『寿司ヴァンパイア』~助っ人ヴァンパイアに気を付けろ!~
東京の夜は私のものだ。
人間たちが眠りにつく頃、私の一日は始まる。ブラッド・マウンテン。古き良き時代から生き延びてきた高貴なる吸血鬼。長い年月をかけて多くの芸術、学問、そして技術を極めてきた。
だが最近、少し退屈していた。
毎晩同じことの繰り返し。誰かを見つけ、血を吸い、そして夜明け前に棺桶に戻る。400年も生きていると、さすがにマンネリ化してくる。
「今夜は少し趣向を変えてみようか」
私は銀座の路地裏で獲物を探していた。鬼ごっこだ。逃げ惑う人間を追いかけるスリル。単に血を吸うだけでなく、恐怖に歪む表情を楽しむ余興だ。
そこで目に留まったのは、長身の男。さっそく近づいて声をかけた。
「よい夜だね、君。少し遊ばないか?」
男は驚いて振り返った。
「ん、なんだお前!」
突然の声に驚いたのか、男は後ろに跳んで、不運にも路地の段差に足を取られた。転倒する際、右腕を強く打ち付けたようだ。
「痛っ!」
「大吾!」
一緒にいた女性が駆け寄った。
「大丈夫?」
「ちょっと腕を...」
男は顔をしかめながら右腕を押さえている。
女性は突然、私に向かって怒りをあらわにした。
「あなた、どうしてくれるの!これじゃあ、明日の寿司1グランプリに出られないじゃない!この大会で優勝できないと、お店は寿司天下グループに取られてしまうのよ!」
なるほど、説明口調でよく分かった。どうやら明日は重要な寿司の大会があるらしい。
「すまない、意図せず君を傷つけてしまったようだ」
私は丁重に謝った。
「私にできることはないだろうか?」
男—大吾と呼ばれた彼—はゆっくりと立ち上がり、「いいや...俺が出るんだ。アイツに今度こそ勝って...」と言いながらも、明らかに腕の痛みに顔をゆがめていた。
状況は明白だった。彼はこの状態で寿司を握ることなどできない。
「わかった、私が代わりに出よう」
私は即座に提案した。
「え」
二人は同時に声を上げた。
「私は寿司も極めている。代わりに出場することで、手打ちとしてくれ」
彼らは半信半疑の表情を浮かべたが、他に選択肢はなかったようだ。
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翌日、「全日本寿司1グランプリ」の会場に立っていた。私はネクタイを締め直し、大吾から借りた白い寿司職人の制服を着ていた。
「本当に大丈夫なの?」
大吾の幼馴染、美咲が心配そうに尋ねた。
「問題ない」
私は自信を持って答えた。
「私は江戸時代から寿司を握ってきた。当時の大御所たちとも肩を並べたものだよ」
もちろん、それを冗談だと思った彼女は苦笑いするだけだった。
大会は予選から始まった。全国から集まった300人の寿司職人たちが、5つのブロックに分かれて戦う。各ブロックの勝者が決勝トーナメントに進む。
私のブロックの第一試合。テーマは「創作寿司」。
相手は若手の実力者、山田太郎。彼の「フォアグラと和牛の握り」は確かに美味そうだった。
しかし私は躊躇わなかった。「血のルビー」と名付けた私の創作寿司は、マグロの赤身を特殊な技法で処理し、まるで宝石のように輝かせたものだ。一口食べれば、口の中で溶けるように消えていく。
審査員たちは一斉に目を見開いた。
「なんだこれは!こんな食感の寿司、食べたことがない!」
「まるで、400年の経験が生み出した至高の一貫だ!」
そうだ、その通りだ。だが誰も本当の意味は理解していない。
バトル漫画のように大会は進んでいった。予選を勝ち抜き、トーナメントでも勝ち進む。「先攻不利」という通説を覆し、どの試合でも私は最初に握ることを選んだ。冷たい手で握った寿司は、最後まで鮮度と食感を保つ。それこそが私の強みだった。
準決勝。相手は三代目すし慎。寿司界の若き天才と呼ばれる男だ。
テーマは「伝統の一貫」。
彼の江戸前の技法は確かに素晴らしかった。だが私はもう一歩踏み込んだ。
私が出した寿司を見た瞬間、会場から悲鳴のような歓声が上がった。
「あれは!失われた伝説の握り!」
解説席の老寿司職人が叫んだ。
「江戸時代初期に存在したとされる『月影の握り』!現代に伝わっているはずがない技法だ!」
そう、私は実際にその時代に生きていたのだから。でも、なんでコイツはそれを知っている…まあいいか。
決勝戦。相手は寿司天下グループの総帥、天下大河。
彼の目には勝利の確信があった。
「小僧、ここまでよく頑張ったな。だが、ここで終わりだ」
大会最終試合のテーマは「100貫握り対決」。数だけでなく、最後まで品質を保てるかが勝負の分かれ目となる。
会場は熱気に包まれていた。両者、黙々と寿司を握り続ける。80貫、90貫...
そして100貫目。天下の寿司から、突如ネタが剥がれ落ちた。
「く!私の手の熱で魚の油が溶けてしまった!会場の熱まで計算に入れていなかったせいか…いやお前という好敵手に逢えた心の高ぶりのせいか…」
天下は悔しそうに叫んだ。
対照的に、私の寿司は最初から最後まで完璧な状態を保っていた。吸血鬼の冷たい体温。人間の体温よりも低いからこそ、最後まで油が溶けることはなかった。
「優勝者、ブラッド・マウンテン!」
場内は割れんばかりの拍手に包まれた。
美咲と大吾が駆け寄ってきた。
「やったね!信じられない!」
私は満足げに微笑んだ。
「寿司天下グループとの契約書は破棄されたようだ」
大吾は感謝の意を示そうとしたが、私は手を振って遮った。
「礼には及ばない。久しぶりに楽しませてもらった。それに...」
その夜、私はいつもの退屈な「狩り」ではなく、大吾の寿司店で特別な「血のような赤身」を堪能した。もちろん、本物の血ではない。だが、それはそれで悪くなかった。
時には変化も必要だ。400年生きていれば、そんなこともわかる。
私、ブラッド・マウンテンは、これからも東京の夜を楽しく過ごすことだろう。
そして、寿司の腕前を披露する機会があれば...またいつでも。
プロンプト
「『寿司ヴァンパイア』。場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。私は長身の男を見つけて声をかける。「ん、なんだお前!」。そのとき、男が転んで腕を痛めてしまった。「大吾!これじゃあ、明日の寿司1グランプリに出られない!この大会で優勝できないと、お店は寿司天下グループに取れられしまうわ!」。一緒に居た幼馴染っぽい女性が説明口調で話し始める。「あなたどうしてくれるの!」。男はゆっくりと立つ。「いいや…俺が出るアイツに今度こそ勝って…」。男も説明口調で語り始める。「わかった、私が代わりに出よう」。「え」。私は寿司の大会に出場する。バトル漫画の如く進む大会。バトル料理漫画にありがちな先攻不利をあっさり覆しながら勝ち進める。「あれは!失われた伝説の握り!」。謎の解説役が語り始める。そして、ついに決勝。寿司天下グループ総帥と100貫握り対決をする。熱気がこもる会場。しかし、100貫目で寿司天下グループの寿司がネタから剥がれる。「く!私の手の熱で!」。こいつも説明口調で解説を始める。私は吸血鬼なので手が冷たい、ネタの油が熱で溶けることはなかった。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。
登場人物:
・私こと吸血鬼ブラッド・マウンテン:高貴な吸血鬼、あらゆる分野を極める律儀で礼儀を重んじるノリのいい吸血鬼。ナイスガイ。」