れないな。それに私の弱点が多い。ここは待とうではないか。何時間もいれるはずない」。オチ、ブラドは知らなかった。数時間前、女がこっそり裏口から逃げているということに。「元彼氏がいて気まずいから裏から出たい」。そんなこととはつゆ知らず、ブラドは待つ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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