『四ッ谷ヴァンパイア』~怪談ナイトで集まった怪談師たち~
その日、サブスク番組『シン四ッ谷怪談』の収録スタジオに集まった私たち怪談師は、それぞれ百話の怪談を携えていた。「怪談の交配実験」とでも呼ぶべき企画だ。
私、井ノ川洋子、通称「イノカワ」は、都内で活躍する新鋭の怪談師。この業界では顔が広いつもりだが、その日、見知らぬ男がいた。
「中村です」
短く自己紹介した彼は、どこか場違いな雰囲気を漂わせていた。スーツにネクタイ。仕事帰りなのか、怪談師というより保険営業マンのようだ。
順番に怪談を披露するうち、ついに中村の番になった。
「これは私が夜歩いていた時の話です」
彼は淡々と語り始めた。
「振り向くと、吸血鬼が立っていました」
スタジオに笑いが漏れる。吸血鬼? まるで子供の作り話だ。
「吸血鬼は私に向かって『血を分けてくれないか』と言いました」
さらに笑いが広がる。ベテラン怪談師の江頭さんが「オイオイ」と頭を抱えた。
「でも私は断りました。すると吸血鬼は『それなら他を当たるよ』と去っていきました」
完全にギャグだ。収録の雰囲気は崩れかけていた。
「翌日、私の同僚が貧血で倒れました。彼女の首には小さな傷が二つ。医者は虫刺されと言いましたが…」
中村は一瞬黙り、急に真顔になった。
「実はその吸血鬼、今もこの部屋にいます」
笑いが止んだ。
「なぜなら」
中村はゆっくりと立ち上がった。
「私がその吸血鬼だからです」
突然、スタジオの電気が消えた。悲鳴が上がる。数秒後、灯りがつくと中村の姿はなく、ディレクターが床に倒れていた。
首筋に小さな穴が二つ。
翌日のワイドショーは四ッ谷で起きた奇妙な事件を報じた。吸血鬼を名乗る男の行方は分からず、番組は放送中止になった。
ただ一つ確かなのは、録画された中村の姿が、カメラには映っていなかったということ。
そして私の首筋にも、今朝から何かに刺されたような、痒みを感じ始めている。
プロンプト
「『四ッ谷ヴァンパイア』~怪談ナイトで集まった怪談師たち~。場所は東京。私は井ノ川洋子。怪談師「イノカワ」として活動している。今日はサブスク系の番組『シン四ッ谷怪談』の収録で集まった。それぞれの怪談を100話持ち寄って新しい怪談を作ろうという企画だ。それぞれが怪談を話す中、見慣れない男がいた。「これは私が夜歩いていた時の話です。振り向くと、吸血鬼が…」。そんなバカな。このプロットを元にシリアスホラーコメディ短編小説を1000文字以内で書きましょう。途中途中コミカルな雰囲気がありますが、最後にゾクッとする終わり方でお願いします。」