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『代打吸血鬼は敬遠だ!』~火炎放射器のようなストレートに気を付けろ!~

 

 薄暗い大阪の路地裏で、私は都会の夜気を満喫していた。血液型でいえばB型、吸血鬼でいえば保守派、名はブラッド・マウンテン。高貴なる不死の存在だが、最近はどこか物足りなさを感じていた。


「毎晩同じような狩りじゃ、永遠の命も味気ない」


 通りすがりの酔っ払いからちょっと頂戴するだけでは、もはや刺激が足りない。かつてのような狩りの興奮、獲物が恐怖に顔を歪める瞬間のあの快感が恋しい。


 そんな時、目に留まったのは路地の角で電話をかけている長身の中年男性。派手な柄のアロハシャツに短パン、足元はビーチサンダルという、完全に季節外れの出で立ち。


「こいつなら面白そうだ」


 私は軽く咳払いをして男に近づいた。


「こんばんは、少しお時間よろしいでしょうか」


 男は私を上から下まで一瞥すると、いきなり激昂した。


「なんや!ワイに何か用か!今忙しいねん、どけ!」


 なんという無礼。私が軽く指を弾いただけで、男は壁に叩きつけられた。


「こういう昭和な人間は身体でわからせるしかない」と私は呟いた。


 男は吉本新喜劇もびっくりのリアクションで地面に転がり、「ぎゃああああ!」と絶叫した。


「ああああああああ!腕がああ!これじゃあ、明日の保育園の土地の権利書を賭けた地上げ屋との野球対決に勝てない。ナイターゲームやからそれまでにワイの代わりを見つけなくては!だが、ワイは元社会人野球のエースピッチャーや!ワイの代わりになる奴なんてそうそういない!」


 痛みに顔を歪めながらも、状況説明は実に丁寧だ。さすが関西人、話の振り方が上手い。


「なるほど」と私は頷いた。


「代わりに私が投げよう」


「なんやてええええ!」


 男は目を丸くした。


「お前、野球できんのか?」


「私が出来ないものなど何一つありませんよ」


 実際、400年以上生きていれば、ベースボールなど子供の遊びのようなものだ。1845年にアレキサンダー・カートライトがニューヨークで最初のルールを作った時から、私はこの競技を見てきた。


「よっしゃ!頼むわ!」


 男は手早く連絡を始めた。


「ワイは田中や!ありがとうな、えっと...」


「ブラッド・マウンテン」と名乗ると、田中は「かっこええ名前やな!」と笑った。


 ---


 翌日、私は約束通り球場に現れた。ナイトゲームは吸血鬼にとって好都合だ。


「おおっ!来てくれたんや!」


 田中が私に駆け寄ってきた。


「こっちのユニフォーム着てくれや!」


 私は差し出された保育園チームのユニフォームを見て、一瞬躊躇した。胸には「みどりの風保育園」の文字と、かわいらしいカエルのマスコットが描かれている。


「これは...」


「どうした?気に入らんか?ガキたちが考えたんや」


「いえ、素晴らしいデザインです」と言って着替えた。400年生きて初めて着るデザインのユニフォームだった。


 対戦相手の地上げ屋チームは全員黒のユニフォームに身を包み、まるで暴走族のような雰囲気を醸し出していた。


 試合が始まると、地上げ屋チームのファンから猛烈なヤジが飛んできた。


「おい!そのピッチャー、顔が真っ白やぞ!日焼け止め塗りすぎやろ!」

「エースが怪我したからって、棺桶から出してきたんか!」

「血でも吸うたろか!」


 最後のヤジには思わず笑ってしまった。図星だからだ。


「流石関西人、フーリガンもびっくりのヤジだ。これほどのヤジはイギリスでも浴びたことがない」


 一番バッターはプエルトリコ系の大男。筋肉隆々とした体格で、バットを軽々と振り回している。


「この日のために雇った助っ人や!」と地上げ屋の親分らしき男が自慢げに叫んだ。


 プエルトリカンは私をニヤニヤと見つめながらバッターボックスに立った。


 私は静かに集中し、400年の経験を込めて一球目を投げた。


「ストライク!」


 球場が静まり返った。160キロを超える剛速球に、誰も反応できなかったのだ。


「ほんまか…藤川の火の玉ストレートより早かったで」

「大谷より早いんとちゃう」


「もう一丁!」と私は呟き、二球目を投げた。


 ボールはプエルトリカンの脇腹に命中し、彼の体にめり込んだ。


「デッドボール!」


 審判が宣告した。


「なんやおまえ!」と地上げ屋の面々が怒鳴り込んできたが、バッターの体にめり込むほどの速球に絶句した。


「うそやん…」

「藤浪のストレートより危険や」


「すまない、力加減を誤った」と私は謝った。本当に申し訳ないと思っていた。人間は脆いのだ。


 以降、私は細心の注意を払って投球を続けた。剛速球、変化球、そして時には目にも止まらぬ超魔球で打者を翻弄した。地上げ屋のヤジも徐々に収まっていった。


 試合は最終回、スコアは0対0のまま。保育園チーム、ツーアウトの場面で、田中が私に声をかけた。


「ブラッド、すまんが打席にも立ってくれへんか?次の打者が足つったみたいでな」


 私はマウンドを降り、バットを手に取った。


「代打、私」


 バッターボックスに立つと、地上げ屋のピッチャーが明らかに動揺している。彼は仲間と相談し、最終的に私を敬遠することにしたようだ。


「敬遠か」


 私は微笑んだ。


「フォアボール!」


 四球で一塁に出ると、田中は盗塁のサインを送った。次の瞬間、超人的なスピードで二塁、三塁と駆け抜け、ホームインした。


 球場が騒然となる中、審判が「セーフ!」と宣告した。


「なんやこいつ!人間やないやろ!」


 地上げ屋たちが抗議するが、もはや時は遅し。


 試合終了のブザーが鳴り、保育園チームの勝利が確定した。


 田中が涙ながらに駆け寄ってきた。


「ありがとう!おかげで保育園が助かった!」


 私はユニフォームを脱ぎ、田中に返した。


「礼儀正しく、律儀なのが私のモットーです。約束は守りましたよ」


 夜空を見上げると、満月が美しく輝いていた。今夜は特別な夜だった。永遠の命を持つ身でありながら、久しぶりに生きている実感を味わえた夜。


「さて、本来の狩りに戻るとしようか」


 私は闇に溶け込むように姿を消した。しかし、今夜は血を吸うのではなく、別の獲物を探していた。大阪の夜に、もっと面白い出会いがあるに違いない。それはきっと、この退屈な永遠の命に、新たな彩りを与えてくれるだろう。


 高貴なる吸血鬼、ブラッド・マウンテンの大阪での一夜は、こうして幕を閉じた。

プロンプト

『『代打吸血鬼は敬遠だ!』。

場所は大阪。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。私は長身の中年大男に声をかける。「なんや!」。男はキレ散らかすが私は簡単に投げ飛ばす。「こういう昭和な人間は身体でわからせるしかない」。男は吉本新喜劇もびっくりのリアクションで吹っ飛ぶ。「ああああああああ!腕がああ!これじゃあ、明日の保育園の土地の権利書を賭けた地上げ屋との野球対決に勝てない。ナイターゲームやからそれまでにワイの代わりを見つけなくては!だが、ワイは元社会人野球のエースピッチャーや!ワイの代わりになる奴なんてそうそういない!」。痛がっているが、状況説明はわかりやすく丁寧だ。流石、関西人は話のふり方がうまい。「代わりに私が投げよう」。男は「なんやってえええ」というリアクションとともに手早く段取りを取った。試合当日、地上げ屋は大声でヤジってくる。(流石関西人、フーリガンもびっくりのヤジだ。これほどのヤジはイギリスでも浴びたことがない)。1番バッターはプエルトリコ系の大男。「この日のために雇った助っ人や!」。地上げ屋は湧き立つ。ニヤニヤしながら私を見るプエルトリカン。私は剛速球で地上げ屋チームを圧倒する。だが、二球目はデッドボール。「なんやおまえ!」。だが、身体にめり込むほどの速球に絶句する地上げ屋。(地上げ屋たちのヤジはおさまったのだが)。スコアは最終回0対0。ツーアウト一塁の場面、「代打、私」。私はバッターボックスに立つ。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。

登場人物:

・私こと吸血鬼ブラッド・マウンテン:高貴な吸血鬼、あらゆる分野を極める律儀で礼儀を重んじるノリのいい吸血鬼。ナイスガイ。」』

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