『宇宙海賊ノスフェラトゥ』~パイレーツ・オブ・ヴァンパイア~
真夜中の東京上空に、ノスフェラトゥの宇宙船「クリムゾン・シャドウ」が静かに現れた。漆黒の船体は月明かりを吸収し、まるで夜そのものが形を成したかのようだった。
船内のキャプテンズ・チェアに深々と腰掛けていたノスフェラトゥは、退屈そうに指先でグラスを弾いていた。グラスの中の赤い液体が波打つ。
「ハァ...」
長い溜め息が漏れる。宇宙の帝王と恐れられるノスフェラトゥだが、最近は単調な日々に飽き飽きしていた。獲物を見つけ、襲い、血を啜る。それの繰り返し。生きて数千年、宇宙を荒らすこと数百年。一体何回血を吸えば満足するというのか。彼自身にもわからなかった。
「キャプテン、東京上空に到着しました」
操縦士のグールが報告する。
「ふん、また同じ星か。前回来たのはいつだった?50年前か?」
「47年と8ヶ月前です、キャプテン」
ノスフェラトゥは立ち上がり、窓から東京の夜景を眺めた。前回訪れた時より、はるかに明るくなっている。高層ビルが林立し、ネオンサインが瞬き、車のヘッドライトが川のように流れていた。
「人間どもはせわしないな。あと数十年経てば死ぬというのに」
彼は黒いマントをひるがえし、乗組員に指示を出した。
「いつもどおり、適当な獲物を5人ほど拉致してこい」
「キャプテン、それでは...」グールが困惑した表情で言いかけた。
「なんだ?」
「いつもと同じでは、キャプテンがお楽しみになれないのでは?」
ノスフェラトゥは一瞬黙ったあと、口元に笑みを浮かべた。
「なるほど。お前も気づいたか。そうだ、最近の吸血はあまりにもルーティン化している」
彼は窓の前で両手を広げた。
「だが、今日からは違う!今回は...」
彼は一呼吸おいて続けた。
「鬼ごっこだ」
「鬼...ごっこ?」
「そうだ。獲物を捕まえて即座に血を吸うのではなく、街に放ち、追いかけるのだ。恐怖で顔を歪めた人間どもを追い詰める快感...それこそ私が忘れていた楽しみだ」
ノスフェラトゥの眼が紅く光った。
「それと、せっかく地球に来たのだ。この星の宝も頂いていこう。東京タワーの頂上にある、レッド・ダイヤモンドがあるはずだ」
「しかし、キャプテン」
副船長のバンパイアが口を挟んだ。
「それには警備が...」
「問題ない。鬼ごっこの混乱に紛れて奪えばいい。獲物の恐怖、狩りの興奮、そして宝の略奪。一石三鳥だ!」
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東京・新宿。終電間際の駅前で、会社帰りの山田健太は友人との飲み会を終え、ふらふらと歩いていた。頭がくらくらする。明日の仕事のことを考えると気が重い。
「タクシーでも拾うか...」
そう呟いた瞬間、彼の前に黒い影が現れた。
「こんばんは、地球人」
ノスフェラトゥだった。長身痩躯、青白い顔に血のように赤い唇。マントをなびかせ、牙を見せて笑っている。
「な、なんだお前は!」
健太は驚いて後ずさった。
「私は宇宙海賊ノスフェラトゥ。お前を鬼ごっこに招待しに来た」
「は?何言ってんだこいつ...」
健太は酔った頭で状況を把握できなかった。
「シンプルなゲームだ。お前は逃げる。私は追う。捕まえたら...」
ノスフェラトゥは舌なめずりした。
「命をいただく」
「冗談じゃない!」健太は叫び、その場から走り出した。
「10秒あげよう。楽しませてくれたまえよ」
健太は命からがら駅の方へ走った。しかし駅は閉まっている。他の方向へ走ろうとした時、彼は信じられない光景を目にした。
空から黒い宇宙船が降りてきて、複数の場所から人々を捕らえていた。そして、彼らをそれぞれ街の異なる場所に放っていく。
「なんだこれは...」
「時間切れだ、地球人」背後からノスフェラトゥの声が聞こえた。
健太は悲鳴を上げて逃げ出した。
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一方、新宿署の警察官・佐藤美咲は非番だったが、緊急呼び出しで署に向かっていた。
「宇宙人?冗談でしょ」
通信で聞いた内容は荒唐無稽だったが、複数の目撃情報があり、署は大混乱だという。
美咲が署に着くと、すでに現場写真が貼り出されていた。黒いマントを着た奇妙な姿の人物。空に浮かぶ巨大な黒い物体。パニックになって逃げ惑う市民たち。
「本当に宇宙人...」
署長が説明する。
「どうやら『鬼ごっこ』と称して市民を追いかけ回しているらしい。すでに5人が行方不明だ」
「それだけじゃないわ」
美咲の同僚が駆け込んできた。
「東京タワーからの緊急通報!レッド・ダイヤモンド展示会が襲撃されたって!」
「なにっ!」
美咲は急いで現場に向かうことにした。パトカーのサイレンを鳴らし、東京タワーへ。
到着すると、タワーの頂上付近に黒い影が見えた。双眼鏡で覗くと、それはノスフェラトゥだった。彼は赤く輝く大きなダイヤモンドを手に持ち、月に向かって高々と掲げていた。
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ノスフェラトゥは満足げに笑った。すでに三人の人間から鮮血を啜り、東京の宝を手に入れた。残りの獲物二人も部下たちが追い詰めているはずだ。
「キャプテン」
通信機から部下の声が聞こえた。
「警察が大量に集まってきています。そろそろ撤退を」
「ふん、つまらん。地球人の抵抗など取るに足らんが、今日はこれで満足だ」
彼はダイヤモンドを懐に入れ、マントをひるがえした。空から「クリムゾン・シャドウ」が降下してきて、ノスフェラトゥを吸い上げた。
船内に戻ったノスフェラトゥは、キャプテンズ・チェアに座り、グラスに今夜の獲物の血を注いだ。
「キャプテン、次の目的地は?」
グールが尋ねた。
ノスフェラトゥは東京の夜景を一瞥し、微笑んだ。
「またこの星に来るとしよう。今度は...パリあたりか。地球人の恐怖の表情は、宇宙で最高の娯楽だ」
彼はグラスを掲げ、鮮血を一気に飲み干した。
「乾杯、地球よ。また会おう」
「クリムゾン・シャドウ」は静かに加速し、東京の夜空に吸い込まれるように消えていった。警察のサイレンが鳴り響く街に、ノスフェラトゥの笑い声だけが残った。
プロンプト
「『宇宙海賊ノスフェラトゥ』。場所は地球の東京。私は吸血鬼。宇宙の帝王。今日も生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う獲物を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。そこで私はこの地球に降り立った。海賊らしくその星の宝もついでに奪う。まさに一石三鳥。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」