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『クイズ・ヴァンパイア』

 

 深夜の東京。テレビ局から出て歩いていた私は、先ほど終わったばかりのクイズ番組『脳筋バトル!知識王決定戦』のことを考えていた。今夜も優勝。私はテレビタレントとして知られる日本一のクイズ王だ。


「祝勝会に行かないんですか?」と聞かれたが、次の収録に備えて帰宅するつもりだった。


 夜の闇に包まれた路地を歩いていると、前方に人影が現れた。スーツを着た長身の男性。不自然なほど青白い顔に深紅の唇。


「失礼、道を尋ねたいのですが」


 何かがおかしい。この時間にスーツ姿で。そして何より、あまりにも美しすぎる顔立ち。


「どちらまでですか?」と言いかけた私の首筋に、冷たい指が這った。


「クイズ王と噂のあなたにお会いできて光栄です」


 振り返ると、男は不敵な笑みを浮かべていた。その口元から、鋭い犬歯が覗いている。


「ヴァ、ヴァンパイア...!?」


 男は優雅に一礼した。


「ご名答。私はカウント・ブラッドという者です。あなたを食事にいただく前に、少し遊びましょうか」


 逃げようとした私の動きを、彼は軽々と制した。その手は鉄のように強く、冷たかった。


「クイズを出しましょう。答えられれば命だけは助けてあげます。どうです?」


 冗談じゃない。こんな状況で冷静にクイズなんて—


 しかし、考えてみれば吸血鬼の弱点はいくつかある。日光、十字架、にんにく...。そう、朝まで逃げ切れば勝てる。だが今は午前1時。日の出まであと5時間もある。


「他に選択肢はありますか?」


「ないね」


 カウント・ブラッドは笑った。


「だが安心したまえ。私は公平なゲームが好きでね。本当に答えられれば解放しよう」


 結局、従うしかなかった。


「わかりました。受けて立ちます」


 カウント・ブラッドはパチンと指を鳴らした。すると路地の奥から、二人の吸血鬼が姿を現した。一人は19世紀の貴族のような服装の老紳士。もう一人は現代的なスーツに身を包んだ若い男性に見えた。


「では第一問」


 カウント・ブラッドは言った。


「こちらのヴァンパイアと、このヴァンパイアどちらが年齢が上でしょうか?」


 何だこれは。無理ゲーじゃないか。見た目だけで判断すれば老紳士のほうが年上に見えるが、吸血鬼の見た目は当てにならない。若く見える方が実は何百年も生きているかもしれない。


 しかし待て。カウント・ブラッドは「こちらの」と「この」と言い分けた。彼の視点で「こちら」と指したのは、彼から見て近い方—つまり老紳士だ。そして「この」と言ったのは彼から遠い方、若い男だ。


 だが単純すぎる。吸血鬼にとって年齢序列は重要だと聞く。先輩後輩の関係が厳しい田舎のヤンキーや体育会系や関西芸人など比ではないという。彼らは何百年も生きるからこそ、その上下関係は絶対だ。


 そして考えてみれば、このクイズ自体が奇妙だ。なぜ吸血鬼が自分たちの年齢を人間に当てさせる?それは...


「答えは、『こちらの吸血鬼』です」


 私はカウント・ブラッドが指差した老紳士の方を指した。


「ほう、理由は?」


「あなたが『こちら』と言及した方が、もう一人より目上だからです。あなたは敬意を示すために、年長者を先に紹介した。それがヴァンパイアの礼儀というものでしょう」


 カウント・ブラッドは一瞬驚いたような表情を見せた。


「ファイナル・ヴァンパイア?」


 これはクイズ番組での「ファイナルアンサー」のパロディか。状況はシュールだが、クイズ王としてのプライドが邪魔をする。


「ファイナル...ヴァンパイア?」


 私は思わず復唱した。


 絶妙な間の後、カウント・ブラッドは静かに言った。


「正解」


 老紳士は満足そうに頷き、若い男は少し不満そうな顔をした。見事に当たったようだ。


「では第二問」


「え、まだあるんですか?」


「もちろん。一問で終わるほど甘くはない」


 カウント・ブラッドは嗜虐的な笑みを浮かべた。


「第二問。世界最古の吸血鬼伝説が生まれた国はどこでしょう?」


 これは知識問題か。吸血鬼伝説と言えば東欧が有名だが...


「メソポタミア」


「ほう、なぜそう思う?」


「最古の吸血鬼伝説は紀元前4000年頃のメソポタミアに遡ります。シュメール人の粘土板に『エキムー』という血を吸う悪霊の記述があります」


 実は昨日の番組で出た問題だ。偶然にも私はこの答えを知っていた。


「ファイナル・ヴァンパイア?」


「ファイナル・ヴァンパイア」


「正解!」


 カウント・ブラッドは手を叩いた。老紳士も若い男も感心したように私を見ている。


「最後の問題だ。答えられれば約束通り解放しよう」


 彼は私の目をじっと見つめた。


「第三問。なぜ私たちは人間の血を吸うのでしょう?」


 これは知識問題ではない。哲学的な問いだ。いや、もしかして...


「それは...」


 私は思い切って言った。


「あなたたちは本当は血を吸う必要がないからです」


 三人の吸血鬼は凍りついたように動きを止めた。


「何だと?」


「現代の医学では、人工血液や動物の血液で十分に栄養を摂取できるはずです。あなたたちが人間の血にこだわるのは、それが『儀式』だからです。人間への支配、恐怖、そして何より『生きている』という感覚を味わうため」


 カウント・ブラッドの表情が変わった。


「面白い答えだ...」


 東の空が少しずつ明るくなり始めていた。


「ファイナル・ヴァンパイア?」


「ファイナル・ヴァンパイア」


 長い沈黙の後、カウント・ブラッドは静かに言った。


「正解...だな」


 彼は老紳士と若い男に目配せした。二人は静かに頷き、闇の中へと消えていった。


「約束通り、今夜はあなたを解放しよう」


 カウント・ブラッドは私に背を向け、去り際にこう言った。


「だが覚えておくといい。我々は永遠に生きる。いつかまた会おう...クイズ王」


 彼の姿が闇に溶けるように消えた。


 東の空はすっかり明るくなっていた。


 私は震える足で家に帰り、ドアをロックした。誰にも信じてもらえないだろうが、今夜私は本当に吸血鬼とクイズで対決したのだ。


 そして何より恐ろしいのは、カウント・ブラッドの最後の言葉。


「いつかまた会おう」


 次回の対決は、もっと難しいクイズになるだろう。


 その日のために、私はもっと勉強しなければならない。


 次回放送『クイズ・ヴァンパイア』。お楽しみに。


 ---


「...というわけで、新企画『クイズ・ヴァンパイア』はいかがでしょう?」


 テレビ局の会議室で、私は企画書を閉じた。


 プロデューサーは眉をひそめている。


「面白いけど...ちょっと怖すぎないか?ゴールデンタイムじゃ放送できないな」


「深夜枠でどうですか?」


「うーん、検討してみよう。でも吸血鬼の設定、もう少しポップにできないか?」


 私はため息をついた。昨夜見た悪夢があまりにもリアルで、思わず企画書にしてしまったのだ。


 会議室を出た私の首筋に、冷たい風が吹いた気がした。


 振り返ると、窓際に一瞬だけ人影が見えたような...


 気のせいだろう。きっと。

プロンプト

「『クイズ・ヴァンパイア』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇したテレビタレントでクイズ王の私。吸血鬼は私に対してクイズを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局従うしかない。「では第一問、こちらのヴァンパイアとこのヴァンパイアどちらが年齢が上でしょうか」。二人のヴァンパイアが現れた。私は困惑する。(無理ゲー)。こちらといったほうがこの吸血鬼より年上だ。吸血鬼にとって上下関係は重要だ。田舎のヤンキーや体育会系や関西芸人など比ではない。「こちらの吸血鬼です」。私はメタ的な推理で無理げーなこのクイズに対処する。「ファイナル・ヴァンパイア?」。吸血鬼はファイナルアンサーというノリで聞く。「ファイナル…ヴァンパイア?」。私はなんとなくノリで復唱する。絶妙な間とともに「正解」という吸血鬼。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

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