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『量産型ノスフェラト』

 

 東京の夜はいつも美しい。


 無数の光が織りなす幻想的な光景を、高層ビルの屋上から眺めるのが私の日課だった。ブラッド・マウンテン、三百年以上この世を彷徨う吸血鬼、夜の帝王である私の小さな楽しみだ。


 今宵も街は活気に満ちていた。人間たちは、自分たちの血が如何に甘美であるかを知らずに、夜の街を闊歩している。哀れなものだ。だが、それゆえに愛おしい。


「ふぅ」


 私は溜息をついた。ここ数十年、この「狩り」が少々マンネリ化してきたことを否定できない。ただ血を吸うだけではつまらない。もう少し…エンターテインメント性が欲しい。


 そのとき、閃いた。


「そうだ、鬼ごっこをしよう」


 人間に逃げる時間を与え、追いかける。恐怖に染まった表情、絶望に震える体、そして最後の瞬間の諦めの色…想像するだけで唾液が滴る。


 新宿の裏路地に降り立った私は、すぐに標的を見つけた。長身の女性、おそらく三十代前半だろう。彼女は一人で歩いていた。完璧だ。


「お嬢さん」


 彼女は振り返った。少し酔っているようだが、知性的な目をしている。


「私と鬼ごっこ…」


 その言葉を口にした瞬間だった。後ろから異様な気配を感じ、私は即座に振り返った。


 そこには、一人の男が立っていた。人間ではない。同族だ。だが、何か違和感がある。


「お前、天然ものではないな」


 私の言葉に、男はニヤリと笑った。完璧すぎる白い歯。あまりにも均一な肌の色。そして何より、その目に宿る魂の欠如。


「よくわかったな。俺は世界的な企業『ブラド・ノスフェル』が秘密裏に生み出した量産型ヴァンパイア。性能試験とエネルギー補給もかねて、夜な夜な人間たちを襲っている。それを知ったお前を生かしておくわけにはいかない」


 説明口調で分かりやすい。さすが大企業が作った吸血鬼。偏差値が高そうな喋り方だ。だが、「秘密裏に」というわりに簡単にそれを明かしていいものなのか。たぶんマニュアルがあるのだろう。


「量産型…ヴァンパイア?」


 私は笑いをこらえきれなかった。


「笑い事じゃない」


 彼は真面目な顔で言った。


「我々は旧式のお前たちよりはるかに効率的だ。血液摂取効率は150%向上、日光耐性は従来比で3倍、そして何より再生能力は…」


「うるさい」


 私は一瞬で彼の前に立ち、首を掴んでいた。


「オリジナルが負けるわけがないだろ」


 彼の驚いた顔を見る暇もなく、私は彼を路地の壁に叩きつけた。コンクリートが砕け、彼の体が埋まる。


「なんて…速さ…」


 彼は血を吐きながら呟いた。


「当たり前だろう。本物と偽物の差だ」


 私が彼に止めを刺そうとしたその時、物陰から何かが現れた。一体、二体…いや、十体はいる。全て同じ顔をした量産型ヴァンパイアだった。


「一匹いれば十匹いると思え」


 壁に埋まった量産型が薄ら笑いを浮かべる。まるでゴキブリだ。


「面白い。本物の吸血鬼の力、見せてもらおうか」


 彼らは一斉に襲いかかってきた。私は軽くため息をついた。


「本来なら他の吸血鬼と争うつもりはないのだがな…」


 一体、二体と量産型たちを蹴散らしていく。しかし、彼らの言う通り再生能力は確かに高い。私が倒しても次々と立ち上がってくる。そして、新たな量産型がどこからともなく現れる。


「これは厄介だな…」


 一時的に彼らを撃退し、私は考えた。根本的な解決策が必要だ。量産型の製造元、「ブラド・ノスフェル」を叩かねばならない。


 情報を集めるのに時間はかからなかった。三百年生きていると、それなりのコネクションがある。ブラド・ノスフェルは表向きはバイオテクノロジー企業。だが、地下に秘密施設を持ち、そこで量産型ヴァンパイアを製造しているらしい。


「ふん、どこの悪の組織だよ」


 私は呟きながら、彼らの本社ビルに向かっていた。


 高層ビルの最上階には社長室があった。ドアを蹴破り入ると、そこには一人の老人が座っていた。


「やはり来たか、本物の吸血鬼よ」


 老人は静かに言った。


「あなたの名はブラッド・マウンテン。欧州最古の吸血鬼の一人。我々はあなたのDNAを手に入れたくてたまらなかった」


「DNAだと? そのために量産型を街に放ったのか?」


「その通り。彼らの使命は二つ。一つは、あなたを見つけ出すこと。もう一つは、あなたの能力を引き出させ、その戦闘データを収集すること」


「なんて知能的な罠だ。だが残念、お前らの玩具は私には敵わない」


 老人は笑った。


「もちろんです。だからこそ、あなたのDNAが欲しいのです。完璧な量産型を作るために」


 部屋の隅から、十体以上の量産型が現れた。しかし、彼らは攻撃してこない。ただ、私を取り囲むだけだ。


「今度は攻撃しないのか?」


「彼らはあなたを捕獲するためだけに設計されています。先ほどまでの戦闘データ分析により、あなたの動きパターンは全て把握済みです」


 老人が小さなリモコンのボタンを押した瞬間、天井から何かが降ってきた。網だ。だが、ただの網ではない。触れた瞬間、全身に電流が走った。


「特殊な素材でできています。吸血鬼の力を封じる効果があります」


 私は膝をつき、うめいた。まさか、こんな罠に…。


「取り押さえろ」


 老人の命令に、量産型たちが近づいてきた。


 しかし、私はニヤリと笑った。


「本当に私のことを理解したつもりか?」


 私は立ち上がり、網を引きちぎった。老人は驚愕の表情を浮かべる。


「バ、馬鹿な! あの網は…」


「確かに痛かったよ。だがな、本物の吸血鬼をそんなもので捕らえられると思ったか?」


 私は一瞬で老人の前に立ち、彼の襟首を掴んだ。


「さて、お前たちの量産工場はどこだ?」


 老人は恐怖に震えながら答えた。


「地下…地下10階です…」


「ありがとう。それと、一つ忠告だ」


 私は老人の耳元で囁いた。


「次から秘密裏に何かやるなら、部下にはしゃべらないように言っておけ。あいつら、すぐにベラベラ喋るからな」


 老人を気絶させ、私は地下へと向かった。量産型たちは私の前に立ちはだかるが、もはや彼らのパターンは読めている。一体、また一体と倒していく。


 地下10階に到着すると、そこには巨大な製造工場があった。まるでSF映画のセットのような光景。無数のカプセルに、まだ完成していない量産型が浮かんでいる。


「これが全てか…」


 私は制御室を見つけ、全てのシステムをシャットダウンした。カプセルから液体が抜け、未完成の量産型たちが崩れ落ちる。


「これで終わりだ」


 私は満足げに呟いた。だが、そのとき、アラームが鳴り響いた。


「自己破壊システム起動。60秒後に施設は爆発します」


「ちっ、映画の見すぎだろ、あの老人」


 私は急いで施設から脱出した。建物を離れたところで振り返ると、轟音とともに地面が揺れ、ブラド・ノスフェルの本社ビルが崩れ落ちていった。


「派手な幕引きだな」


 夜明け前、私はいつものビルの屋上に立っていた。東京の夜景を眺めながら、今夜の出来事を思い返す。


「量産型ヴァンパイア、か…」


 人間たちは常に新しいものを生み出そうとする。時にそれは恐ろしいものになる。だが、本物には敵わない。それが自然の摂理だ。


「まあ、久しぶりに楽しい夜だった」


 私は満足げに笑った。明日はいつもの「狩り」に戻ろう。だが今度は、少し趣向を変えて…「鬼ごっこ」を試してみようか。


 そう考えながら、私は朝日が昇る前に、闇の中へと消えていった。


「本物の吸血鬼は、そう簡単には滅びないさ」

プロンプト

「『量産型ノスフェラト』。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。私は長身の女を見つけて声をかける。「お嬢さん、私と鬼ごっこ…」。そのときだった。後ろから気配を感じて振り返ると、吸血鬼がいた。同族だ。しかし、違和感を感じる。「お前、天然ものではないな」。そいつはニヤッとした。「よくわかったな。俺は世界的な企業『ブラド・ノスフェル』が秘密裏に生み出した量産型ヴァンパイア。性能試験とエネルギー補給もかねて、夜な夜な人間たちを襲っている。それを知ったお前を生かしておくわけにはいかない」。説明口調で分かりやすい。さすが大企業が作った吸血鬼。偏差値が高そうな喋り方だが、秘密裏にというわりに簡単にそれを明かしていいものなのか。たぶんマニュアルがあるのだろう。オリジナルの吸血鬼が負けるわけがない。簡単に蹴散らすが、物陰から同じような量産型吸血鬼が現れる。「一匹いれば10匹いると思え」。まるでゴキブリだ。オチ、大企業に侵入して量産型共を一網打尽にする。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。


登場人物:


・私こと吸血鬼ブラッド・マウンテン:高貴な吸血鬼、あらゆる分野を極める律儀で礼儀を重んじるノリのいい吸血鬼。ナイスガイ。血液型でいえばB型、吸血鬼でいえば保守派。三百年以上生きている。」

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